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リベット1本の打設に必要な時間は僅か2分

川田工業 KMリベット工法をNEXCO西日本の実橋で試験施工

公開日:2023.10.24

 川田工業は、西日本高速道路中国支社管内の椹野川橋リニューアル工事現場で、MKエンジニアリングと共同開発したKMリベット工法を用いた既存リベットの新規リベットによる取替を行う試験施工を実施した。KMリベット工法は高周波誘導加熱法を用いたリベット加熱法とその設備をユニット化したシステムである。リベット1本を1分未満で1,200℃まで加熱することが可能であり、従来のようにコークス炉を常時焚いておく必要がないことから、CO2量やカロリーを削減できる環境にやさしい工法という。さらに施工箇所から1~2m以内に加熱機械を配置できるため、加熱からかしめまで2分程度で素早く施工することが出来た。(井手迫瑞樹)

補修すべきリベット孔の至近に加熱コイルを配置
 運搬時間を短縮し、リベット継手の品質低下を防ぐ

 現在、リベット接合部の劣化箇所を補修する場合は、主に高力ボルトに取り替える例が殆どである。大きな理由として、現在、国内において伝統的なリベットのかしめ技術を有する会社が乏しく、技術の継承が難しいことがある。また従来のリベット打ち換えに用いるコークス炉は安全面や炉の位置を施工箇所至近に動かせないなど施工性の面で留意すべき必要があった。
 高力ボルトを施工するには、リベット添接部をそのまま利用することはできず、孔径や添接板を調整するなど、設計面や施工面においても検討が必要であり、手間を有した。

 同加熱法を施工するシステムは4トンユニックに詰める程度の装置であるため可搬性、移動性に富む。


4トンユニックに詰める程度の装置(井手迫瑞樹撮影、以下注釈なきは同)

 システムは高周波誘導加熱器、水冷装置、実際にリベットを挿入して加熱する加熱コイル、発電機、コンプレッサーなどで構成されている。リベットは、専用の伸縮性架台により加熱コイルの中へ挿入され、高周波誘導により磁界を発生させ、自己発熱させる仕組みであり、リベット以外の燃焼体は無いため、延焼などの事故や煤煙による周辺環境への悪影響を与えることがない。また、頭~軸~先端の部分までが均一に、打ち込みに必要な1,200℃程度まで1分程度で加熱することが可能で、かつ従来のリベット工法と同等の性能を有している。らせん状の加熱コイルの内部には水冷機から水を供給しており、過熱などによる事故を防いでいる。
 加熱後はすぐに架台にある加熱されたリベットを、火ばさみでつかみ、リベット孔に挿入し、専用のかしめ機で施工することが可能だ。


加熱コイル/打ち込みに必要な1,200℃程度まで1分程度で加熱することが可能

 同工法は延長ケーブルにより、発電機~高周波誘導加熱装置・水冷機~加熱コイルまではそれぞれ20m離すことができ、最大で40m伸ばすことが出来る。そのため、補修すべきリベット孔の至近に加熱コイルを配置でき、運搬時の事故や運搬時間が長くなり冷却されることによるリベットの温度低下、それによるリベット継手の品質低下を防ぐことが出来る。

施工箇所となった添接部と加熱コイル間の距離が1m程度しか離れていない
 今回の施工では34本を2時間程度でかしめが完了

 今回試験施工した現場では、まずリベットの撤去から始めた。グラインダーとアトラエースでリベットの頭を飛ばした後に、軸部をハンマーにて落としていたが、しっかりと孔内に充填されているリベットはハンマーでの叩き落としにかなりの時間と垂直に叩く技能者の熟練性が要求されるように感じた。撤去を容易にする手法を開発すれば、さらに迅速な施工が可能になるだろう。さらにその後、上面の添接板を取替えてリベット打設の準備工を完了した。


リベット頭部の損傷状況/添接板は比較的きれい/孔部の錆は殆どない

既存リベットを落とす作業は人力だ(左、中)/撤去した既存リベット(右)

 リベットの打設で特徴的なのは、施工箇所となった添接部と加熱コイル間の距離が1m程度しか離れていないことだ。この距離感の短さは施工性の効率向上に大きく寄与しており、1本を約2分、インターバル含めると3分という迅速な施工が可能となった。リベットの打込み作業のみにピックアップすれば、今回の施工では34本を2時間程度でかしめが完了出来た。なお、この時間にはリベット撤去や加熱コイルの配置など、準備にかかる時間は含まれていない。


挿入して/かしめ機で打つ(川田工業提供)

裏当て/かしめ状況(川田工業提供)

 施工に係る人数はコイルを温める人員1人、かしめ施工で3人と合計4人としている。いずれも特殊な技術を有しておらず、それでもスムーズな施工を行うことが出来ていた。

リベットの性能は基本的に支圧せん断接合の強度を期待
 過去の実験時には部材降伏強度の70%程度の軸力が導入

 打ち換えたリベットの性能は基本的に支圧せん断接合の強度を期待している。これまで幾つかの大学との共同研究により、リベットの【かしめ】機構と温度や材質に着目した解析的研究、継ぎ手としての強度に関する実験的研究が行われている。それらの研究の結果、打ち込んでリベットが冷却した時に軸力が導入されるが、過去の実験時にはいずれのリベットも部材降伏強度の70%程度の軸力が導入されていることが判っており、今後はこうした軸力の影響が余剰耐力と見なすことができれば、施工本数の削減など、設計や施工効率の向上も期待することが出来そうだ。


リベット施工完了状況(川田工業提供)

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