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抜本的かつ恒久的な対策として

大鳴門橋1A直上の中空床版下面の塩害対応に電気防食『e-Cover・C(カスタム)』工法

公開日:2021.03.24

 1985年6月に供用された本州四国連絡高速道路が管理する大鳴門橋の1Aアンカレイジ上屋道路桁(RC中空床版;約1,300㎡)(写真-上屋道路桁(中空床版))は、供用から約11年が経過した頃から、塩害・中性化による床版裏面のコンクリートのうきや鉄筋露出が顕在化していた。桁下は展望台や通路として一般者に開放されており、第三者被害の予防対策が課題となっていたため、2001年度に断面修復工・表面被覆工及び剥落対策工を実施している。しかし、その約10年後から床版裏面の施工境界部において、コンクリートのうきや鉄筋露出等の再劣化が確認されており、その腐食形態から原因はマクロセル腐食と推定された。大鳴門橋の補修にあたり、200年以上の供用を目標とする新たな補修工法を検討した結果、外部電源方式による電気防食工法が選定された。今回、その現場を取材した。

 補修を実施するに当たり、コンクリートの再劣化状況を把握するため、2001年度に実施された断面修復工・表面被覆工の施工境界部にコンクリートのうきが発生している箇所をはじめ、ひび割れや鉄筋露出が発生している箇所に着目し5か所を選定し、調査が行われた。調査箇所は下図(調査箇所)、調査内容は下表(調査項目)に示す通りである。

上屋道路桁(中空床版)

調査箇所

隔壁部のコンクリート剥落・鉄筋露出

表 調査項目

 桁下からの外観観察では、コンクリートの剥落損傷が隔壁部で顕在化していることが分かる(写真-隔壁部のコンクリート剥落・鉄筋露出)。鉄筋かぶり調査の結果、中空床版部よりも隔壁部において全体的にかぶり厚が小さい傾向がある上、部分的に設計かぶり厚(主鉄筋54mm ・配力鉄筋35mm)を下回る箇所が確認された。
 これらの調査から、隔壁部での損傷は、隔壁部のかぶり厚が小さいことに起因すると考えられた。
 はつり調査の結果、調査した箇所全てで表面の発錆が確認された。その中でも、調査位置G(隔壁部)ではスターラップも露出し、かぶり厚は12mmと設計かぶり厚35mmの半分以下であったため、鉄筋の腐食が見られた(右写真)
 鉄筋の自然電位を測定すると、コンクリート表面にうき等の劣化がない場所ではいずれも内部鉄筋の腐食の可能性は低いという結果であった。しかし、調査箇所Dの断面修復工・表面被覆工の施工境界部における調査では、既設コンクリートと断面修復箇所との間に電位差がみられたことから、マクロセル腐食による鉄筋腐食が発生している可能性が高いと考えられた(下グラフおよび写真)。

断面修復箇所境界部の自然電位/各調査箇所の塩化物イオン濃度分布

調査位置 D照合電極

 塩化物含有量の分析結果は上図のとおりである。配力鉄筋位置である深さ20~40mmで塩化物イオン濃度が高い。
 調査結果から、主な腐食原因はかぶり厚の小さい隔壁部での塩害と、断面修復工・表面被覆工の施工境界部におけるマクロセル腐食であると推定された。
 塩害の対策工法(表面被覆・剥落防止工法、断面修復工法、脱塩工法、電気防食工法)について、施工性、再劣化可能性、LCCなどについて比較検討した結果は右表の通りだ。
 検討の結果、電気防食工法による補修が他の工法よりも有利であると判断された。
 
 電気防食を行う際、通常は陽極を埋設するための深さ20mm程度の溝掘りが必要になる。しかし、一部のかぶり厚は35mmと現行基準と比較すると相当に薄く、特に隔壁部(横桁)のスターラップ筋のかぶりは10mm強しかない箇所もあり、腐食減肉はもちろん浅い孔食が起きている箇所もあった。スターラップ筋を切らずに溝掘りできる状態にはない。また、かぶりの浅い鉄筋があると、溝切方式では陽極と鉄筋が直接接触してしまい、正常に鉄筋に防食電流を供給できなくなる可能性がある。防食電流はコンクリートを介して鉄筋に流れ込まなくてはならないからだ。
 その点、『e-Cover・C』工法は、電気防食に使うチタンリボンメッシュ陽極を貼り付ける工法であり、溝掘りのためのはつり工をする必要がない。φ7mm、深さ25mmのプラスチック製リベットを概ね600mmピッチに床版下面に打ち込んで、チタンリボメッシュとそれを支持するプラスチックモールを固定し、モールのハンチの部分をエポキシ樹脂でシーリングおよび接着し、モルタルをグラウトする。溝掘りも必要とせず、鉄筋との距離も適切に取ることができることが特徴だ。


e-Cover・C工法概要図
 また、当該現場は鳴門の渦潮で有名な展望台や遊歩道、レストラン、土産物店などに隣接しており、年間を通じて多くの人が訪れるため、工事で発生する粉塵や騒音を極力避けられる工法が必須だ。『e-Cover・C』工法は溝切りのためのカッター工やはつり工が不要となるため、粉塵・騒音問題をクリアできる。
設置後の電気防食コストは「1m2当たり約1~20円/月程度と安く1,300m2設置しても年間1万2千円~31万3千円程度で済む」(ショーボンド建設の試算)。
 同工法の施工フローは右図の通りである。既設の表面被覆は全て剥がす必要はなく、陽極を設置していくのに必要な1ラインにつき100mm幅を撤去していけばよい。モールは約150~200mmピッチで配置していくが、約1,300m2の範囲を防食するため、最終的には設計計画で6,654mのチタンリボンメッシュが必要になる。断面修復は通電性の良いエルガードモルタルを採用した。その上でモールを設置していく。紫外線劣化を考慮してフッ素樹脂によるトップコートを施し、これに外部電源(30V-15A×4台)から防食電流を常時流すことで電気防食を行っていく。

施工前/墨出し/既設表面保護工の除去

照合電極取付/排流端子取付/鋼材電通処理

モールをリベットで固定/
モール陽極の設置状況(注入排出口)/ディストリビューターの設置状況

モール電極シールの施工状況

 ここで、施工の阻害要因になったのが、強風である。1Aのダブルデッキの下桁部(本来鉄道橋として建設された部分)から車道桁部の中空床版部直下まで、約12~14mの高さの足場を組まなくてはいけない。現場は風速が速く、1A車道桁直下では、最大で12~14m/sとなる状況下で足場組立や電気防食の設置を行う必要があった。
 足場は、抜け止め機能付きシステム足場「Iqシステム」を採用した。同システムは階高1,900mmを採用することで作業員が屈むことなく通行・作業できる空間となっているほか、標準装備の先行手すり高を1,010mmとして安全性を確保、さらに3,800mmの支柱では従来クサビ式支柱と比較して2kgの重量低減を実現するなどの特徴を有している。接続突起が出ないようにフラットな足場を提供できることから今回採用した。本現場では組段数は7段に達した。

抜け止め機能付きシステム足場「Iqシステム」(井手迫瑞樹撮影)

 現場は風速が速く、通常の風防ははらみによる足場倒壊の危険があるため使えない、そのためパイプによる手摺り状の柵に網を張るような形で、モノが落下しないようにしていた。風は作業場内にかなりの強さで吹き込む。その中でモールを設置しなくてはいけない。そのため、モールの両端を桟木で挟み込むようにして固定し、仮止めしてから一連の作業に入るなど工夫を施していた。足場も下からの風で養生シートが孕むことがあるため、風による養生シートの吹き上げ防止としてワイヤーメッシュと重しブロックを配置し、シートを抑え込む状態での作業を行っている。

モールの両端を桟木で挟み込むようにして固定/養生シート上にワイヤーメッシュと重しブロックを配置
 施工に際しては、排水設備など添架物の補修や移設、取替なども合わせて行う。
 1,300m2は上下線に分かれて施工しており、現在は上り線側を施工している。電気防食班は通常時6人の体制で施工しており、電気防食工のみだと上り線4か月強、上下線9ヵ月ほどの工期を要する予定だ。準備工から足場架設・撤去、断面修復やひび割れ注入工などの全体工程は1年6か月を見込む。

施工状況全景(井手迫瑞樹撮影)
 元請はブリッジ・エンジニアリング。下請けはショーボンド建設(電気防食)、西野組(足場)。(2021年3月24日掲載)

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