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落石の危険性のある岩塊表面に防護工施工した上で裏側から除去

NEXCO東日本長野 上信越道北野牧工事 岩塊を10万㎥切り崩していく

公開日:2023.10.12

 NEXCO東日本長野工事事務所は、上信越道北野牧工事として、碓氷軽井沢ICの近くの北野牧トンネル長野側坑口の大規模落石対策を行っている。1996年の豊浜トンネル崩落事故を受け、当時のJHが、改めてのり面を点検したところ、さらに落石する恐れがあるのではないかと懸念された。自然環境下における風化、中規模以上の地震などによる落石リスクを含んでいることを有識者が参加した調査委員会で明らかになったため、岩塊を取り除くための工事を行っているものだ。岩塊撤去量は94,800㎥におよぶ膨大な量で今年度から3か年かけて掘削していく予定だ。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)


現場位置

現場は高さ70mに及ぶ岩山
 くさびブロックを形成

撤去現場の概要
 撤去すべき岩塊は、北野牧トンネルの真上にある高さ70mにも及ぶ岩山である。岩山は500万年前に形成された妙義カルデラの西端に位置している。地質は新第三紀中新世の火山岩類であり、「安山岩質凝灰角礫岩」、「自破砕状溶岩」に分類されるもので、さらに平均傾斜角は約70°となっている。直近230年間で少なくとも2回の落石が発生している他、1783年(浅間山噴火)年以降、震度4以上を8回経験しており。開口亀裂や変質脈、自破砕状溶岩層でくさびブロックを形成していることを確認し、これらを予防保全の観点から大規模に除去することになったものだ。


着手前(NEXCO東日本提供、以下注釈なきは同)

変状詳細

岩盤崩壊のイメージ

東京側 仮桟橋だけで480m超 さらにインクラインも建設
 LIBRA工法を採用 インクラインは親杭横矢板工法を用いて土留め

準備工事(東京側)
 まずは準備工事である(その1工事)から説明していく必要がある。
 東京側には残土搬出、掘削機械の搬入出設備として仮桟橋A(295m)、同B(185m)、同と山頂近くまで到達できるインクライン(151m)を建設した。非常に急峻な地形であること、国定公園内であり、自然環境にも配慮しなくてはならないことからから、現地の地形を切盛土して、桟道を付けていく方法を計画段階では検討した、それをやるにはあまりにも広大な面積を改変しなければ、高低差があり上まで行き着けないという課題があった。そこで、最適案として高低差をとばせるインクラインを採用しそこまでを仮桟橋でつなぐすることになった。


工事計画鳥観図

同平面図

 中でも仮桟橋Aは地形的に急崖箇所が多く高低差も大きい。そうした箇所でも安全かつ迅速に施工できる工法として、LIBRA工法を採用した。仮桟橋Aのピア高は最高40m、支間長は最小で4m、最大8mとした。また安定した地盤まで打ち込むため、打設深さは最大7mに達している。完成には約1年2か月を要した。


仮桟橋工A施工状況①(左から反力ポール設置、上部フレーム地組(中2枚)、上部フレーム架設)

仮桟橋工A施工状況②(左から下杭建込み、ダウンザホールハンマー挿入、上杭建込み、鋼管杭継手部円周溶接)

仮桟橋工A施工状況③(左から支持杭打設、杭頭処理、ブレース材処理、覆工板設置)

仮桟橋工A完成状況

 仮桟橋Bは既設橋梁の真下に位置しており、LIBRA工法のように大きなパネルを回転させることは難しく、従来工法で施工した。仮桟橋Bは約1年の施工期間を要した。


仮桟橋工B施工状況①(左から着工前、鋼管杭打設状況、機械式接合継手施工状況、中詰めモルタル打設状況)

仮桟橋工B施工状況②(左から杭橋脚施工完了状況、受桁設置状況、ブレース材地組状況、同架設状況)

仮桟橋工B施工状況③(左から主桁、対傾構、覆工板、防護柵の各設置状況)

仮桟橋工B完成状況

 次にインクラインの設置である。インクライン自体に厚みがある(桁高は高い側で約5.7m)乗り入れるのは一番上の床版部分なので、それより下にインクラインの桁以下の部分を入れるスペースが必要になる。当初計画ではインクラインの構造の一部が地山に当たってしまうため、その部分を掘り下げる必要があった。

インクライン発進個所の掘削①(左から着工前、親杭打設、掘削、横杭打設状況)

インクライン発進個所の掘削②(左からグラウンドアンカー工の削孔、グラウト注入、テンドン材挿入、同完了状況)

インクライン発進個所の掘削③(左から掘進、シールコン型枠設置、同打設、同打設完了状況)

 掘削は最初に両側を親杭横矢板工法を用いて土留めすることから始めた。そしてその内側を掘削した。さらにインクライン台車を掘削が完了した発進地点で組立てた。完成したインクライン台車の上にクレーンを載せ、そのクレーンを使用して台車の1つ前方のスパン(約4m)に親杭を打設して、施工済みの杭と繋げ、さらに同スパン分を掘削し、杭上に桁レールを敷設して次のスパンの打設・掘削に進むという工程を38スパン分繰り返した。掘削機械はバックフォーとブレーカーを用いたが、その量は3,400㎥に及んだ。


インクライン軌条設備工①(左から横断ブレス、縦断ブレス設置状況、受桁、主桁設置状況)

インクライン軌条設備工②(左からレール設置、同完了状況、杭橋脚支持杭打設状況(中右、右))

インクライン軌条設備工③(左からラクニカンジョイント締込状況、中詰めモルタル打設、トッププレート溶接、完了状況)

インクライン設備工①(左から着手前、水平シーブ、垂直シーブ設置状況、ワイヤ受け架台設置状況)

インクライン設備工②(左からウインチ設置、巻上機設置、下部ストッパー設置、下部フレーム組立状況)

インクライン設備工③(左からサイドフレーム組立、上部フレーム組立用足場設置、上部フレーム設置(フレーム部)同(フロア部))

インクライン設備設置完了状況

長野側 まず人・資材運搬用モノレールを2か月で敷設
 軽量盛土 大型クレーンの設置圧に耐えられる構造

 準備工事(長野側)
 次いで長野側である。長野側の課題は、アプローチと本線が近接していることである。岩塊除去施工中の走行車両への影響を最小限にせねばならず、ましてや岩塊を道路上に落下させるのは以ての外である。
 長野側も急峻な崖地であり、工事用道路を造ることは難しいため、まず人と小さな資機材を搬入する大型モノレールの設置から始まった。県道92号から連なるモノレールの設置距離は410m、最大傾斜角は38°におよぶ。これを約2ヵ月で完成した。モノレールは最大3tまでの人や資機材を搬出入することが出来、仮桟橋や軽量盛土が出来るまでは、このモノレールを使って人や物を搬入出していた。


モノレール軌条設置状況

モノレール台車設置および運用状況

設置距離は410m、最大傾斜角は38°に達する(井手迫瑞樹撮影)

 次いで施工したのが軽量盛土D(延長39m、高さ4.95~7.45m、EPS構造)である。最初に構築した理由は、同盛土を構築する箇所が橋と橋の間の地山から高低差8mであり、人力で発泡スチロールを積み上げれば施工できたこと、同時期は未だモノレールが完成したぐらいで大型重機は使えず、小型重機や人力作業しかできなかったためだ。軽量盛土を構築すれば、上り線の追越車線側を車線規制して、規制に入った車両から軽量盛土に乗り込むことが出来るようになった。そして、その中で大型クレーン(最大は200t)を組み立てた。軽量盛土は大型クレーンの設置圧にも耐えられるよう構造計算した。


軽量盛土工D施工状況①(左から着手前、埋戻しコンクリート、基礎コンクリート打設状況、H鋼支柱建込状況)

軽量盛土工D施工状況②(左から壁面材設置、EPSブロック設置、同完了状況、床版コンクリート打設状況)

軽量盛土工D床版コンクリート打設完了

 軽量盛土の上部は舗装(100mm厚)および路盤材(最低でも200mm厚)で構築されている。また、側面は化粧板で覆い、盛土内の土やコンクリートの剥落が生じないようにしている。


軽量盛土工D上の舗装工①(左から切込砕石路盤工狭小部転圧、同一般部転圧、同施工完了、加熱アスファルト表層工乳剤散布状況)

軽量盛土工D上の舗装工②(左から表層工転圧および転圧完了状況)

長野側 桟橋は約20mに長スパン化
 RoRo支柱とプレガーダー、さらにトラス状の繋ぎ材を採用

 大型クレーンは最初に55tクレーンを組立て、さらに同クレーンを用いて90tクレーンを組み立てた。この2台を使って仮桟橋Dのうち、最初の約20mを構築した。
 その先は、1スパンを約20mに長スパン化した桟橋を構築している。長スパンでは90tクレーンでは届かない。そのため約20m桟橋が出来た時点で200tクローラークレーン(CC)を(EPS+20mの桟橋の上で)組立て、その後200tCCと90tクレーンの2台で基礎のダウンザホール工も含めて施工した。支柱の杭は全てφ600の鋼管杭を用いて施工した。


仮桟橋工D①(左から着工前、段切掘削状況(P3部)、機械斫り状況(同)、機械斫り状況(P6、P7部))

仮桟橋工D②(左から既設コンクリート部コア抜き、同完了状況、人力斫り状況、ラクニカンジョイント接合状況)

仮桟橋工D③(左から鋼管杭打設状況、支持力確認状況、根固めモルタル打設、トッププレート設置状況)

 仮桟橋の構造はRoRo支柱とプレガーダーを採用した。それだけでなく、本桁となるプレガーダーの下部にトラス形状の繋ぎ材を配置した。これはスパンをとばすために用いている通常のプレガーダー桁では水平方向の地震荷重も、作業時の荷重も持たないため桁の補剛として用いているものだ。
 RoRo支柱を用いたのは、仮桟橋下部工においてはブレース材の接続が危険な作業であるためだ。RoRoは下から自分の足場を確保しつつ組み立てることができる工法である。また長スパン化に伴い、フーチングを2列配置しているが、杭を2列にすることによって幅が取れ、RoRoが理想的に成立する断面と判断した。


仮桟橋工D④(上段左からRoRo支柱地組、RoRo支柱設置、下段左から縦断トラス地組、同設置状況)

仮桟橋工D⑤(左から受桁設置、新型PG主桁地組、同架設、覆工板設置状況)

仮桟橋工D施工完了状況

仮桟橋工Dを中段足場から撮影(井手迫瑞樹撮影)

 桟橋を長スパン化した理由は工程短縮である。長野側では桟橋や軽量盛土だけでなく、小規模な岩が崩落しても供用中の車両に影響を与えないようロックシェッドも構築している。仮桟橋Dのスパンを飛ばして下部にスペースを作ることで、ロックシェッドの基礎部分を並行して施工できるようにし、工期短縮を図った。基礎工事は杭だけでなく、若干の土工事もあり、橋脚が多いと重機が動けなくなる。そのスペースを作ったものだ。

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