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練り混ぜミキサーを大型化 施工量を2倍にし、3~4バッチで1日の施工量を賄う

NEXCO東日本 横浜新道新保土ヶ谷ICEランプ橋の床版補修工事に『J-THIFCOM』を採用

公開日:2020.09.17

 東日本高速道路関東支社京浜管理事務所は、横浜新道新保土ヶ谷ICEランプ第一橋の床版補修工事に、きわめて薄層(20mm)の補修厚で補修でき、防水工も不要な床版上面補修工法に超緻密高強度繊維補強コンクリート『J-THIFCOM』を採用した。昨年の横浜新道法泉高架橋(上り線)での課題を生かし、練り混ぜミキサーを大型化し、施工量を2倍(12.5㎡→25㎡)にし、3~4バッチで1日の施工量を賄うことができる様に改良し、コンクリートの表面クラックや表層脆弱部を除去するために用いるウォータージェット(WJ)も、前回使った中央部だけでなく、端部の狭い部分や隅角部の施工も可能な機器を開発し、端部の付着性能をより高めることができるようにした。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)


横浜新道新保土ヶ谷ICEランプ第一橋

 同橋は1973年4月に供用された橋長169.8mの鋼2+3径間連続鈑桁橋だ。設計は昭和39年鋼道路橋設計示方書、溶接鋼道路橋示方書などに準拠している。RC床版厚は190mmで、1989年に床版の部分打ち換え、90年に詳細不明だが、床版打替を行っている。しかし近年、床版下面全体に水染みが発生し、特にP8~P9間(下図、NEXCO東日本提供、以下注釈なきは同)は損傷が顕在化している状況であった。また、舗装面には部分的にポットホールが発生し、2019年に全面的に切削オーバーレイを施工したが、その際に床版上面の状態を確認し、広範囲でコンクリートの浮きを確認した。なお凍結防止剤の散布は少なく、影響は小さいとみており、交通荷重による疲労が主な損傷要因と判断している。




床版上面の損傷状況例

床版下面の損傷状況例

 補修にJ-THIFCOMを用いたのは、施工厚が2cmと薄く、強度があり、養生時間が短く、床版防水が不要なため、最小限の夜間通行止め日数で施工可能なことが理由だ。同橋も床版取替を行う予定であるが、施工までの延命化を図る補強工法として最良と判断した。

 対象となる床版補修面積は1,210㎡。施工は1日80㎡弱ずつ16回に分けて行った(最終日に表層のみの切削オーバーレイを実施した)。施工手順は法泉高架橋時と同様である(詳細は同記事参照)が、今回は本線橋ではないため、車線規制ではなく通行止め規制下で施工した。

 まず舗装を切削し、脆弱部を電動ピックなどではつった後、さらにWJで研掃工を行った。WJは回転用のエアモーターで回転するスピンジェットノズルを用いている。15個のノズルを星型に5列に配置し、ノズル角はこころもち外を向けるようにしている。前回課題となったのは、端部の施工であるが、今回は端部10cm幅も無理なくはつることができる小型WJを開発した。元々排水を回収しつつコンクリートの表面を処理する「ハンドアクアブラスト」を改良したもの。隅角部も同機を浮かせることによって、きれいにWJで処理することができていた。


事前工 電動ピックによる手斫り/路面清掃車による清掃(井手迫瑞樹撮影)

清掃後の床版表面(井手迫瑞樹撮影)



ハンドガンタイプのWJで端部と隅角部をまず施工(井手迫瑞樹撮影)



機械タイプのWJで床版上面を表面研掃・脆弱部をはつっていった(井手迫瑞樹撮影)

 

 WJ施工後は、さらにコンクリートが浮いている箇所を人力ピックにて除去し、ガラやノロをバキュームなどで清掃したうえで散水洗浄(右写真)を行い、その後にJ-THIFCOMを敷きならした。打設面は乾燥養生させる必要はない。むしろ水の飽和状態の保持が必要な材料であり、表面が多少濡れている状態が必要であるため、施工前には散水した。

 J-THIFCOMは現場においてセメントや鋼繊維その他を専用の練混ぜ機に投入して製造する。前回、1回あたりの製造量が少なく、打設の手が止まりがちであった反省を生かし、1回あたりの製造量を0.25㎥から0.5㎥に倍増する設備を導入した。膜厚20mmの本現場においては25㎡に相当する。これを1夜間3~4セット製造する。セット数は床版の損傷状況に応じて増減する。同材料で不陸ごと埋めていくため打設の際の厚みに多少差が出てしまうためだ。量が多くなった分、水や混和剤、フレコンバッグの量が増えるため、前回はなかったフレコンバッグの下を切れるような刃が付いたフレコン投入装置を用意し、さらに1つの水タンクに計量済みの水と混和剤を1セットにして一括投入を可能にするなど練り混ぜの効率化に務めた。


練混ぜ機

 J-THIFCOMは、通常硬化型と超早強硬化型の2種類があり、前回同様に、現場での施工時間を短縮するため、超早強硬化型を採用した。同型は敷均しの可使時間が15~20分しかない。しかし、今回は現場条件から、練り混ぜ機から現場まで200mを超える個所もあった。運搬機を2台用いたが、その運用を上手くやらないと、可使時間内の施工が難しくなるため運搬工程を輻輳させずスムーズにバケット内のJ-TIFCOMを打設部に降ろす必要がある。可使時間を少しでも増やすため、今回は「心持ち材料のマトリクスを軟らかめにして製造した」(材料製造二次下請のサンブリッジ)が、ここで課題となるのが、同橋の縦横断勾配だ。


心持ち材料のマトリクスを軟らかめにして製造した/バケットで運んだ(井手迫瑞樹撮影)

 最大勾配は縦断が5.4%、横断に至っては6.0%あり、合成勾配を考慮すれば8%に達する。そのため「柔らかい材料では流れてしまう」(同)ことを考慮し、そうした急こう配箇所においては、流れ止めを作り掻きあげながら施工するなど工夫を施した。不陸は多少生じるが、打設厚が20mm程度と薄いため、舗装で十分吸収することができた。

 施工に際しては、非常に粘りがあることから、敷均しは多少力を要する。打設品質を向上するため、バイブレーション付きレーキで敷均し、左官仕上げや膜厚管理は全て外側か車輪付きの作業構台上から施工する。作業構台は、施工箇所を橋軸直角に跨ぐように配置され、ワイヤーで引っ張る(床版にアンカーを設置して固定)ようにして施工した。打設完了後は、表面に珪砂を巻き、養生剤を散布して、ビニール製フィルムを展開して養生する。次回施工する打継面はワイヤーメッシュを設置しているが、混入している鋼繊維の連続性を確保するため、その補強として設置しているもの。


床版にアンカーを設置して固定(井手迫瑞樹撮影)





J-THIFCOMの施工(井手迫瑞樹撮影)

 1.5時間ほど養生した後、初期強度(24N以上)を確認した上で、養生珪砂を除去した後、プライマー及び舗装との接着用樹脂を塗布した。次いでアスファルトフィニッシャー用の珪砂を撒き、舗装して完成させた。毎回21時ごろから始め、翌朝4時ごろに完了するサイクルで施工した。


プライマー及び接着樹脂の施工(井手迫瑞樹撮影)

 なお次回施工箇所との打継部(約300mm幅)にはプライマーおよび接着樹脂を塗布せず、ワイヤーメッシュを配置してその上に珪砂を多めに撒いて仮舗装し、連なる床版部の施工の際の舗装撤去の手間を軽減している。床版防水に伴う既設床版上面の養生や防水層及びその後の養生が省略できることが、1夜間規制での舗装切削からWJ、床版補修、舗装再設置を完了の実現を可能とした。
 施工に要する人員は元請が10人程度、下請が30人程度。
 今回工事の元請は前田道路。一次下請けはニチレキ特殊工事。二次下請はサンブリッジ(材料練混ぜ)、三次下請のWJはコンクリートコーリング(東京)など。
(2020年9月17日掲載)

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