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お茶の水橋 ただ補修補強するだけでなく、建設当時の景観に戻す

千代田区 お茶の水橋、後楽橋、雉子橋の歴史的橋梁を補修補強①

公開日:2022.12.12

 千代田区は、神田川渡河部に架かるお茶の水橋と後楽橋、日本橋川渡河部に架かる雉子橋の補修補強を進めている。いずれも関東大震災後の復興に伴い架けられた橋梁で、昭和40年に東京都から千代田区に移管されたものだ。お茶の水橋は既に耐震補強を終え、床版の補修などを行っている。また、後楽橋は、鋼材の補修や変形部材の取替の他、塗装の塗替え、歩道床版の勾配を緩和するための床版の取替を行う。雉子橋は現行基準における耐震の際、縦桁部材に損傷する可能性があるが、通常の手法では鉛直材を大きく補強しなくてはいけないため、それを回避すべく両端部の橋台に配置された支承の構造を工夫することで、鉛直材への負担を軽減し、補強量を減らす構造としている。3橋とも歴史的な景観を保持することにも努めている特徴的な現場を取材した。(井手迫瑞樹)

お茶の水橋 床版厚は最大で340mm
 P2~A2の直下はJR中央線や総武線が走り厳しい空頭制限

お茶の水橋
 お茶の水橋は1931年に供用された橋長80m、幅員23.84mの鋼3径間ゲルバー式ラーメン橋(π型ラーメンプレートガーダー(側径間ヒンジ付き))である。下部工は橋台が逆T式直接基礎、橋脚がRC壁式杭基礎構造となっている。直橋で、曲線も有さず、勾配は縦断が1.25%の片勾配、横断は車道部が2%の拝勾配、歩道部が1.67%の片勾配を有している。設計示方書は大正15年「道路構造に関する細則案」に準拠しており、主要鋼材はSS39、鉄筋はSR24を用いている。コンクリート強度は調査の結果20N/㎟であることが判明した。また、床版防水層は、舗装切削時にタールエポキシが過年度、いずれかの時期に設置されていたことが分かった。また、同橋はかつて都電が走っていたため床版厚が大きく280mmから最大で340mmあることが確認されている。

お茶の水橋補修補強工種図

 桁下の状況はA1(湯島側)側は、主に河川敷と道路であり、空頭に余裕があり施工は比較的しやすい。P1からP2間の桁下は神田川渡河部である。一番施工的に厳しいのはP2からA2(神田駿河台側)の間で中央線と総武線の上下線が走っており、そのトロリー架線があることから空頭は極めて厳しい余裕高となっている。

耐荷重は現行12tをT-20まで上げる さらにL2に耐えられる耐震補強も行う
 震災復興時に作られた歴史的土木構造物としての景観を維持

 本橋は現行耐震基準を満たしておらず(現在の耐震力は200gal)、耐荷重も12tに過ぎない。これを耐震力は1,750gal、耐荷重は(現行12t)T-20まで上げる補強を施す必要がある。さらに各種補修や塗替え、劣化した床版上面の補修、高欄や照明の補修や取替も行っていく。その際に重要なことは、他2橋にも共通することだが、震災復興時に作られた歴史的土木構造物としての景観を維持するということである。そのため、開業当初の構造、色彩に近づけるよう心掛けた。また、特に下流側においては、JR線と丸の内線の乗り換え並びに、病院(東京医科歯科大学)への通院などで実に一日約7万人の歩行者が通行することから、下流部のみ車道をいじめて歩道を拡幅することも行っている。

お茶の水橋施工範囲図

 さて、現況の耐震状況を診断した結果、橋軸方向においては、端主桁の耐力、中間主桁の耐力、支承部のアンカーボルト耐力でNGが出た。また直角方向では端柱、中間柱の耐力、支承部(橋台)のピン耐力、アンカーボルト耐力でそれぞれNGが生じた。
 「昔は靭性率という考え方はなく、降伏点耐力以下に抑えることを考えており、余裕のある設計ではなかった。現在の設計は、降伏しても粘り強く変形しながらエネルギーを吸収するという考え方だが、そうした思想はなかった。今回も基本は、降伏点耐力以下に抑えるという補強思想とした」(設計を担当したJR東日本コンサルタンツ・髙木芳光氏)。

桁端に鋼製ブラケットと補強リブを設置 橋台背面の受動土圧で受け止める構造
 ゲルバー ヒンジ部の下フランジのみを連結する形でプレートを設置

耐震補強(橋軸)
 橋軸方向は桁端に鋼製ブラケットと補強リブを設置し、鋼製ブラケット(橋台に当たる箇所にはゴム製緩衝材を設置)を介して橋台に地震時水平力を伝え、橋台背面の受動土圧で受け止める構造とした。補強リブは、鋼製ブラケットが橋台に当たった際、主桁ウェブの座屈を防ぐために設置する。これにより、橋軸方向の耐震性能は満足する結果となった。なお、鋼製ブラケットは、主桁下フランジもリベット孔を利用して、下フランジと共にボルト締めを行い、設置している。リベットではなくボルト締めを行うのは、後に記す後楽橋、雉子橋も同様で、理由は補修した部材と供用した当時の部材を見分けるためである。
 設置に当たっては架線直上にあるA2側については、き電停止から始発の間の僅か3時間を用いて施工を進めた。

鋼製ブラケット設計図


鋼製ブラケット設置状況① (左)リベットの撤去・置換、(右)主桁ウェブ補剛材設置状況

鋼製ブラケット設置状況② (左)鋼製ブラケット設置状況、(右)塗装まで完了した状況

 一方、同橋は側径間にゲルバーヒンジを有している。ヒンジ内にはピン沓がある。ピン支承は、常時はもちろん、地震時も余裕がある解析結果となったが、桁かかり長が不足しており、かつ地震時に浮き上がりが生じる可能性があり、地震時には先行して壊れてしまう可能性がある。そのため。ヒンジ部の下フランジのみを連結する形でプレートを設置した。

P1橋脚ヒンジ部補強詳細図


P1橋脚ヒンジ部補強①(左)連結版、(右)下フランジのみの連結とした

P1橋脚ヒンジ部補強② 塗装を施して完了した状況

 ウェブ連結などをせず、下フランジのみの連結にした理由は「曲げを拘束せず補強するため。曲げを拘束する形で桁連結すると、桁の特性が変わってしまう」(同)。それでは補強量も大きくなるし、沓構造も変わる可能性がある。それを避けるためにプレート連結によって「水平力だけを伝える構造」(同)とすることで、常時は拘束せず地震時のみ同期する構造として3径間全体の地震時水平力を伝えられる構造にした。
 こうした補強方法は鉄道におけるゲルバーヒンジ付きラーメン橋の補強でよく使われているようだ。といっても耐震補強のために行われていたわけではない。ヒンジ部は列車の載荷位置によってはアップリフトが出る可能性がある。それを防ぐために下フランジのみを添接しているものだ。今回その手法を採用したのは、直下にJR総武線や中央線が走っている。そのような施工環境的に厳しい箇所では「連続桁化やそれに伴う橋梁構造の変更による支承交換などは不可能に近い」(同)。
 その点、今回採用した下フランジ連結工法は、鋼製ブラケットと同様に主桁下フランジのリベット孔を利用し、下フランジと共にボルト締めを行い、設置する設計とした。橋軸直角方向の地震時作用力にも耐えられる板厚とボルト本数になっている。また、JR東日本との協議において、P2近傍のG1,G4,G7主桁のゲルバーヒンジ部には、JRの架線が添架されていることから、その移設には費用と工期が膨大になることから、そうした箇所の補強は見送った。

補強に用いるブレース材の量をいかに少なくするか?
 地震時の橋軸直角方向の水平力は床版を介して橋台に伝わるようした

耐震補強(橋軸直角方向)
 橋軸直角方向は「剛性が弱いため、容易に壊れやすい」(同)。現状、力を負担する割合はP1,P2の中間橋脚部が40%強ずつとなっている。橋台部の負担率は10%未満に過ぎない。従ってそのまま工夫しないと、7主桁の各橋脚にブレース材を入れ、さらに両側の最外の橋脚にさらに補強材を取り付ける必要があった。それでは歴史的構造物の景観を著しく損なってしまうし、橋脚は鉄道線路に挟まれる形で存在しており、その施工は細心の注意を払わなくてはならない。そのため補強に用いるブレース材の量をいかに少なくするか? が設計上の課題となった。
 橋脚に作用する地震力を小さくすることが補強量の縮減に寄与することは明らかであり、一方で橋台部(端支点部)は「外から見えづらいため景観はあまり変わらず、下部に架線などもないため、施工もしやすい」(同)という長所も有した。橋台はRCの逆T式であり、余裕があり、橋台にどのように地震力を負担させるかを考えた。そのため別途打ち替える床版を桁上に設置したスタッドと一体化させた(後述)ことによって、地震時の橋軸直角方向の水平力は床版を介して橋台に伝わるようした結果、地震時の橋軸直角方向応力の橋脚と橋台の負担割合を完全に逆転させることに成功し、橋脚のブレース材による補強を最小限(6セットから2セットに減少)にすることができた。ただし、その施工においては列車用防護柵を設置して、いかなる場合にも列車に部材が当たらないように対策を立てた上で施工した。ブレース材の設置は昼間も施工した。

P1橋脚補強一般図


着手前の橋脚(P2)

 一方で主桁端部および橋台部についてはブレース材の補強や支承の補強が新たに必要になった。支承補強は耐震診断において、NGとなった橋軸直角方向の橋台支承のピンとアンカーボルトの破断対策として、両支承ピン同士をつなぐサイドブロック(移動制限装置)を設置した。サイドブロックは単に横につなぐだけでなく、アンカーボルトで橋台につないだブラケットと一体構造となっており、支承に発生する水平力を橋台に伝えられる構造であり、支承の耐震性能を向上させた。

サイドブロック詳細図


サイドブロック施工状況① 左からあと施工アンカー施工/運搬架台組立て/資機材搬入/補強部材小運搬

サイドブロック施工状況② (左)補強部材設置、(中)間詰部モルタル打設、(右)塗装完了状況


P1橋脚部ブレース材補強図


P1橋脚部の耐震補強① (左)横繋ぎ材切断、(中2枚)ブレース材設置状況、(右)横繋ぎ材復旧状況

P1橋脚部の耐震補強② (左)アンカー定着、(中)間詰モルタル打設、(右)設置完了状況

 ブレース材の施工については「橋脚の柱が上に向かって太くなっていく形状のため、ブレース材の取付ベース角度を計算し、現地で実測して修正した上で、さらにリベットの位置などを交わしながら設置する必要があったため、取付精度の確保が難しかったので非常に苦労しながら施工した」(元請の鉄建建設)ということだ。


P2橋脚部の耐震補強① (左)アンカーコア削孔、(中左)リベット撤去・ボルト置換、(中右、右)横繋ぎ材切断

P2橋脚部の耐震補強② (左2枚)ブレース材の取付状況(下部)、(右2枚)同(上部)

P2橋脚部の耐震補強③ (左)アンカー定着、(中左)横繋ぎ材復旧、(中右)間詰モルタル打設、(右)設置完了状況

橋脚補強状況

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