沖縄発のPC・鋼複合橋の維持管理上の課題と防食方法
沖縄西海岸道路 牧港高架橋の構造上の特徴と維持管理対策
内閣府沖縄総合事務局南部国道事務所が建設を進めていた沖縄西海岸道路の一般国道58号浦添北道路及び那覇港浦添ふ頭地区臨港道路浦添線の約4.5km区間が平成30年3月18日に開通する。浦添北道路の主構造物の一つである牧港高架橋において牧港漁港を跨ぐ部分は、PC箱桁の構造設計の限界スパンまで張り出し、中央径間部の真ん中の50mを鋼床版箱桁を採用するPC・鋼複合構造を沖縄で初めて採用している。沖縄、しかも海の直上、飛来塩分も多く過酷な条件下で、維持管理に配慮しながらどのように架設、防食を行っているのか、取材したものをまとめた。(井手迫瑞樹)
沖縄初のPC・鋼複合橋
牧港高架橋の全長は691.9mである。そのうちP0~P4が長さ215.9mの4径間連続PC箱桁橋、P4~A2が長さ476mの4径間連続混合箱桁橋となっている。今回、記事で対象とするのは、後者の工事だ。
P4~A2、とりわけ浦添漁港を跨ぐP5~P6間は支間長190mとPC箱桁のスパンの限界を超えている。通常であれば、エクストラドーズドなどケーブルを採用して飛ばすか、鋼箱桁形式にするところだが、イニシャルコストの縮減やPC鋼複合構造の採用例などを鑑み、両側を70mのPC箱桁で追い込み、中央スパンを鋼床版箱桁(3主桁)にし、接合部に鋼殻セル、PCケーブルを配置して緊張し、間詰コンクリートで埋めることで閉合(剛結)する手法を採用した。通常は「モーメント(完成系の曲げモーメント)が0になる箇所を接合に選択するが、接合に実績が出てきたこともあって、多少ならモーメント(今回の場合、正の曲げモーメントが発生する)を取っても良いということになり、ギリギリまでPCで張り出し、鋼桁を中央に落とし込んだ。桁長が短くなる分、板厚を落とせるので、鋼重は軽くなり設計は成立するという考え方」(南部国道事務所)を採った。
ここで課題になるのは、塩害に対して桁、とりわけ鋼桁と接合部について塩害を主とする劣化要因からどのように守るか、また、舗装上から供給される水(雨水や波浪には当然塩分が含まれる)からどのように接合部を守るか、という点である。
まず、施工面からみていく。PC桁と鋼桁の取り合い部に関しては、設計段階と異なった架設手順に変更している。当初案では、PC桁の張り出し施工後に最終ブロック先端で接合桁の架設とPC桁との間詰を行った後移動作業車を解体し、改めて吊上げ装置を組み立てて一般部の鋼桁、調整桁を順次架設し、現場で溶接する手順であった。
しかし、当初案では、一連の工程に約90日を要する。また、塩害を考慮し鋼桁は溶接継手を採用しており、その品質確保のためにも、現場作業を減少させることが望ましい。そのため実際にはP5側の移動作業車は(PC桁の構造に合わせて)4主桁構造であり、1主桁あたりの能力に余裕があることを利用し、P6の接合桁架設後にP5側の接合桁・鋼桁・調整桁を予め工場内で連結した大ブロック(仮設設備合わせて約460t)を一括架設し、P5側のPC桁との間詰部で併合する方法を採用した。(左図は鋼桁の架設ステップ、南部国道事務所提供、以下同)
コンクリート品質の確保には様々な手を打つ
膨張剤、収縮低減剤、接合桁の縦起こし打設
接合部の構造
接合部はPC桁側から2mのPC箱桁(但しPC鋼材を通すための穴だけを開けた密実なブロック)、次いで500mmの間詰部、1.5mの接合鋼桁から構成されており、4mのPCケーブルで後面支圧方式により緊張し剛結する。
接合桁内部は桁の上下に600mm~700mm角のセルが配置されており、そこにPC桁と接合するための軸方向鉄筋及び間詰部と一体化するための補強鉄筋(いずれもエポキシ樹脂塗装鉄筋)が配筋されている。鉄筋径は最大でD29、本数は900本に達するため機械式継手採用した。さらにPC鋼材を通す穴も設けられている。上下には孔あき鋼板ジベルを設置し、さらに桁内部の仕口にはコンクリートのフリクション(摩擦支持)と止水効果を期待してエポキシ珪砂をまいている。打設するコンクリートは、一般的には高流動コンクリートを用いるが、自己収縮量が大きく、打設後に鋼殻セル内に空隙やひび割れが発生する可能性があった。そのため、膨張剤や収縮低減剤およびCfFA(高性能フライアッシュ)を適宜添加し、自己収縮ひずみを350μ程度改善した。なお鋼殻セル内の中詰コンクリートは、セル内に空気が残留することを懸念して、架設前に接合桁を縦起こしして、コンクリートを打設した。そこにPC鋼材を配置し、最後に間詰コンクリートを打設して剛結した。間詰の鉄筋にもエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いている。
接合部のイメージ①(左:鋼桁側、右:PC桁側)
接合部のイメージ②(左:側面から透け処理してみた状況、右:同上面)
間詰部の配筋概要
鋼セルコンクリートの打設手法
鋼セルの打設状況(左:打設前、右:打設状況)
間詰部の配筋状況/高流動コンクリートの打設
先端ブロックコンクリート(2m部分)の打設
接合ケーブルの緊張状況
接合部の施工手順
接合鋼材の緊張に際しては、前述のようにPC鋼材を配置しているが、桁内には19S15.2、床版には1S28.6を配置した。また供用中の緊張力が設計値より落ちていないか確かめるため、EMセンサーを埋め込み緊張力をモニタリングしていく。
EMセンサーの設置
鋼主桁の閉合
鋼主桁の閉合は主桁を吊り上げ架設し、その後、P6側の接合桁と鋼桁の継手を溶接。最後にP5側の間詰部の鉄筋を組立、コンクリートを打設して閉合した。間詰部の構造は、P5側については、主桁閉合部になるため、閉合時の温度変化に抵抗するべくセッティングビームを用いた。主桁の温度変化分は10℃分、床版温度差は鋼桁で15℃、PC桁で5℃と設定したが、PC桁部において直前の計測で設定温度を上回る温度差が確認されたため、コンクリート橋面上に散水し、温度変化を抑制した。
吊り上げ架設状況