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全長304m、面積3,655.2㎡に達する床版取替を実施

NEXCO西日本 沖縄道許田高架橋 最大10%の横断勾配で床版架設機を用いる

公開日:2023.05.18

 NEXCO西日本九州支社沖縄高速道路事務所は、沖縄自動車道の北端に位置する許田高架橋(上り線)の床版取替工事を実施した。同橋は土工部を挟んで橋梁が分離しており、2023年1月から4月に施工したのは北側(名護側)の橋梁で、橋長304mの全区間、床版取替面積は3,655.2㎡に達した。さらに、曲線橋で最大10%の横断勾配、同2.9%の縦断勾配を有し、国道58号と並走および交差していることから厳しい現場条件のなかでの施工となった。

縦断勾配2.93%~0.5%、横断勾配6.17%~10%を有する曲線橋
 鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は最大で1.46kg/m3

 同橋(北側)は、昭和47(1972)年道路橋示方書に基づき設計され、1975年に供用された橋長304m(総幅員12.57m~13.29m、有効幅員9m)の鋼(2+3+2+3径間)連続非合成鈑桁橋。平面線形はA=180~R=350、縦断勾配は2.93%~0.5%、横断勾配は6.17%~10%で、斜角は90°である。同橋は許田ICから国道58号に接続するランプ橋となっていることから、国道58号へ向けて下り縦断勾配を有し、曲線橋で中央分離帯側への下り横断勾配と視距拡幅を有している。宜野座IC~許田IC間の2021年度断面交通量は約16,900台/日となっている。


許田高架橋 一般図 ※拡大してご覧ください。(NEXCO西日本提供。注釈なき場合は以下、同)

(左写真)A1側から(右写真)A2側から。曲線橋で縦横断勾配を有していることが分かる

 建設時の床版はグレーチング床版で、厚さは210mmとなっていた。1975年の沖縄海洋博覧会の開催にあわせて建設されているが、当時はコンクリート中の塩分総量規制前で、海砂が充分に脱塩処理されていない状態の内在塩分量が高いコンクリートが使用されていた。さらに、同橋は「沖縄自動車道のなかでも海に一番近い箇所に架橋されており、飛来塩分の影響を受ける環境にある」(NEXCO西日本)。海から同橋までの距離は約50mしかなく、塩害対策区分はS区分となっている。


海に近接している同橋。A1~A2間が今回施工した北側。(弊サイト掲載済み)

 このため、既設床版に塩害と推測される劣化が生じ、過年度には床版上面および下面の断面修復やIBグレーチング床版の鋼製型枠撤去などの対策を行ってきた。床版上面は数回にわたる補修により比較的健全な状態となっていたが、下面では補修後も剥落、ひび割れ、鉄筋露出が確認され、とくに中央分離帯側の張出床版での損傷が顕著であった。鉄筋近傍の塩化物イオン濃度は最大で1.46kg/m3に達し、1.2kg/m3以上の箇所も複数確認されたことから、さらなる劣化の進行が懸念された。これらのことから、床版全面3,655.2㎡を取り替えることとした。


床版下面の損傷状況

既設床版撤去はクレーン、新設床版架設は架設機を用いて両開きで施工
 架設機は車輪により橋軸直角方向への移動が可能

 本現場では、既設床版の撤去は75t吊ラフタークレーン2基、新設プレキャストPC床版の架設は全断面床版架設機2基を用いて、P4~P5の中間付近からそれぞれA1側とA2側に向けて両開きで施工した。床版架設機を採用したのは国道58号が並走しているため、クレーンで全断面の新設床版を旋回させて架設することが不可能だったからだ。


床版架設施工概要

床版架設詳細ステップ図

 床版架設機は、前年度にオリエンタル白石・日本橋梁JVが施工した同橋(南側・上り線)の床版取替工事と同じものを使用している。次年度以降に予定されている「下り線の床版取替工事でも同機を採用する計画」(NEXCO西日本)だという。
 構造は、吊上げ装置を設置した主桁を前後4本の門型支柱脚と先端サポートで支持するもので、その大きさは橋軸方向約26m×橋軸直角方向約3.9m×高さ約7m、重量は約30tとなっている。


本工事で採用した床版架設機

床版架設機構造図

 特徴は、支柱脚下部に設置した車輪で移動することだ。曲率の大きい本現場では、「架設機の先端を床版の中心に合わせて据えることが一番のポイントになる」(施工者のピーエス三菱)。直線のレール上を車輪で移動する機構では架設機がレールの接線上にしか向かず、所定位置に据えることが困難なため、橋軸直角方向への位置調整が可能となる車輪で移動する機構としたのだ。
 橋軸直角方向の位置調整は、支柱脚下部の鉛直油圧ジャッキにより架設機全体をジャッキアップして盛替えたうえで、車輪を横に向けてジャッキダウン後に移動する形で行っている。これにより、曲率に合わせて細かな調整を行いながら架設機を所定位置に据えることを可能とした。


架設機は車輪で移動する機構とした

架設機はチルホールと控え用ワイヤーを用いて慎重に移動
 架設初日には移動だけで約6時間を要する

 中央分離帯側へ最大10%の下り横断勾配になっていることも課題となった。架設機の組立時に勾配調整金具を支柱脚に設置することにより、中央分離帯側の支柱脚を若干高くし、断面に対して機材が水平になるようにして安全性を確保したが、移動時と架設時の横滑りや転倒の可能性も考慮しなければならなかったのだ。そのため、チルホールと控え用ワイヤーを用いて慎重に移動を行い、架設時には先端ポールで支持し、支柱脚をジャッキで固定したうえで、後部はトラワイヤーを張ってフェイルセーフとした。
「架設そのものよりも移動に苦労し、時間を要した」(ピーエス三菱)という。架設初日には新設床版5枚を約3時間で架設したが、架設機を約40m移動させて所定位置に据え付けるまでに約3時間、翌日の架設に備えて後退するために約3時間かかり、移動だけで合計約6時間を割かなければならなかった。施工が進むにつれて移動時間は短縮できたが、それでも前進と後退で合計約3時間をかけている。「最大10%という勾配での架設機の使用はこれまで経験したことがなかったので、安全に移動させるために時間がかかって大変だったが、万全を期して施工した」(ピーエス三菱)。架設機の走行能力が毎分4mであったことを考えると、いかに曲線と勾配対応が困難だったかが分かる。


架設機の移動。(右写真)橋面上にはゴムで養生した上に勾配調整板を設置した

既設床版は1日あたり2班で20枚を撤去
 新設床版はS区分対策としてかぶり厚70mmを確保

 施工は、前述のとおりP4~P5の中間付近から両開きで進めている。舗装切削後、路肩側の壁高欄(中央分離帯側はガードレール)を鉛直方向にワイヤーソーで切断し、クレーンで吊上げ橋軸方向をカッターで切断して撤去した後、既設床版の切断を行った。切断(撤去)サイズは床版全幅を2分割し、橋軸方向2m×橋軸直角方向7.2m(12.5t)および4.2m(5.2t)とした。


壁高欄の橋軸方向の切断と撤去(左側2枚)と既設床版の切断(右側2枚)

 既設床版切断後の1日の標準工程は、昼間に既設床版の剥離、撤去、既設鋼桁上フランジのケレン・防錆処理、シールスポンジの設置を行い、夜間に架設機の移動と架設箇所への設置、新設床版の輸送・搬入と架設、架設機の移動(後退)となっていて、午前1時から3時頃までには作業を完了している。
 既設床版は75t吊ラフタークレーンを用いて、1日あたり2班合計で20枚(床版全幅換算で10枚)、総数326枚を撤去していった。


既設床版の撤去

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