千代田区は、神田川渡河部に架かるお茶の水橋と後楽橋、日本橋川渡河部に架かる雉子橋の補修補強を進めている。いずれも関東大震災後の復興に伴い架けられた橋梁で、昭和40年に東京都から千代田区に移管されたものだ。お茶の水橋は既に耐震補強を終え、床版の補修などを行っている。また、後楽橋は、鋼材の補修や変形部材の取替の他、塗装の塗替え、歩道床版の勾配を緩和するための床版の取替を行う。雉子橋は現行基準における耐震補強工法の検討の際、鉛直材を大きく補強しなくてはいけないが、それを回避すべく両端部の橋台に配置された支承の構造を工夫することで、鉛直材への負担を軽減し、補強量を減らす構造としている。3橋とも歴史的な景観を保持することにも努めている特徴的な現場を取材した。最終回は雉子橋にスポットを当てた。(井手迫瑞樹)
雉子橋全景
建設時の示方書は明治19年「道路築造保存方法」 図面は火災で失う
耐震性能 橋軸方向で補剛桁、縦桁、支柱においてNG
雉子橋
雉子橋は、1925年に供用された(製作は東京石川島造船所(現在のIHIインフラシステム)) 、 橋長32.156m、幅員27m(歩道4.5m×2、車道18m)の鋼2ヒンジアーチ橋である。斜角、曲線はない。下部工は重力式橋台。基礎工は木杭基礎であるが、杭径、杭長 が不明なため解析時には直接基礎として考慮した。建設時の示方書は明治19年「道路築造保存方法」である。後楽橋と同様に、図面は火災により失われていた。
同橋を復元設計し、耐震性能照査を施した結果、橋軸方向で補剛桁、縦桁、支柱においてNGが出た 。そのため補強が必要となるが、一方で他2橋と同様、景観を重視せねばならず、見た目はできるだけ変えずに補強することが求められる。また、床版下面は塩害(現場は汽水域となっている) による損傷を受けているため、 その補修も必要となっている。
復元設計した雉子橋の図面
上部工の現況照査結果(左表)と補強後照査結果(右表)
端部支承を工夫することで補剛桁と縦桁の補強を不要に
支柱は形状を変えずに鋼材強度を変えることで景観に配慮
耐震補強は、端部の鋼製板沓を工夫することで補剛桁と縦桁の補強を不要とし、景観への影響を最小限にすることが出来た。具体的には、A1、A2の鉛直方向上向きと橋軸方向の拘束をある程度自由にした。現在の橋座は狭く、作業が出来ないため、以前に縁端拡幅のために作られた拡幅ブラケット部に新たに支承を設置した。ブラケットは沓を設置するためには作られていないため、アンカーボルトを増設するなど補強を行っている。支承は橋軸方向に50mm程度の長孔を開けて動くようにし、鉛直方向はA1で10.3mm、A2で9.6mmの範囲動くようにし、ある程度上揚力を認める設計とした。
補修補強側面図および断面図
雉子橋両端部
補修補強平面図及び橋台補修図
残る支柱は、10主桁とも両端から2、3番目の支柱の列がNGとなった。そのため、景観に配慮して部材形状は同じにしつつ、SS400相当の鋼材をSM490YあるいはSN570材に変更することにした。施工は一本一本、仮設吊り材を使い、荷重を移し替えながら丁寧に行っていく。
床版下面は塩害対策必要
歩道を2m拡幅車道は床版防水を施す
床版の裏面は塩害による損傷が見受けられるため、真空吸着型・ノズル型圧力調整注入工法を用いたひび割れ注入、鉄筋防腐材(亜硝酸リチウム配合ペースト)の塗布による断面修復や、高浸透性コンクリート改質剤を用いた表面改質を施し、場所によっては剥落防止工を施す予定。また、塗装塗替えは桁下の上部の作業については、 鉛など有害物質を含む塗膜を有するため塗膜剥離剤を用いて塗膜を掻き落とした上で 2種ケレンを施し塗り替え、潮位の関係で浸水する恐れがある部分については、レーザーによる塗膜除去を計画としている。
桁下の上部の作業については吊り足場からの作業となるが、潮位の関係で浸水する恐れのある部分については、台船での施工を予定している。
路面については下流側(共立女子大学がある側)歩道について朝夕の通行人数が多くなることもあり、歩道部の幅員を現在の4.5mから6mに拡げる。拡幅は橋全体を広げるのではなく、車線を1つ潰して歩道に充てる。車道部は床版防水工を施す と共に舗装を打ち替える予定だ。伸縮装置 、可携性踏掛板の設置も行う設計としている。
景観もお茶の水橋同様に配慮する。高欄は当時のものに復元するため鋳鉄製の高欄を新たに作る。高欄のデザインは、中間部では格子状の桟、端部は特殊な幾何学的模様の入ったデザイン性の高い桟をそれぞれ復元する。橋側灯も当時のものを復元し、四隅に配置してある親柱は照明を新たに付ける方針だ。加えて舗装も脱色アスファルトを使用するなど雰囲気を持たせる。
現在の親柱と高欄
雉子橋の設計は復建技術コンサルタント。発注は来年以降を予定している。