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桟橋施工は許されず、台船上での施工

熊野川河口大橋 紀伊半島一周線有数のPC長大橋の上部工が進捗

公開日:2021.07.16

 国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所は、和歌山県新宮市と三重県東牟婁郡紀宝町の県境を流れる熊野川河口に熊野川河口大橋(仮称)を架設中だ。同橋は近畿自動車道紀勢線の一部をなす一般国道42号新宮紀宝道路(紀宝~新宮北間、2.4㎞)の中で建設されている橋長821m、全幅12.65mの7径間連続PC箱桁橋だ。下部工はA2のみ施工中で、他はすべて完了しており、上部工の施工が進んでいる。河川内かつ河口部での施工であり、通年施工を行わなくてはいけない上部工は仮桟橋の設置が許されず、台船を用いた施工が要求されている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

イメージ図、白い部分が大成建設施工分、黒い部分が前田建設工業施工分(図表は全て国土交通省提供)

側面図および平面図(図は大成建設施工分)

上流のJR紀勢本線から撮影した熊野川河口大橋(上図と左右が逆なことに注意)
(写真は井手迫瑞樹が4月22日撮影、以下注釈なきは同)

下部工 橋台部に鋼管ソイルセメント杭を採用
 河川部はニューマチックケーソン

 まず下部工に触れる。下部工は橋台部が鋼管ソイルセメント杭(HYSCパイル)を用いている。右岸側A1橋台部はもともと貯木場だった土地を埋め立てたため地盤が悪く、摩擦支持による基礎を採用した。P1~P6は河川部のためニューマチックケーソンを採用、A2はA1と同じく鋼管ソイルセメント杭(HYSCパイル)を採用している。
P1~P3橋脚はピア高20.6m~23.3m、ケーソン規模13m×16m×H12.5m~13m、施工業者は(株)錢高組、P4~P6橋脚はピア高20.6m~23.2m、ケーソン規模13m×16m×H12.5m~13m、施工業者は(株)大本組。

下部工施工時の熊野川河口大橋(当サイト既掲載)

航路の浚渫に約4か月を要する
 P2~P5の4脚上での上部工は、すべて台船上での施工

 上部工はA1~P3・P4中間部を境に右岸側を大成建設(株)(406.8m)、左岸側を前田建設工業(株)(414.2m)がそれぞれ施工している。それぞれ各橋脚の脚頭部および柱頭部の施工も行っている。両社とも台船を用いて資材を運搬ないし架設するため、まずは航路の浚渫に約4か月を要した。


右岸側から見た熊野川河口大橋1(上:下流側、下:上流側)

 現在は2020年2月から1年早く現場に入った右岸側がすでに張出架設に入っており、P1で20分の12ブロック、P2で20分の6ブロック、P3で20分の8ブロックをそれぞれ施工している。左岸側は1年遅れて昨年11月から現場に入っており、現在はP4、P5は柱頭部の構築を始めた状況、P6は柱頭部の4分の3リフト目を施工している。足場はダーウィンやIqシステムなどを活用して施工性を追求している。

足場とワーゲン

右岸側から見た熊野川河口大橋2(国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供、7月8日撮影)

 施工にあたって、P1とP6の両岸部は矢板で仕切り、河川内に仮埋してヤードを作り陸上施工を行っている。しかしP2~P5の4脚上での上部工施工(脚頭部・柱頭部含む)は、すべて台船上での施工を余儀なくされている。下部工では渇水期のみでの施工であったため、仮桟橋設置が許可されたが、出水期も含めた通年で行う上部工の施工は、河積阻害の観点から紀伊半島大水害の記憶も新しい現地では許可されなかったためだ。

P1橋脚とP6橋脚

両版部は矢板で仕切っている(写真左から2番目の橋脚がP6)

台船を用いた施工状況1/用いているバケット

台船を用いた施工2

 そのため、鉄筋や生コンなどは全て台船を用いて運んでいく。とりわけ生コンは、生コン工場から一旦、右岸側にある護岸までトラックミキサで運搬し、護岸にあるバケット(容積2.0㎥)に投入して、クレーンを用いて台船に載荷する。それをさらに、橋脚近傍に係留されている別の台船上にクレーンで吊り上げて移し替え、同台船上に備え付けている圧送ポンプで打ち上げて打設していく必要がある。そのため40Nの早強コンクリートでスランプは18㎝(護岸における生コン受入時)を確保している。
 P1~P3はコンクリート運搬起点となる右岸側護岸から比較的近いが、P4~P5は運搬起点からさらに遠くなるため、夏場のスランプロスを考慮して、「バケットではなく、6㎥入りのアジテーターに入れて、コンクリートを攪拌しながら台船運搬することで、生コンの流動性を確保」(前田建設工業(株))する施策をとっている。

左岸側から見た熊野川河口大橋1/P5橋脚の施工

左岸側から見た熊野川河口大橋2(国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供、7月8日撮影)

左岸側は6㎥入りのアジテーターに入れて、コンクリートを攪拌しながら台船運搬する
(右写真のみ国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供、7月8日撮影)

せん断補強鉄筋にヘッドバー
 桁高は最大で8.5m(柱頭部)、最低でも3.5m

 さて、工程を一つ前に戻して鉄筋の配置を説明する。ラーメン構造ではないが、それでも鉄筋配置は過密である。下部工からは「D51で鉄筋が上がってきているためラップはできない。そのため機械式継手を採用して接合した」(大成建設(株))。さらに鉄筋の過密を少しでも緩和すべく、せん断補強鉄筋にヘッドバー(VSLジャパン(株))を用いてコンクリートが充填し易くなるよう工夫している。

鉄筋配置は過密である(図は国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供)

ヘッドバーを採用(国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供)
 脚頭部(H=5.0m~7.7m)は2~3リフトによる打設となっており、脚頭下部は橋脚部と同じく中空断面であるが、脚頭最上部(H=2.5m)は充実断面となる。柱頭部はH=8.5mを3~4リフトで打設していく。
 柱頭部の打設後は、桁の張出架設を行っていく。桁高は最大で8.5m(柱頭部)、最低でも3.5m(支間中央)に達する。右岸側はトラベラー、左岸側は通常のワーゲンを用いて架設していく。1ブロックごとの張出し長は2~3mで、各ブロック2~4本のPC鋼材を用いて定着し、桁がすべて繋がった後に外ケーブル(106本、(A1-P1で18本、P1-P2で10本、P2-P3で14本、P3-P4で16本、P4-P5で16本n、P5-P6で12本、P6-A2で20本 (PC鋼材は19S 15.7mmを使用、神鋼鋼線工業(株)製))で全体を緊張する。その後、A1、A2側から65~180mmの範囲でP3、P4に向かってポストスライドして、調整した上で完成となる。


張出架設状況(下写真のみ国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供)

 こうした上部工の施工にあたって、厳しいのは台船上にクレーンを据え付けて打設する手法をとっている点だ。「風、波浪、台風や梅雨などの洪水どれがあっても、材料の運搬や施工(クレーンの運用)に支障が出てしまう。また、台風などにおいては台船をいったん避難させる必要がある。台風や洪水後については、場合によって河口部に土砂が溜まり台船の喫水が確保できなくなり、再度浚渫する必要が出てくる可能性がある。気象には絶えず気を付け、対応策を考えていく」(大成建設(株))ということだ。

エポキシ樹脂塗装鉄筋、被覆PC鋼材を採用
 大型支承を採用、塩害対策としてST-SG、溶射+フッ素を採用

 塩害環境が厳しい河口部であるため、防食面ではコンクリートかぶり厚を70mm確保するとともに、エポキシ樹脂塗装鉄筋(安治川鉄工(株)、筒井工業(株))およびエポキシ樹脂被覆PC鋼材(神鋼鋼線工業(株))を採用している。支承は最大で(ソールプレート部からの合算)2.25m×3.35m×0.87mの1基あたり10300kN~10700kN(A1、A2)、31500kN~37400kN(P1~P6)の鉛プラグ入り積層ゴム支承(東京ファブリック工業製)を採用している(ピア1本に対して2個所)。支承も塩害対策としてボルト部とせん断キーにST-SG、上下プレート部にAl-mg合金溶射+フッ素樹脂塗装によるトップコートを施している。


支承は最大で1基あたり10300kN~10700kN(A1、A2)、31500kN~37400kN(P1~P6)の鉛プラグ入り積層ゴム支承(東京ファブリック工業製)を採用した
(上写真は国土交通省近畿地方整備局紀南河川国道事務所提供)

 設計は中央復建コンサルタンツ(株)、(株)修成建設コンサルタント。一次下請は右岸側が盛起建設(株)、左岸側が(株)光南。

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