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桁下の鉄道に配慮し足場を構築 塗膜剥離は循環式ブラスト工法を採用

滋賀県 JR在来線・新幹線を跨ぐ米原跨線橋のトラス塗替え

公開日:2022.08.02

 滋賀県長浜土木事務所は、JR北陸本線、東海道本線、東海道新幹線など鉄道の大動脈を跨ぐ箇所に架かる米原跨線橋の補剛桁を除くトラス部の塗替工事(2,200㎡)を進めている。同橋は1965年に旧米原町(現米原市)道として供用し、2007年に滋賀県管理となって以来、初の塗り替えとなる。いかに、直下を走る鉄道や通行車両への影響を抑えながら施工しているか、現場を取材した。(井手迫瑞樹)

直下に東海道新幹線とJR東海道本線・北陸本線
 足場の架設は鉄道会社の現場立会が必要

 同橋は1965年に供用された鋼2径間連続下路式ワーレントラス橋(鋼重は412.8t)である。当時の橋梁製作は川田工業。橋長は151.220mで、径間長は75mずつと等間隔になっており、大きく分けて西側に東海道新幹線の高架、東側に在来線の線路が配置されている。中間部の橋脚は在来線の中間に立っている。架線とのクリアランスは特に新幹線高架部において厳しく、桁下に足場を作る際はそうした点への配慮も必要となる。さらに、トラス部に足場を作る際の資材の落下を防ぐため、足場設置作業中においては俯角75°の外へ不用意に資材を出さないことが求められ、作業前にはJR(西あるいは東海)による現場立会も必要である。

米原跨線橋(井手迫瑞樹撮影、以下注釈なきは同)

トラス桁部の損傷は比較的軽微
 補剛桁や床版の損傷は比較的酷い箇所も散見

 さて、同橋の損傷状況である。同橋は「凍結防止剤散布路線」であるが(同事務所)。上部のトラス構造は、塗膜劣化が生じているものの、錆などはほとんど散見されない。下部のコンクリートに埋まっている根元部分も一見したところ、ひどい錆や腐食などは生じていない。ただ、土砂溜まりや雑草が茂っている箇所もあるため、そうした点へのケアは必要となる。
 一方で補剛桁及び床版は錆が進んでいる箇所が見受けられる。床版は下面に鋼製の埋設型枠(キーストーンプレート)を用いているが、それが一部腐食をしている箇所が散見される。また、排水桝周りやジョイント(あるいは床版打ち継ぎ?)の目地部から生じた水が伝って、主桁や対傾構の一部に腐食をもたらしている箇所もあった。また、2020年の7月末には長さ80cm、幅5cm程度のコンクリート破片1個が桁下の鉄道敷地内に落下するという事案も生じている。ただし2009年度にコンクリートコアを採取し、調査した結果では、圧縮強度適正、中性化進行ほぼ無し、さらにコア外観から床版(RC)は健全と判断していた。設置時期は不明だが、アスファルトシート系防水を設置しており、床版上面にも目立った損傷はなく、さらに2021年度にはアスファルト塗膜系の床版防水を再設置するなど対策を施している(補剛桁や床版に関する対策は後述)。


床版や対傾構、桁の一部で漏水により損傷が生じている

全体を6ブロックに分けて施工
 風荷重を考えて足場は同時に2ブロック分のみ設置

 施工は全体を6ブロック(1ブロック当たりの施工延長は約25m、塗替面積は約360㎡)に分けて行うが、足場は同時に2ブロックしか設置しない。これは1965年に供用された橋で、かなりスレンダーな構造を有していて、風荷重により構造物の損傷を招く可能性があるためである。


全体を6ブロックに分けて施工した(滋賀県提供)

 塗替え施工は塗膜中に鉛分など有害物質の含有が確認されたことや直下に鉄道線路を有するため、トラス部を養生板およびシートで完全に覆い、その上でブラストによる塗膜除去と素地調整さらには塗替えを行っている(既存塗膜厚は約200μm)塗膜の除去に際しては、廃棄物量を極小化しつつ、施工を効率的に行うため、循環式ブラスト工法(研削材はSUSグリッド)を採用した。格点部など一部の閉断面箇所のみ塗膜剥離剤(ネオリバー泥パック)により掻き落とす工法も採用した。


循環式ブラスト施工状況①(滋賀県提供)
研削材はSUSを使用した/回収して再利用することで廃棄物量を大きく削減できる(滋賀県提供)

鉄道俯角にも配慮しつつ、大型車が通行できる2車線の確保も必須
 車道幅員は1車線3mを確保するため足場幅を狭く 歩道は全面通行止めに

 足場は車道及び鉄道の交通に最大限配慮しつつ、施工面での快適さも追及した造りとなっている。まず、「JRからは、足場の倒壊などによる鉄道への影響を極力避けるため、足場を可能な限り車道側に入れられないかと要望を受けた。」(施工業者の鳥羽建設)。しかし、同橋の東側には国道8号(中山道)さらには北陸自動車道や名神高速道路のアクセス拠点となる米原ICがあり、西側には国道8号米原BPがある。それらを結ぶ橋梁として「重要度は非常に高く、交通流は間断無い中、足場を車道側に入れ、片側交互通行規制を行った場合、大きな渋滞が発生する可能性が高い」(長浜土木事務所)。そのため、次善案として上下線2.8mずつまで幅員を狭くする案も出されたが、それでは大型車の離合が難しくなる。最終的には足場の幅を縮小し、上下線の幅員を3mずつ取れるようにする形で、足場を構築することにした。歩道は全面通行止めとして、足場の設置やブラスト機械関連のホースを沿わせるヤードとしている。

Iqシステムを採用し施工時の空頭に配慮 渡し梁8mは異例の長さ
シートは二重防護で安全性を確保  足場工は1ブロック2か月を有する

 足場に用いたのはIqシステムである。Iqシステムは、階高1,900mmを採用することで作業員が屈むことなく通行・作業できる空間となっているほか、標準装備の先行手すり高を1,010mmとして安全性を確保、さらに3,800mmの支柱では従来クサビ式支柱と比較して2kgの重量低減を実現するなどの特徴を有している。「一段、一段の高さが従来より200mm程度高くなるため、その分、各段のクリアランスが高くなり作業がしやすい」(鳥羽建設)として採用した。
 足場の設置は、まずトラス内側の車道上の足場を施工し、横支材や対傾構などを塗替えるため、車道上部に左右の足場をつなぐための梁を渡し、養生用の板貼りを行っていく。梁の長さは8mと「上下線の渡し梁としては異例の長さ」(鳥羽建設)である。
 さらにJRの立会いの下、俯角75°の範囲に入る個所に張り出し用単管を設置し、それに垂らしていく形でネット防護を行う。ついで歩道上の足場を施工し、車道上の屋根足場施工、同板張り防護および全体の養生シートを設置して完成となる。養生シートは塗装作業中の安全性を考慮し、足場養生とヤマダインフラテクノスが開発した研削材の突出防止性能と防炎性を兼ね備えたシートの二重防護を採用している。
 こうした足場の設置および解体は1ブロック2か月ほどを有する。つまり足場工だけで1年(工期は2年半)が費やされる計算である。


在来線と新幹線の足場施工手順図(滋賀県提供)


足場架設状況(1ブロック目)(滋賀県提供)


足場架設状況(2ブロック目)(滋賀県提供)

路面状況(左)、歩道を潰して各種配管を設置した(中、右)

循環式ブラスト工法を採用 4ノズルで1日最大50㎡を施工
 安全を考えた施工を追求

 当現場は、Rc-Ⅰ塗装系であり、塗膜除去及び素地調整は前出のように循環式ブラスト工法を用いている。塗膜剥離剤などの工法では、1種ケレン相当の下地を出す場合にはどうしても塗膜除去後のブラストが必要になるし、膜厚や塗膜内容によっては剥離剤の塗布を繰り返さなくてはいけない可能性も出てくる。また、通常のブラスト工法では研掃材と既存塗膜の両方を処分する必要があるため、廃棄物量が増えてしまう。

 その点、循環式ブラスト工法は、研掃材の循環利用(再利用)により、塗膜除去と素地調整の両方を行うことができ、処分費の削減が可能である。今回の施工では、1つの機械(ツインブラストマシンおよび研削材と既設塗膜の選り分け機械などで構成)に4ノズルを設置して施工している。1日当たりの施工面積は40~50㎡程度で、閉断面部の塗膜剥離剤を用いた掻き落とし施工(同部のみRb-Ⅲ相当となる)も合わせて7~10日ほどで塗膜除去+素地調整は完了する。施工時の粉塵や鉛分濃度の上昇に対応するため、タイベック+防塵マスクだけでなくエアラインスーツを着て服内に正圧をかけることで粉塵を吸い込まないようにしている。さらにエアは比較的冷涼な空気を送気しているため、暑さ熱中症対策にも有効である。


循環式ブラストに使用した各種機械

タイベック+防塵マスクだけでなくエアラインスーツを着て服内に正圧をかけることで粉塵を吸い込まず、
エアは比較的冷涼な空気を送気しているため、暑さ熱中症対策にも有効

既設塗膜の剥離と同時に1種相当の素地調整も行える

 塗替えは基本的にエアレススプレーを採用しており、塗替積層は有機ジンクリッチプライマー+下塗り2層(エポキシ樹脂)+中・上塗り(いずれもふっ素樹脂)の5層であるが、10日程度でブロック全面の塗装を完了させることが可能である。
 現在は1ブロック目の塗装と2ブロック目の素地調整がほぼ完了し、2ブロック目の塗装を行っている状況だ。


塗装施工状況

補剛桁および床版下面 在来線部は常設足場と防食機能を兼ね備えた製品を採用

 補剛桁部分については、在来線直上部はJR西日本、新幹線高架直上部はJR東海に委託して補修や塗替えを行う予定で既に県とJR両者間で施工に関する委託協定は締結済みである。
 在来線部の架線位置は現在、一部電線等が空頭約150mm~400mmに位置し、常駐足場設置予定範囲にかかる状況にある。しかし、その移設を行うことで桁下のクリアランスを約500mmまで増やすことが可能であり、その空頭を利用して桁下面の常設足場機能と防食機能を兼ね備えた製品を用いる予定だ。常設足場設置後に、塗装塗替えや腐食した鋼材の交換、床版の一部補修は行うものの、常設足場により、腐食因子の侵入を阻止することで、今後はそうした補修の頻度が少なくなる。また点検や補修もしやすくなる。新幹線部直上はそうした常設足場を設置することが難しいため、通常の補修及び塗装を施す方針である。

 設計はJR西日本コンサルタンツ。トラス部塗替工の施工は元請に鳥羽建設、一次下請に岩崎工業(足場工)、ヤマダインフラテクノス(塗膜除去および素地調整)、東亜塗装工業(塗装塗替)。

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