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NEXCO中日本 塗膜剥離剤を使用して塗替え

東名矢作川橋 PCB・鉛・六価クロムを含有する既設塗膜17,000㎡を除去

公開日:2023.11.21

 NEXCO中日本名古屋支社豊田保全・サービスセンターは、東名・矢作川橋(上り線)の塗装塗替えを進めている。既設塗膜中にPCB(および鉛や六価クロム)が含有されていることが分かっており、ストックホルム条約(低濃度PCB廃棄期限が定められてる)の期限が間近に迫っていることから、既設塗膜を除去し、塗り替える工事を進めているもの。塗替え対象・面積は同橋のうち過去に補強した際に塗替えを行った箇所を除く、ほぼ全面積約17,000㎡である。これを塗膜剥離剤で3~4回塗布し掻き落とす作業により、既設塗膜を湿潤雰囲気内で確実に除去している。(井手迫瑞樹)


東名矢作川橋外景(NEXCO中日本提供、以下同)

塗替塗装工一般図

既設塗膜 積層数は最大で11層、膜厚は平均で413μm
 塗膜剥離剤『バイオハクリX-WB』を3~4回塗布して掻き落とす

 同橋は橋長365m、幅員約10mの3+3径間連続合成鈑桁橋で、1968年4月に供用された。設計は昭和39年6月鋼道路橋設計示方書・鋼道路橋製作示方書解説に基づいている。1987年に支承改良工事、2004年に桁補強工事、04年に支承取替工事を行っており、同補強・取替部位は1種ケレン相当で既設塗膜を除去済みで、今期の塗替え対象には入っていない。
 補強・取替部位以外の塗替え履歴は、1981および83年、89年に全径間で、05年にP3~A2間でそれぞれ3種ケレンによる塗替えを行っており、積層数は最大で11層、膜厚は平均で413μm(9箇所での塗膜片採取平均)となっている。既設塗膜は下塗りに鉛・クロム錆止めペイント、中・上塗りに長油性フタル酸樹脂塗料が用いられていた。最大では500μmを超える箇所もある。有害物質の含有はPCBが3.8 mg/kg(平均値)、鉛が61,000 mg/kg(平均値)、六価クロムが3,500 mg/kg(平均値)であり、塗膜の劣化や発錆状況はそれほどではなかったものの、PCBが含有されていることから、塗り替えるものだ。


桁下状況

 通常箇所は塗布・掻き落としの繰り返し回数は3回であるが、膜厚が厚い箇所は4回程度やる必要がある箇所もある。ただし、既設塗膜は剥離剤が比較的浸透しやすい塗膜であり、「問題なく既設塗膜の除去はできている」(元請の鉄電塗装)ということだ。

 施工は、塗膜剥離剤を既設塗膜表面にエアレススプレーで吹付け、24時間以上養生した後に掻き落とすという作業を繰り返す。塗膜剥離剤は試験施工の結果、「ダレが少なく、長距離圧送の際の粘性も低いバイオハクリX-WBを採用した」(同)。基本は3回吹付けで1回につき1kg/㎡を塗布した。


剥離材の吹付


掻き落とし状況①

掻き落とし状況②

掻き落としがほぼ完了した鋼材表面

透明シートを用いて照度確保
 各橋脚付近にその非常用足場への脱出口を設ける

 施工の際の安全対策としては厚労省通達に基づき、送気マスクおよび電動ファン付き呼吸用保護具の使用、難燃性シート、防炎シートによる足場内養生、送風機、負圧集塵機の仕様による足場内のプッシュプル換気を行っている。また、火災事故の教訓から電気設備は防爆性能を有した機器しか内部には入れていない。照明設備はヘッドライトしかないが、足場の朝顔の一部(エキスパンドメタル部)に透明シートを用いて明り取りを行って照度確保しており、記者も現場に入ったが、場内は比較的明るくなっている。


換気設備

明り取りの影響で場内は比較的明るい

 また、場内の説明版は全て日本語だけでなく、外国籍の作業従事者の母語(ベトナム語)も併記している。さらに鉄電塗装では、ベトナム語の社内安全・施工マニュアルも別途制作しており、外国籍労働者の施工及び安全性にも配慮しているという事だ。
 同橋は渡河橋であり、火災などが起きた場合A1、A2以外から脱出することはできない。その際にどこにいてもスムーズに脱出できるように足場の北側に人が1人スムーズに移動できる程度の張り出し足場を全長に配置し、各橋脚付近にその非常用足場への脱出口を設けている。


安全対策のためベトナム語を併記

スムーズに脱出できるように設けた脱出口と脱出路

圧送距離は最大で200mに達する
 ブラストも塗膜剥離剤も圧送距離に対応するために工夫

 さて、安全と施工の面で一番難しいのは塗膜剥離剤のエアレススプレーと塗膜剥離後のショットブラストの圧送距離だ。現場は路上規制が出来ないため、圧送用の装置を施工地近くに配置することはできない。足場内には防爆の観点からスイッチを有する機器を入れることが出来ないため、装置はA1もしくはA2という端部に配置するしかなく、圧送距離は最大で200m前後となる。そのため先述の通り、エアレス塗装機に最適な粘度であるバイオハクリX-WBを用いた結果、問題なく施工が出来た。


両端部から塗膜剥離剤を圧送した

 塗膜剥離工は10月初頭から行い、12月末に完了する予定だが、秋と言えども残暑が厳しく、場内の気温は30℃を超える日もあった、そのため1時間に1回程度休憩させるなど熱中症対策には気を使っている。

 来年初頭からはブラスト工に入る。基本的にはオープンブラストで施工するが、これも圧送距離(200mを超える)が長い。ブラスト材はネオブラストを用いるが、施工はともかく、ブラスト材の回収(バキュームホースによる回収)が能力的に厳しい。そのためブラストは、より機械をおくスペースが大きいA1側から4径間、A2側から2径間をそれぞれ施工することで、課題をクリアした。
 ブラスト後は5~8月にかけて塗替え塗装を行う。下塗りは1層目が有機ジンクリッチペイント、2、3層目が変性エポキシ樹脂塗料、中塗り、上塗りはふっ素樹脂塗料で、大日本塗料製を用いている。同橋では垂直補剛材と上フランジの溶接部に応力集中による亀裂が生じており、そうした箇所の部材取替も行うため、工期は来年度末までの予定としている。

 元請は鉄電塗装、一次下請は津島塗装工業、FUJI.BLAST(塗装全般)、ダンテック(点検)。最盛期は元請で4人、下請けで30人程度が施工する予定だ。

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