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潮流、風、冬季波浪の影響受ける全国でも指折りの難しい現場

鹿児島県甑島列島 橋長1533mのPC橋である藺牟田瀬戸架橋の架設が終盤

公開日:2019.03.16

 鹿児島県は、甑島列島の下甑島と中甑島間の藺牟田瀬戸に両島を繋ぐ延長1,533mのPC橋の建設を進めている。同橋付近は浅瀬と水深の深い海域が錯綜しており、喫水の深い船が入ることのできる区域は限定されている、風速も強く、台風時はもちろん、橋梁中央部では冬季波浪の影響による施工休止期間も設けられるなど全国でも指折りの難しい架設現場だ。海洋架橋の塩害対策も含め、2020年度の完成を目指す藺牟田瀬戸架橋の現場を取材した。(井手迫瑞樹)

 甑島列島は上、中、下の3島で構成されている、上甑島と中甑島間は既に架橋で陸続きになっているものの、上・中と下甑島間の連絡は船に拠るしかなく、島内主要港である里港と長浜港との間は最長90分でしかも数本しかないフェリーや高速船に頼るほかなかった。藺牟田瀬戸架橋ができれば時間を50分に短縮でき尚且つ自由に往来することが可能になる。救急や災害など医療・安全面もさることながら島経済の根幹である観光資源や水産資源を生かす地域づくりも効率的に進めることができる。


鹿の子大橋(井手迫瑞樹撮影)

甑大明神橋(井手迫瑞樹撮影)

 記者が訪れた2月21日は、冬季には珍しい穏やかな日で、風や波によって作られた奇岩、急崖、何よりも美しい海が印象的だった。沖縄の伊良部大橋のごとく離島架橋は地域を変える起爆剤になる。この景観や海もきっと生かせるようになるだろう。


美しい海(井手迫瑞樹撮影)

概要
 さて、同橋は、鹿児島県薩摩川内市鹿島町(下甑島側)と上甑町(中甑島側)を結ぶ一般県道鹿島上甑線に計画されている橋梁だ。前後には3本のトンネルがあり、それを先に掘って開通さえたうえで工事用道路として活用している。上甑島と中甑島を結ぶ甑大明神橋、鹿の子大橋が完成間近(いずれも平成5年供用)の平成3年に甑架橋建設促進期成会が設立され、平成18年3月末に藺牟田瀬戸架橋として事業着手が発表、23年8月に下部工が着手された。


諸元および橋長、支間長の比較(鹿児島県提供)
完成予想図(鹿児島県提供)

 橋梁はPC3+4+4+4径間連続箱桁橋で、P4~P6の支間長165mは、PC連続箱桁橋としては日本最大級を誇るものだ。架橋地の地質は藺牟田瀬戸付近では姫浦群層が分布しており、瀬戸中央付近に分布する北西―南東方向の藺牟田断層を境として、中甑側では頁岩、下甑側では砂岩が卓越している。海底部には頁岩優勢互層が分布しており、風化は認められず、良好な新鮮岩が海底に直接露出しているという事だ。そのため下部工はP12、P13を鋼管矢板井筒基礎としたほかは全て直接基礎を採用している。


地質および側面図(鹿児島県提供)

 現場の風は強い。作業に影響する風速10m/s以上の出現率は年間で約16%に達する。特に11月~3月には30%を超える。台風時は最大瞬間風速で61.0m/sが観測されている。潮流も厳しい施工条件を形成する。瀬は両サイドが浅くなっているが、下甑島の浅瀬において潮流は最も早くなっている。海上作業に影響する1ノット以上の出現率は夏季で38.4%、冬季には実に68.2%に達する。



厳しい施工条件の一つに流速が速く、変化する潮流がある(鹿児島県提供)

 そのため海上部の上部工施工は現在、12月中旬~3月中旬までを施工休止期間に充てているほどだ。

基礎・下部工
 厳しい海象条件下での施工であるため、水深の深い箇所の下部工施工は、極力プレキャスト化し現地作業を少なくする工法を選定した。串木野新港においてフローティングドック(FD)船内でケーソン型橋脚をHWL+2.0m部分まで構築する。ケーソン基礎の下部には不陸整正のためアスファルトマットを設置している。


下部工概要図(鹿児島県提供)/アスファルトマットの採用(鹿児島県公開資料より抜粋)

 その後現地まで運搬してFD船に注水して沈下させ、2,200t吊FC船『駿河』を用いて引き出し、橋脚躯体に注水して所定位置に据え付けるが、ケーソン接地面の不陸を修正するため均しコンクリートおよび設置時の調整のため掘削した部分への埋め戻しコンクリートを打設する必要がある。潮流の早い海中での施工精度を向上させるために予めジャッキベースを取り付けた架台を起重機船で設置し、その上で均しコンクリートおよび埋め戻しコンクリートには水中不分離性を有するハイドロクリートを採用した。また、流出を防止するために型枠用石篭および亀甲金網を設置した上で打設し、H鋼を用いて均しコンクリートの天端を仕上げた。


現地までの運搬(鹿児島県提供)

大型FC船を使って設置した(鹿児島県提供)

水中不分離コンクリートの施工概要図(鹿児島県公開資料より抜粋)

 ケーソン据え付け後、コンクリートプラント船によって中詰めコンクリートを充填した(最大P5で3300㎥)。ケーソンにはあらかじめ上部工施工用のタワークレーンの据え付け架台も設置して現場での施工をやり易くしている。


下部工の施工方法(左)水深が深い部分/(右)浅い部分(鹿児島県提供)

 FC船の喫水により乗り入れができない浅い区間(水深5~6m)については工事用の仮桟橋を設置して場所打ちにより下部工を施工している。下甑島側の仮桟橋の施工にあたっては、当初設計では橋梁下部工のボーリング調査により厚さ約1mの堆積層の下に支持層が出現すると想定していた。しかしP1~P2の仮桟橋施工においてダウンザホールハンマーで掘削するがなかなか支持層が出現せず、結果として追加調査により約10mの堆積層を確認し鋼管を継ぎ足した結果、約1か月のタイムロスが生じた。そのため先行区間においては予め「海底弾性波探査(屈折法探査)」を採用することで支持層を確認して施工することでタイムロスを軽減している。


海底弾性波探査(屈折法探査)でも用いたエアガン(左)とハイドロホン(受信機)(右)
(鹿児島県公開資料より抜粋)


調査方法概要図/実際の設置状況(鹿児島県公開資料より抜粋)

実際の調査結果(鹿児島県公開資料より抜粋)

 また桟橋はH.W.Lや設計波高(存置期間9年として30年確率で設定)を考慮し、A1側で5.6m、A2側で6.6mの高さに設定して設置し、安全な施工を確保した。

 場所打ちに際しては海水との締め切りには波浪の影響と止水性を考慮して一般的な鋼矢板ではなく鋼管矢板を採用し、継手部分に止水モルタルを注入した。浅瀬部における鋼管矢板の施工は海象条件の厳しさや玉石・岩盤という地質という悪条件を克服しながら、継手精度の向上のため早く正確に鋼管矢板を打ち込む必要があることから、今回は大口径高速岩盤掘削システム(PRD-ROSE Meteod series)を採用した。なお海上部の鋼管矢板井筒基礎に関しては海上搬入が可能であったため現場継ぎ手を省略し、工期短縮を図っている。


施工中の下部工(鹿児島県提供)

大口径高速岩盤掘削システム(PRD-ROSE Meteod series)を採用(鹿児島県公開資料より抜粋)
 橋脚高さは最大のP5でおよそ47m(海底面からの高さ、HWL以降は23m)に達する。配筋はTヘッドを活用するとともに、打ち継ぎ目にはブリードボンド工法を採用して工期短縮を図っている。

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