NEXCO西日本四国支社徳島工事事務所が建設を進めている徳島南部自動車道徳島JCT~徳島沖洲IC間の吉野川渡河部に位置する吉野川大橋(仮称)が終盤を迎えている。同橋は橋長1696.5mのPC15径間連続箱桁橋で、吉野川の最下流に同河川にかかる県内で47本目の橋梁として架設されている。以前取材した2020年4月にはエレクションノーズによる施工(2020年2月架設開始)が端緒についたばかりで架設桁架設による架設もようやく施工を始めようという状況であった。しかし、それから1年5か月弱経った8月23日には最終ブロックの架設を完了、この10月8日には閉合部の現場打ちコンクリートの打設を完了した。上部工は、プレキャストセグメントを用いており、エレクションノーズによる架設が162ブロック、架設桁架設による架設は328ブロックと合計で490ブロックに及んだ。この架設を19か月という短期間で施工できた理由などについて取材した。(井手迫瑞樹)
吉野川大橋(仮称)一般図(NEXCO西日本提供)
ラーメン部が多いが一部で支承構造も有する(井手迫瑞樹撮影)
思った以上に手間取った下部工 2016~18年度は実際に半年弱しか施工できなかった
19年度以降から通年施工でスピードアップ
工期は2016年2月から。実際に現場に着手したのは同年の11月である。下部工は2019年度末までかかった。当初予定していた完成工期と同様の期間で上部工にほとんど着手できていなかったわけである。この理由は大きく分けて2つある。1つは2016~18年度にかけては非出水期にしか施工できなかったことである。「非出水期は11月~翌5月であるが、実際は出水期に対応するための設備撤去期間と、出水期明けの設備設置期間があり、それらを換算すると真の施工可能期間は半年あるかどうかだった」(鹿島・三井住友・東洋JV)。さらに、強風や波のうねりなどがあると台船施工はままならない。加えて台風や豪雨後は大規模な浚渫が必要になった。「台風などで大雨が降ると上流のダムは放流を行うが、その放流と海からのうねりがちょうどぶつかる箇所が建設予定地付近であり土砂が堆積してしまう。それを取り除くために、しばしば施工が止まってしまうため、基礎や下部工の工事は困難を極めた」(NEXCO西日本)。そのため、下部工の施工は途中から台船による施工ではなく、鋼管矢板井筒の上に作業構台とクレーンを設置して施工する方式に変えた。
下部工の施工状況(2018年11月、井手迫瑞樹撮影)
下部工の施工状況②(2018年11月、井手迫瑞樹撮影)
それでも追いつかないため、NEXCO西日本は河川管理者等関係機関と台風時などの安全対策をきちんと行うことを条件に、通年施工の協議を重ねた結果、2019年度、それは認められた。これにより劇的に施工スピードが上がったが、2021年度内完成に向け、さらなる工程短縮が必要であった。
台風時の波のうねり状況(NEXCO西日本提供)
架設桁架設は昼夜兼行で作業
高欄を鋼製高欄から現場打ちRC壁高欄に変更
次に手を打ったのが架設桁架設の昼夜兼行作業である。エレクションノーズによる架設はプレキャストセグメントを台船による運搬を行ったうえでのつり上げが必要になるため気象影響が大きく劇的なスピードアップは期待しがたい。しかし架設桁架設は台船を用いないため、強風や波浪が著しく強く、高くなければ施工は可能になる。そこで6~15時と15~23時の2班体制で施工し、1日当たりの施工ロットを倍増させた。「実際には昼間に強風や高波が出ることも屡々あり、単純に倍速という状況ではないが、それでも1日作業が全てストップするということはなくなった」(同JV)。その結果、当初予定より約2か月も架設工程を短縮することができた。
エレクションノーズによる架設①(井手迫瑞樹、2020年4月撮影)
エレクションノーズによる架設②(2020年7月~完成間近の状況まで、NEXCO西日本提供)
架設桁架設による施工①(NEXCO西日本提供)
架設桁架設による施工②(井手迫瑞樹撮影)
架設桁架設による施工③(NEXCO西日本提供)
桁架設は夜間にも施工を行った(左:近景、右:遠景)(NEXCO西日本提供)
もう一つの工程短縮策が、現在施工中の現場打ちRC壁高欄だ。同橋の高欄は当初、半壁の鋼製高欄を予定していた。これを変更したのだ。その結果、コスト縮減と1か月の工期短縮が図れた。鉄筋は海上に面しているため、エポキシ樹脂塗装鉄筋(安治川鉄工および明希)を用いている。また被り厚は70mmを確保し、桁と同様にフライアッシュ(四国電力橘火力発電所産)と膨張材(太平洋マテリアル社)を用いて耐久性の向上に努めている。
壁高欄設置区間/同完了区間(井手迫瑞樹撮影)
PCケーブル内部にSmART(スマート)ストランド張力センサを配置
排水溝はU字型のPCa製品を採用 SEEDやCFCCを用いて耐久性向上
桁内部に入るとPCケーブルが橋軸方向に張り巡らされている。海上橋であるため内ケーブルと外ケーブルにエポキシ樹脂被覆タイプを採用した。さらには全長に渡り外ケーブルの各径間のうち2本にPCケーブル内部にSmART(スマート)ストランド張力センサを配置している。同センサは全長にわたるひずみ分布を計測できる光ファイバセンサをPCストランドに組込み、張力が作用した際に生じる光ファイバのひずみ分布を計測することで、PCケーブルやグラウンドアンカーのひずみ及び張力分布を遠隔からリアルタイムに全体・局部の別なく把握できるセンサであり、施工時の導入張力はもちろん、施工後の経時的変化即ち維持管理に加え地震直後も計測することができ、橋梁の損傷を早期に把握することができる。
PC箱桁内部には沢山のPCケーブルが配置されている(井手迫瑞樹撮影)
PCケーブルを束ねる作業状況(井手迫瑞樹撮影)
また、排水溝も外面からは見えにくいように景観に配慮したU字型のプレキャストコンクリート製の排水溝を採用している。排水溝は耐久性向上のためコンクリートには高強度繊維補強コンクリート(SEEDフォーム)を、鉄筋の代わりに(炭素繊維複合材ケーブル(CFCC)を補強材として用いており、腐食によるひび割れやコンクリートの劣化が生じないようにした。
U字型プレキャスト排水溝(左:井手迫瑞樹撮影、右:フジミ工研提供)
今後、架設桁の撤去、壁高欄の現場打ち施工を行い、年明けからは床版防水および舗装工事に着手する。面積は17,000㎡と実に広いが、2021年度内完成に向けて工事を進めている。
同橋を含む徳島JCT~徳島沖洲IC間約4.7kmは2021年度内の供用を目指している。
同橋の基本詳細設計はエイト日本技術開発。詳細設計と施工は橋梁が鹿島・三井住友・東洋JV。一次下請はカイセイ・西和工務店・横河ブリッジ・吉田寄神JV・大新土木。
舗装が鹿島道路。一次下請は県西土木。
NEXCO西日本徳島工事事務所の浦啓之所長(右)と鹿島・三井住友・東洋JVの山口統央現場代理人(左)
(井手迫瑞樹撮影)