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潮流、風、冬季波浪の影響受ける全国でも指折りの難しい現場

鹿児島県甑島列島 橋長1533mのPC橋である藺牟田瀬戸架橋の架設が終盤

公開日:2019.03.16

上部工
 上部工は、張出し架設工法で架設することから(架設時仮固定用のPC鋼材を挿入する必要があるため)、下部工の脚頭部から梁部にかけてもPCファブが施工した。


中甑島側端部から下甑島方面を見る(井手迫瑞樹撮影)

上部工断面図(鹿児島県提供)

 最大の高さを誇るP5では円形の脚頭高7.0m、通常箇所でも同2m~2.5mを打設した後に梁部3.0m~4.5mを施工した。


柱頭部の施工(鹿児島県提供)

 張出用ワーゲンの組立や配筋の施工にあたっての資材搬入は、陸上については桟橋からのクレーンで事足りるが海上部はそうはいかない。起重機船を用いて、ケーソンに予め設置された架台の上にタワークレーンを建てて資材を搬入する必要がある。「特にタワークレーンのピンは横から挿入せねばならず精度も高いものを要求されることから非常に難易度が高いものとなった」(コーアツ工業)。


中央部にタワークレーンが見える。コンクリートミキサー船が近づき、固定するのも大変な作業だ
(鹿児島県提供)

 海上部のコンクリートの打設は、直前に鉄筋を丁寧に水洗いして表面に付着した塩分を可能な限り除去した後、陸上部では桟橋上からのコンクリートミキサー車からの圧送、海上部ではコンクリートミキサー船から定置ポンプをリレーした圧送により施工した。
 海上部についてはコンクリートの圧送ポンプが桁打設個所まで届かなかったため架台の上にポンプを設置してリレーした上で所定の位置まで打ち上げた。


海上部の生コン打設(鹿児島県提供)

 仮桟橋部では,上甑島側には生コンプラントが2箇所あったがポンプ車は1台しかないため、その1台を上部工各社が打設工程を調整しながら共有して使用した。
 仮桟橋部のブラケット支保工上での施工は「海面すれすれの工事であり、鋼管矢板にあたって波しぶきも上がるため非常に危険であり稼働時間も限られた。そのため陸上部での通常施工と比べて非常に工期がかかった」(三井住友建設)としている。
 マスコンクリートの初期ひび割れ対策としては温度応力解析を行った上で補強鉄筋を配置し、さらにコンクリート中には収縮低減剤や高性能AE減水剤など混和剤を混入して初期ひび割れの低減を図った。三井住友建設の工区では、これらの対策に加えて配温式パイプクーリングによる打設時温度抑制も行っている。打設時のワーカビリティーと品質確保のためにスランプは下部工で8㎝、上部工で12cmとしている。
 コンクリートの品質確保のためにディテールにも力を入れている。「柱頭部や箱桁部など過密配筋部のコンクリート未充填が怖い」ため、ウエブ面外部は採光性の樹脂製型枠「カタパネル」を使用して養生することで打設するコンクリート内部を見えやすく明るい状態でバイブレーターをかけた。ウエブ内部は木製型枠、隅角及び底版、張り出し部は鋼製型枠を採用して施工している。型枠の損傷防止として,バイブレーターは先端ゴム付きを使用し施工を行った。(三井住友建設)


カタパネルの採用(鹿児島県提供)

型枠配置図/打設順序図(鹿児島県提供)

 柱頭部までの施工後はワーゲンにより順次張出架設していく。巨大な桁高(海上部で柱頭部が9.5m~支間中央部が4.5m。仮桟橋部が同7m~3.5m)に対応するため従来の1.5倍程度の350t・mの耐荷重量を有する大型ワーゲン(図)を採用している。


張出施工(鹿児島県提供)

側径間の施工(鹿児島県提供)

 ブロック長は3~5m(海上部)、2.5~4m(仮桟橋部)、部材厚はウエブが450~900mm、下床版が300~1,000mm、上床版が300mmである。柱頭部の主ケーブルは,54本~100本配置されている。


桁断面:(左)中甑島側桁端部、(右)中央支間部(井手迫瑞樹撮影)

箱桁内部。これでもまた桁高は低い方だ(井手迫瑞樹撮影)

 風が厳しい環境下であるためワーゲンは、ワイヤーを斜めに張り、吊りチャンネルを2重に設置するなど55m/sの耐風仕様で施工している。風の影響を考慮して屋根を付けておらず、よって雨天時には打設できない。(三井住友建設)


ワーゲンおよびブラケット、タワークレーン(井手迫瑞樹撮影)

 海上部では風や波浪の影響で12月中旬~3月中旬まで施工休止期間があるほどで、年間稼働率も最大でも7割程度に留まっている。
 打設1ブロック長に費やす打設日数は仮桟橋部で概ね半月、海上部で概ね1か月に及ぶ。仮桟橋部では全15ブロックの打設が7~8カ月、海上部では全18ブロックの打設が1年半程度かかる予定だ。


仮桟橋部の打継状況(井手迫瑞樹撮影)

海上部の施工状況(井手迫瑞樹撮影)

 なお、桁間のジョイントはモジュラー形式ジョイント、支承は地震時水平反力分散ゴム支承を用いている。


地震時水平反力分散ゴム支承(井手迫瑞樹撮影)

 塩害対策
 下部工の被り厚は90mm以上、上部工の被り厚は70mm以上とした。鉄筋はエポキシ樹脂塗装鉄筋を採用、PC鋼材は主ケーブルでECFストランド、横締鋼材はプレグラウトタイプを採用している。また下部工の一部や柱頭部、定着部には珪酸塩含浸材を採用し、コンクリートを緻密化し、飛沫や飛来塩分などによる塩分の浸透を抑止している。
 床版防水は幅員が6.5mと比較的狭く、長寿命化を考慮し,頻繁な舗装打替えができないことから、高性能床版防水(グレードⅡ)を採用し、「30年程度の長期耐久性を期待する」(甑島支所)。採用に当たっては、床版上面に被覆養生材を用いていることや、ワーゲンの部材跡など後打ちコンクリート部があることから研磨機(ライナックス)などを用いて表面研掃した上で床版防水工および舗装を行っていく予定だ。


橋面には高性能床版防水を施工予定(井手迫瑞樹撮影)

 現在は、A1~P3とP9~P11は架設を完了、P11~A2もA2側径間部を残すのみとなっている。P3~P9は7割程度架設を完了しており2019年度には上部工の架設を完了し,橋面工などを仕上げ、2020年度に供用を開始する予定だ。


現状の施工状況(井手迫瑞樹撮影)

桟橋部の上部工はほぼ完了しつつある(井手迫瑞樹撮影)

 設計は千代田コンサルタント、上部工はコーアツ工業三井住友建設オリエンタル白石ピーエス三菱など。(2019年3月16日掲載)

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