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第4回 ―スイス・日本の事例―

超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強

コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)

上阪 康雄

公開日:2024.01.01

1.はじめに

 超高性能繊維補強コンクリート(UHPFRC)について、筆者は本連載の本年6/1,8/1,そして10/1号にその基本性状およびスイス・フランス・米国・中国・日本の道路橋への適用事例を紹介してきた。本編では、寒冷地への適用例、鋼床版への取り組み、その他の話題を取り上げてみる。

 筆者がUHPFRCに出会ったのは、2011年ローザンヌ工科大学(EPFL)であり、そこで引張試験や曲げ試験供試体を数多く見せて頂いた。さらにブリュービラー教授にUHPFRC最初の適用事例であるMorge橋(23/6/1号)まで案内して頂き、その材料成分、練り混ぜ方法などの資料を頂くことができた。そして2014年には、現在のJ-THIFCOM技術研究会の主要メンバーである三田村浩・合田裕一・今井隆・松田浩氏らと共に、スイス・レマン湖を見下ろすChillon橋の大規模補修工事現場に足を運んだ(図-1)。その当時、筆者は長崎大学インフラ長寿命化センター・道守養成講座に3年ほど職を得たこともあり、松田研究室の学生らと、数多くのUHPFRC練り混ぜ試験を実施した。


図-1 レマン湖畔Chillon高速道路橋のUHPFRC床版補強現場にて(2014.7)

2.スイスにおける最近のUHPFRCの研究と施工例

 近年、ブリュービラー研究室が取り組んだ研究として注目されるのは、疲労亀裂問題を抱える直交異方性鋼床版(OSD)の補強に関する研究であり、補強材料としてUHPFRCをどのように活用するか、中国長安大学のDuan Lan教授との共同研究であろう。この研究には中国からの博士課程研究生も加わり、正曲げ領域および負曲げ領域に対する種々の接合方法による鋼-UHPFRC床版の実験が実施された(図-2)。この試験では、正曲げに対して鋼板上面に40mmのUHPFRC層を被せ(Group1)、負曲げ部には鋼板下面にUHPFRC層を接着した(Group2)。接着の方法として、鋼板表面をサンドブラスト処理した後、無処理(B1)、コネクターの取付け(B2)、珪砂と常温エポキシ樹脂の塗布(B3)、ダブルコネクター取付け(B4)を試験した。鋼板は20mm、UHPFRC層は40mmの厚さ、幅200mm、支間はGr.1で420mm、Gr.2で300mmとした。その正曲げ試験の結果を図-3に、負曲げ試験の結果を図-4に示す。


図-2 OSD-UHPFRCの曲げ試験方法

図-3 OSD-UHPFRCの正曲げ試験結果 / 図-4 OSD-UHPFRCの負曲げ試験結果

 正曲げ試験では、サンドブラスト後の珪砂と常温エポキシ樹脂塗布のケース(B3・緑の曲線)が最も良好な付着を示し、曲げ剛性が鋼板のみの場合(破線)の5.8倍に及ぶことが示された。サンドブラストとダブルコネクター使用のケース(B4・赤の曲線)も鋼板のみの場合の3.2倍の剛性を示した。一方、負曲げ試験の結果は、鋼板のみの場合と比べて、曲げ剛性がE3・緑の曲線の場合で1.8倍とそれほどの効果は見られなかった。負曲げの場合には、UHPFRC層に補強鉄筋を配置する方がよいと判断された。この結果を受けて、中国の洞底湖大橋(Dongting Lake Br.23/10/1号では誤って湖底湖大橋と記載)鋼床版のUHPFRC施工では、サンドブラスト後に珪砂とエポキシ樹脂塗布が実施された。なお、中国の太平橋(Taiping Br.)では、スタッドの代わりに、サンドブラストとコネクター案が採用されている(図-5)。


図-5 太平橋、OSD-UHPFRCの珪砂とコネクターによる接合

 日本においても、三田村浩・植田健介・青木圭一・松本高志・松井繁之氏らが、鋼床版へのJ-テイフコム補強に関する実験を行っている(橋梁と基礎2021/5)。この実験では、長さ3.3m、幅2.727m(主桁間隔2.32m)の供試体の上を繰り返しゴムタイヤもしくは鉄車輪が通過する輪荷重走行が実施された。試験体は、12mm鋼板をショットブラスト後に、硬質骨材を散布し、その上に接着剤を塗布し、J-テイフコム補強厚さは25mmとした。試験状況を、図-6、図-7に示す。


図-6 J-テイフコム補強鋼床版の輪荷重走行試験状況、ゴムタイヤと鉄輪

図-7 鉄輪走行試験の様子

 この試験の結果をまとめると、補強後の乾燥条件下試験(フェーズ1)では、100kN x 110万回ゴムタイヤ 試験(100年相当)後に、目立った損傷は確認されなかった。その後、水張状態で100kN x 6万回ゴムタイヤ試験(フェーズ2)を実施したが、損傷は見られなかった。そこで、荷重を鉄輪200kNに変更し、さらに16万回載荷(フェーズ3)したが、異変は見られなかった。
 なお、比較のため、補強増厚部を撤去した鋼床版の試験も実施した(フェーズ4)。そこでは、200kNx5万回走行の段階で横リブ間中央の縦リブ位置において、ひずみが低下を示した。そして17.6万回の時点で、試験装置が自動停止し、疲労亀裂が認められた。

 スイスは、ご存じのように山の多い国であり、昔から家屋・教会などに木材が多く使用され、世界最古の木造橋と言われる、14世紀初めにルツェルンに建設されたカぺル(Kapell)橋は、その代表と言える。木橋は、現在も新設橋として架けられており、その例として山岳リゾート・リギのフルットリ(Fruttli)橋を取り上げる。この橋は、木造の3主桁とUHPFRC床版から成っている(図-8、図-9)。軽量な木桁は山国での運搬が楽で、上面をUHPFRCで守られることで、耐久性も向上する。外桁に木製の雨返しが設けられている気遣いも嬉しい。なお、本橋は無舗装で表面に滑り止め骨材を散布したのみである。


図-8 Rigiの木-UHPFRC合成桁、フルットリ橋、2020年建設

 図-9a フルットリ橋のジベルとUHPFRC施工

 このような合成木橋建設のメリットは、CO2削減効果が非常に大きいことでもあり、本橋では、一般のコンクリート橋に比べて、ほぼ40%の削減が試算されている。


図-9b フルットリ橋のUHPFRC施工完了と将来のCO2削減効果

 スイスの事例として、既に2023/8/1号に示したFerpecle橋は、単純PC桁の両端目地をUHPFRCで埋め込み、曲げモーメントの低減を図ったユニークな補修・補強工法の橋であり、その現場を筆者が直接、見ることができた橋でもある。その橋の補強後のトラック2台による載荷試験の様子(23/10/30)を入手したので、示したい(図-10)。


図-10 ファーペクレ橋のUHPFRC施工直後の載荷試験と路線バスの仮開放

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