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-分かっていますか?何が問題なのか- 第57回 工学博士・鈴木俊男から学ぶこと ‐新たな構造形式を生み出す想像力と都市土木に必要不可欠な備え‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.03.01

3.東京外かく環状道路と陥没事故について

 今回の最終章、首都東京の渋滞を解消する目的で整備を進めている主要幹線道路、東京外かく環状道路(以下・外かん道路)に関する話題提供である。何故私がここで、急に外かん道路の話をするのかと考える方が多いと思うので理由を述べる。今回の“はじめ”で話した『東北地方太平洋沖地震』の余震が収まった時、何故か私の脳裏には外かん道路工事エリア内の地上で起こった路面陥没事故と、事業者の対応に怒る住民の顔が浮かんだからである。それは昨年の10月、調布市の住宅街で路面陥没事故が発生、関係住民が「ものすごい揺れと振動があった」、「私は陥没現場から十数mの家に住んでいます。9月6日から今も低周波に苦しめられています。他の住民たちも振動に困っていて、なかには『陥没するのでは』との声もあったんです」などと話していた。地震と陥没事故、『地盤、家屋の揺れ』が共通のキーワードである。当連載のかなり前に道路陥没事故に関連した話をしているが、私は、自らの経験した幹線道路における路面陥没事故、その後の住民対応及び学識経験者を入れた関連委員会設置などの業務処理以来、同様な事故が発生する度に過敏に反応することが多々ある。ここで、読者の中には分からない方もいると思うので、外かん道路の概要を説明しよう。

3.1東京外かく環状道路について
 外かん道路の正式名称は、東北自動車道等であり、東日本高速道路株式会社(NEXCO東日本)が主となって整備する道路である。また、外かん道路は、高速自動車国道ではあるが、一つの統一された路線としてではなく、各路線の集合体として整備されている。首都圏の交通網整備上重要な位置づけとしているのは3環状9放射道路であるが、内訳は、首都高速中央環状線(中央環状道路)、東京外かく環状道路(外かん道)、首都圏中央連絡自動車道(圏央道)をまとめて3環状道路と呼び、湾岸道路、第三京浜、東名道路、中央道、関越道、東北道、常磐道、東関東道(水戸線)、東関東道(館山線)の9放射道路を加えた交通網を指す。
 先に示した3環状9放射道・高速道路ネットワークは、これまで放射方向は順調に整備されてきたが、その一方、環状方向の整備が遅れているため、都心に用もない通過するだけの車両が約6割にも上っている。先に示した3環状道路を整備することによって、首都圏の交通混雑緩和、環境の改善、物流支援等の効果が期待されている。
 さて、今回の話題として取り上げる外かん道路とは、都心から半径およそ15kmの位置にある、延長約85kmの環状道路(都市計画決定されているのは東名~東関道の約67km)である。外かん道路が連絡する主な拠点都市・地域等は、東京都心・副都心エリアの周辺都市(大田区・世田谷区・練馬区・川口市・市川市など)や京浜・京葉工業地域である。関越道と交差する大泉JCTから三郷南ICまでの約34kmと三郷南から高谷JCTまで国道298号線(東関道)約16kmは既に供用開始している。
 残る東京の西側部分、図‐12に示す東名JCT~大泉JCT間は、平成19年4月に高架方式から地下40m以深の大深度地下となる地下トンネル方式へ都市計画変更を行い、事業化路線として現在工事中である。外かん道路の整備効果を図‐13に示す。都内の渋滞緩和等の効果を考えて整備を行った環状8号線(2006年5月28日全通した都道311号線・大田区羽田空港から北区・赤羽まで、総延長約44.220kmの主要幹線道路)の場合、経済効果(時間短縮と走行経費縮減)は年間約300億円に対し、外かん道路は、年間1,576億円と約5.3倍の効果があることになる。以上、読者が外かん道路について理解できるように、外かん道路の事業内容等について、外かん道路整備に携わる国土交通省及び東京都側に立って説明した。次は、地上から約40m以深で外かん道路・地下トンネルを掘削・築造に採用しているシールド工法について説明する。

3.2 シールド工法について
 市街地の地下に築造する線状構造物の施工法として、近年、従来の開削工法からシールド工法が主流となってきている。その理由は、従来の主たる工法であった開削工法と比較して、工費、工程、安全性及び品質の面からシールド工法が有利であるからである。シールド工法の長所を具体的に述べると、①工事費増が少ない。②市街地地下に埋設されている多種なライフラインや地下構造物への影響が少ない。③施工中のトラブルが少なく、工程管理が容易である。④地上の住宅等へ振動や騒音の影響が少ない。⑤トンネル躯体、セグメント等がプレキャストや工場製品が主となることから、漏水、ひび割れなどの欠陥が少ないなどである。逆に短所としては、①シールド掘削機の発進到達時の切削時に振動が発生し易い。②粘性土が掘削機に固着するとカッターチャンバー内の流動を阻害する。③掘削中の礫、残置物の取り込み不良に伴う排泥不良や切羽泥水圧変動によって、カッターチャンバーが閉塞することがある。④カッタートルクや推力の上昇によって掘進速度が低下することなどがあげられる。

 近年多用されているシールド工法は、1939年(昭和14年)国鉄関門トンネルで圧気併用手掘り式円形シールド工法が採用されたのが国内初である。シールド工法は、図‐14に示すように分類される。シールド工法は、切羽安定を図る媒体が、気体(圧気)から液体(泥水圧)、固体(土砂、泥土圧)へと移り変わっていったが、これはシールド掘削対象の地山に近い状態へと変えることによって切羽の安定を図ってきた結果である。ここまで詳細に説明してきたシールド工法は、鉄道、道路、下水道や地下河川など市街地トンネルに幅広く採用されている。なお、今回対象の外かく環状道路で使われているシールド工法は、図‐15に示す土圧式シールド工事施工設備と同様な設備機械を使った密閉型泥土加圧式工法である。ここまでの説明で、多くの読者が外かん道路と採用しているシールド工法について理解したと思うので、いよいよ今回の本題に移すとしよう。

3.3 路面が陥没した、住宅が傾いた原因は?
 余震が治まった後私が床の上に座って考えたことは、外かん道路工事は住民本位に行われているのか、日本が海外に誇れる最先端工事であるのかであった。私の不安と怒りは2月に入って、東日本高速道路からの報道を読み聞き、より明瞭となり、増幅した。私が読んだ報道内容は、「調布市の東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事のルート上で、道路の陥没や空洞が見つかった問題で、東日本高速道路(NEXCO東日本)の有識者委員会(小泉淳委員長)は12日、シールド工法を用いた工事の施工ミスが主な要因だったとする調査結果をまとめ、公表した。国土交通省によると、2001年に施行された「大深度地下使用法」に基づく工事での事故は初めてという。
 報告書によると、現場の地下では、トンネルを掘るシールドマシンと呼ばれる大型機械が地盤の土の硬さで動かなくなるトラブルが発生。マシンを動かすために土を軟らかくする薬剤を注入した結果、土を取り込み過ぎる施工ミスが発生するなどして機械とトンネル上部の地盤に隙間ができ、地盤が緩んだと指摘した。」である。
 私の記憶では、NEXCO東日本は路面陥没事故発生直後、「事故の主たる原因は大深度工事として進めているシールド工事では無い。他の原因で地下に空洞が発生、もしくは、以前から存在していた空洞が拡大した」と発言をしていたはずだ。昨年の路面陥没及び家屋被害に関する報道があった時、私自身一抹の不安はあったもののNEXCO東日本技術陣の発言を信じていた。いや、知人が多くいるNEXCOグループ技術陣を信じたかったのかもしれない。先に示した2月の報道は、記事の構成段階で、発注者側の発言を都合よく切り貼りした、視聴者受けを狙った記事なのかもしれない。しかしそれはそれとして、陥没事故は起こった、残念だ!! 私は今、「やはりそうであったか」、中央道・笹子トンネル天井板落下事故の時に感じた、何ともやるせない気持が心の中の多くを占めている。

 近年の外かん道路工事におけるNEXCO側の対応を考えてみると、専門技術者として技術力や判断力を疑わざるを得ない事例が多々ある。それは、最も重要な住民対応である。今回の路面陥没事故周辺に住む住民の発言関連記事を調べると、“シールドマシンが稼働すると、沿線各地では「震度2~3級で家が揺れる」、「コップの水が揺れている」、「ゴゴゴという音が聞こえる」などの苦情を、外かん道路工事事業者である国、NEXCO東日本やNEXCO中日本に伝えていたが、何ら対応をしなかった”とのことである。
 都市土木に従事する技術者として、住民の声を軽視する最悪のパターンを進み、その結果、『神』の技術者に対する御仕置のように、今回の大陥没事故が発生した。私は考える、国、高速道路会社、工事請負会社(大手ゼネコンJV)の技術者陣に大きな過信とおごりがあったのではないだろうか。そもそも、地下40m以上の深さで工事を行う場合に適用される大深度法は、何を行っても影響が皆無となるはずもない。大深度で行っている外かん道路トンネル築造工事に採用されているシールド掘削機は、直径約16mと5階建てビルに匹敵し、しかも2本を並行して掘る難工事である。今回の工事状況や事故後の対応、公表された事故原因を考えると、難工事であることを監督官庁、発注者、請負者いずれも、度外視していたと推測したくなる。同じ技術者として情けない! 今回の事故発生現場を請け負っていたJVの頭、鹿島建設は、2020年1月15日に、シールド掘進時に収集されるデータから事故を予測し、施工管理にフィードバックする管理支援システム「KSJS(Kajima Shield Judge announce System)」を開発したことを発表している。何のためのシステムなのであろうか? 開発したシステムは、『掘進工事の事故を予測するシステム』らしい。今回の陥没事故現場には当該システムは使っていなかったのか?

 そもそも、鹿島建設は、私の知っている市街地道路トンネル・築造シールド工事で2度も大きな陥没事故を起こしている。現在の社会基盤整備工事が責任施工であることは、時代の流れなので止むを得ないが、行政側、発注者側の事故を起こした請負業者に対するペナルティを課さないのが一因であると私は考える。私は、今回の事故やその原因を知って、机上の空論を展開し真の技術が分からない、勉強しない技術者が増え続けることに警鐘を鳴らしたい。現状のままでは、社会基盤施設に関係する技術者が国民に見捨てられる時は、直ぐそこまで迫っているのだ。技術者の一人として、誠に情けないし、涙が出る。長くなったが嫌な話、お小言はここらで止めて、私の尊敬する鈴木俊男さんが話した『都市土木のあり方』に移るとしよう。

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