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FRPのため軽量かつ腐食しない 全て桁下から施工可能

IHIインフラ建設と栗本鐵工所が新たな床版延命化工法『FSグリッド』工法を上市

公開日:2023.12.01

 IHIインフラ建設と栗本鐵工所は、ハイブリッドFRP(ガラスおよび炭素繊維)の補強桁を使い、損傷により耐力が低下した既設床版を床版下面から支えて補強する延命工法『FSグリッド(FRPサポートグリッド)』工法を開発した。補強は床版上面の最小限の補修以外、すべて桁下からの作業となるため交通への影響を最小限にできることが特徴だ。IHIインフラ建設は同様の補強工法として既に鋼パネルを補強部材として用いるISパネル工法を保有しているが、ハイブリッドFRPを補強部材として用いることで、単位面積当たりの重量を約半分~1/3に軽量化できるため、現場での補強作業の施工性を格段に向上させることが出来る。また腐食も生じないため、安定的な補強効果も期待できる。さらに鋼部材に比べて製造時および施工時におけるCO2排出量も減少できることから、環境にやさしい工法といえる。曲げ・せん断いずれの補強にも対応でき、格子状のひび割れ(床版損傷の判定区分Ⅱに相当)~ひび割れ網細化、角落ち、スリット化(同Ⅲ)まで幅広く対応可能。「床版取替が必要な程度に損傷が進んだ床版に適用可能」(IHIインフラ建設)であるため「床版を延命化でき、取替までの期間を長期化できる」(同社)。交通規制が難しく上面からの補修や床版取替が出来ない箇所などで大きなメリットを有する工法といえそうだ。(井手迫瑞樹)


FSグリッドの補強イメージ

補強部材は、縦、横桁とも17kg/m程度と軽量
 炭素繊維は強度的に必要な箇所のみに用いる

 FSグリッド工法は、一定間隔で主桁間に配置した横桁の上に、主桁間隔に応じて縦桁を配置して床版からの活荷重を補強桁に伝えて補強する工法である。補強桁はガラス繊維と炭素繊維を用いたFRP製であるが、基本的にはガラス繊維を用いており、炭素繊維は強度的に必要な「曲げによる引張ないし圧縮応力がかかる箇所のみ」(IHIインフラ建設)に使っており、そうすることで補強能力の向上とコスト縮減を両立させている。
 補強部材は、縦、横桁とも17kg/m程度と軽量であり、縦桁は対傾構間隔で変化するが、2m間隔の標準部材で34kg、横桁は主桁間隔に拠るが2.5mの標準部材で40kgと軽く、人力での施工が可能である。実際の施工は足場強度が期待できる箇所では、横桁および縦桁を組み上げた上で人力の油圧リフターで押し上げて設置する。通常の足場であっても、作業員2人程度で横桁配置から縦桁を滑り込ませて設置する作業を手作業で行うことが出来る。


油圧ジャッキ/施工状況/横桁断面

設置されたFSグリッド

床版にかかる活荷重を縦桁を通じて補強部材全体に確実に伝達
 FRPのため腐食が起きない

 横桁は主桁のウェブに鋼製ブラケットを介して、添接板と高力ボルトで取り付ける構造である。しかし、通常の添接板で接合した工法ではFRP側がクリープ変形を起こすことにより、ボルトの軸力低下が懸念される。実際、両社も「設計段階において長期的にはボルト軸力の10%が抜けることを実験により確認」しており、同20%の軸力が仮に抜けても耐えられるよう安全率を設定している。FRP表面に鋼板を接着させると、クリープ挙動が低減できることが報告されており、さらに摩擦接合を成立させるため、FRP板と添接板の間に薄い補強鋼板を設置し、添接板との間でより強い摩擦力(すべり係数)が期待できる構造としている。
 横桁と縦桁の間は普通ボルトで接合している。さらに縦桁上フランジと床版との間は5mmの隙間を開けて、そこにエポキシ樹脂を注入して下面を不陸調整し、床版にかかる活荷重を縦桁により補強部材全体に確実に伝達できる構造としている。

 FRP部材を使っていることで、鋼部材のような腐食を伴う事もない。桁間に設置するため紫外線劣化は生じにくいが皆無ではない、またチョーキング対策なども考えられることから、ふっ素樹脂コーティング及び最上層にGFRPの保護層を設ける対策を施している。

 同工法は、2020年7月に開発を開始し、2021年4月に松井繁之大阪大学名誉教授、中村一史東京都立大学准教授を技術アドバイザーに招いて開発を進め、2023年4月からは輪荷重走行試験を行って性能を検証し、11月に上市した。今後は床版の損傷状態を変えた輪荷重走行試験を行うなどして、さらなる性能向上を図っていく方針だ。

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