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元請はヤマダインフラテクノス 本四高速の施工マニュアルに準拠

NEXCO中日本 名港西・東大橋など4橋でTRSを用いた鋼床版補修を実施

公開日:2022.08.24

 中日本高速道路名古屋支社は、伊勢湾岸自動車道の名港西大橋(上、下線)、同東大橋(上下線一体構造)、潮見高架橋(上、下線)金城高架橋(上り線)の4橋で詳細調査及び鋼床版の補修工事を行っている。中でも名港西大橋(上り線)は詳細調査が完了し、補強工数が固まっていることから先行して鋼床版の補修工事に入っている。同現場ではNEXCO3社で初めてTRS(スレッドローリングスクリュー)による鋼床版の補修を行っている。本四高速などでは施工事例があり、施工マニュアルも作成していることから、同マニュアルに準拠する形で施工した。また、施工前には実物大の供試体(写真-TRS試験体)を作成して、試験施工した上で本番に臨んだ。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)


実物大試験体/TRS

断面交通量は91,000台、大混率は34.85%に達する
 鋼床版は12ミリ厚のUリブ型であり、疲労損傷は惹起しやすい状況

 名港西大橋は橋長758m(176.5+405+176.5m)の3径間連続鋼斜張橋(鋼床版多室箱桁)である。上り線(1期線)は有料道路名港西大橋として1985年3月に暫定2車線対面通行で、下り線は1998年3月に供用された。同橋ほか3橋を含む名港中央~飛島間の断面交通量は91,000台に上り、特大を含む大型車交通量は34.85%に達している。一方で、適用基準は上り線が昭和55年道示、下り線が平成2年道示であり、鋼床版は12ミリ厚のUリブ型であり、疲労損傷は惹起しやすい状況といえる。実際、同社でも損傷メカニズムについて、大型車などの大きな輪荷重が載荷された場合に発生する局部応力が、構造上の応力集中部や溶接ルート部などに繰り返し作用し、き裂が発生したと推定している。

 

全体ではDR2が61%と鋼床版の損傷の3分の2近くを占める
 第1車線に至ってはDR2が94%に達する

調査工
 調査工は名港西大橋上り線で9,475㎡、名港西大橋(下り線)10,422.5㎡、同東大橋主塔間11,481㎡、金城高架橋上り線5,805㎡、潮見高架橋8,577.2㎡で行っている。
 調査はまず、塗膜割れが確認された箇所およびき裂が予想される箇所の近接目視を行う。その上で、必要な箇所については詳細調査として磁粉探傷試験を行い、き裂の状況を確認した。き裂が見つかった箇所は2mm切削除去を行い、き裂の原因を除去した。


目視点検とMT損傷

き裂のケレン

 その結果、調査工が完了した名港西大橋上り線は、損傷が第一走行、第二走行車線(いずれも上り線)に結構出ていて、損傷割合は第一走行が43%、第二走行が32%となっており、追い越し車線は25%であった。第一走行車線の内訳では、一番多く出ている損傷はDR2(横桁とUリブの付け根に生じたき裂)で、これが94%と全体の9割以上を占める。次いでFR2(デッキプレートとUリブの溶接部のビード進展型き裂で横リブを跨がないもの)が6%である。
 第2走行では、DR2が94%、FR2が6%となっている。


DR2のき裂状況

FR2補修詳細図

DR2補修図面

 名港西大橋全体では408箇所の補修対象き裂が見られ、全体内訳ではDR2が61%、BAが17%、FR2が12%、FR3が2%、その他が58%となっている。
 調査は、より確実に近接目視を行うため、中段足場を組んではばらすということを繰り返しながら調査を進めている。現在、調査はすべて完了しており、4橋全体で1844箇所のき裂が発見され、各き裂に対して補修工法の検討をおこない、補修工法が決定した箇所に関しては、き裂除去、ストップホール、スカ―ラップ、当板補強などき裂の部位、長さに応じ、それぞれの補修を実施しているところである。

TRS 如何にまっすぐ打ちこんでいけるか
 施工精度は補強の成否を左右

 TRSの施工上の注意点は如何にまっすぐ打ちこんでいけるかだ。「斜めに打ちこむと不具合を生じる」(NEXCO中日本)であり、その施工精度は補強の成否を左右する。そのため現場では固定治具を使って直上に打てるような工夫を施した。(写真-試験体-マグネットによる当板仮設置状況)当て板は、マグネットを用いた治具で留めた状態で、デッキ面やUリブ面の罫書を行い、一旦取り外した後、外側から2か所または3か所目にφ7.5mmあるいは11.5mmの孔を開けて再度当て板を設置し、φ8あるいは12mmのTRSで仮固定する。



試験体を用いて事前に試験施工

 TRSは、当て板の端部からデッキプレート側とUリブ側を交互に施工する。母材の削孔は当て板のボルト孔をガイドに小型磁気ボール盤を用いて施工した。とりわけデッキプレート部の削孔は、突き抜けによって舗装面に影響を与えないように深さ12mmで止まる切り刃を用意して施工した。またTRSはあらかじめ長さを20mm(母材12mm+当て板8mm)とし、材料の側でも突き抜けを起こさないようにしている。Uリブ内については削孔によって生じた切粉が悪影響を与えないように磁石を用いて適切に撤去するようにした。削孔後はワイヤーブラシにより孔内を清掃し、その上で最大締め付けトルク250N・m程度のインパクトレンチを使用してガイドパイプ(マグネット固定+導線を確保できるような治具)を用いて母材や当て板に対して垂直度を確保するように施工した。


孔明け施工/使用する当て板


TRS施工状況①

TRS施工状況② マグネットで固定

TRS施工状況③ いかに垂直に施工するかがカギ

ワンサイドボルトの施工

鋼床版補強例(左)デッキはTRS、リブはワンサイドボルト1段、(中)デッキはTRS、リブはワンサイドボルト2段、(右)両方ともTRS

 また、Uリブ内側への施工についても、高力ボルトではなく、TRSあるいはワンサイドボルトを活用した。ビード貫通き裂のうちビード内にき裂が収まっているものについては、コーナープレートの上向きも横向きもTRSを用い、Uリブまで進展したき裂の補修に対しては上向きにTRS+横向きにワンサイドボルト1段もしくは2段としている。
このような補修を施した上で、最終的に外面については変性エポキシ塗料による防食を施す。その際、TRSやワンサイドボルトの施工品質を確認できるように、塗装実施後にマーキングを実施した。

 名港西大橋上り線の鋼床版補修は7月末に概成し、今後は残る橋梁の調査、それを踏まえた設計、補修を進めていく予定だ。人員は足場の設置および点検には1日最大30人ほど、塗装およびTRS・ワンサイドボルトを用いた補修工は1パーティー(3人)を投入し、1日1~2か所程度ずつを施工していった。

 元請はヤマダインフラテクノス。
 一次下請けは非破壊検査工がエム・キュービック、ダンテック。足場製作・解体工は鉞組、大煌。ゴンドラ・部材揚重はアイチ建運。当て板の製作、施工は村瀬工業。

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