道路構造物ジャーナルNET

首都高速道路・首都高技術との共同開発製品

KFケミカル 箱桁内部などの密閉空間で使用できる水性防錆スプレー「水性サビナー」を展開

公開日:2022.11.07

 KFケミカルは、首都高速道路および首都高技術と共同で水性防錆スプレー「水性サビナー」を開発し、展開している。構造物点検時に発見された鋼材腐食や鉄筋露出の応急措置として防錆スプレーが利用されているが、同スプレーは水性塗料を用いることにより特定化学物質障害予防規則(特化則)および有機溶剤中毒予防規則(有機則)に抵触しないことから、箱桁内部などの密閉空間で使用できることが最大の特徴だ。これまでに首都高速道路における構造物点検、東京都の橋梁補修工事などで採用実績がある。


施工事例①(左:施工前/右:施工後)(KFケミカル提供。以下、同)

施工事例②(左:施工前/右:施工後)

特化則・有機則に抵触せず非危険物の唯一の防錆スプレー
 噴射剤も不活性ガスの窒素ガスを採用して安全性を確保

 既存の有機溶剤系防錆スプレーはエチルベンゼンやトルエン、キシレンなど特化則や有機則における規制対象物質を含有している。そのため、密閉空間や屋内環境での使用にあたっては排気装置の設置や防毒マスク装着、有機溶剤作業主任者の選任などが求められ、狭隘な箱桁内部などの点検業務時の応急措置で使用することは実質的に不可能だった。そこで開発されたのが水性サビナーだ。
 水性サビナーの防錆塗料の主成分は水、エマルジョン樹脂、顔料、添加剤で、特化則の対象物質75種類は一切含有していない。硬化調整用の添加剤として有機則の対象物質であるメタノールとエチレングリコールを使用しているが、その合計含有量は4%以下で規制対象外である(規制対象となるのは5%以上)。このため、有害化学物質の吸引による健康障害発生や有機溶剤蒸気への引火といったリスクを防ぐことができる。また、水性塗料の採用により消防法上の非危険物となり、運送、保管、持ち込み量に制限がなく、危険物倉庫も不要になるという利点も有している。
 塗料を噴射するガスについても安全性を確保するため、不活性ガスである窒素ガスを採用した。一般的なスプレーではDMEやLPGなどの可燃性ガスが用いられており、引火、爆発の危険性があるが、窒素ガスは燃焼、爆発の危険のない安定した物質となっているためだ。

施工時のダレと目詰まりを解消
 窒素ガス採用による課題も検討と試験施工を重ねることで解決

 開発にあたっては施工性の改善にも取り組んだ。既存のスプレーはダレが生じるため、第三者被害防止のため吹き付け後に触診し、硬化したことを確認するまでは作業場所から移動できなかったことから点検作業効率に課題があった。そのため、水性塗料の希釈率(水と塗料の割合)を変えて試験施工を何度も行ったうえで最適な粘度を導き出して、施工でダレが生じないことを確認した。また、既存スプレーは缶内のノズルが目詰まりしやすく、使用期間中に容量すべてを使いきれないという課題があったが、これも粘度とのバランスを考慮した希釈率とすることでノズルの目詰まり発生を抑えた。さらに、噴射する角度によって吐出口の向きを示すガイド(赤点)を缶上部につけて容量すべてを使いきれる工夫も行っている。


噴射角度を示すガイドを付けることで最後まで使い切れるようにした

 水性塗料は噴射ガスとの相性が悪く、とくにLPGなどの液化ガスでは缶内部で塗料がゲル化してしまう。気体である窒素ガスを採用した理由には、安全性とともに塗料との相性の良さもあった。それでも若干のゲル化は避けられず、その処理に「苦労した」(KFケミカル)が、検討を重ねることによりゲル化を防ぐことができた。
 しかし、窒素ガスは液化ガスと比べて圧力が弱く、そのままではスプレーとして使用できなかった。そのため、窒素ガスの容量を増やす検討を行うとともに、缶の内部構造の改良、霧状に噴射できるように噴出口に細かい孔を放射状に配置するなどの対策を行った。なお、噴出口のキャップは塗料が詰まりやすいので、予備を付けて対応できるようにしている。これらの検討や試験施工を重ねることで、水溶性有機溶剤ではなく完全な水を使用している唯一の水性塗料スプレーを完成させることができた。


火に向かっての噴射実験。塗料もガスも引火、爆発しないため鎮火する

1本(100ml)で0.3㎡の塗布
 防食性能は土木鋼構造物に適用される防錆試験を実施し評価

 施工は、塗る面と噴射口の間隔を20~30cmとり、一度に厚塗りをしないで2~3回塗り重ねするだけだ。推奨塗膜厚は40μmで、水性サビナー1本(100ml)につき0.3㎡の塗布ができる。乾燥時間は約30分(20℃)となっている。容量は100mlと少ないと思われるかもしれないが、既存スプレーには液化ガスの容量も含まれているので、塗料としての量はほぼ変わらないという。また、既存スプレーは塗料と液化ガスの混合物が噴射されるが、水性サビナーは噴射される液体がすべて塗料なので、塗着しやすくなっている。


缶容量のイメージ図

 防食性能については、構造物の点検に用いる防錆スプレーの要求性能に関する規定はないが、防錆性能試験、付着性能試験、密着性能試験を実施して、いずれも満足する結果が得られている。防錆性能試験では、複合サイクル腐食性試験を実施し異常がないことを確認した。


複合サイクル腐食試験結果

 付着性能試験(JIS K 5600 5-7 プルオフ法)では試験体3ピースの平均付着力が3.13MPaとなり規定値を満足、密着性能試験(JIS K 5600 5-6 クロスカット法)でも剥がれなしという結果になった。さらに、45℃の高温状態に本製品を置き続ける貯蔵安定性試験を実施、1年以上の性能維持を確認し、現在も継続中である。

 KFケミカルでは本製品の活用を地方公共団体などに働きかけていく方針だ。

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