道路構造物ジャーナルNET

Vol.3 あらためて橋の目的を考える(下)

まちづくりの橋梁デザイン

国士舘大学 理工学部
まちづくり学系
教授

二井 昭佳

公開日:2023.09.04

 残暑お見舞い申し上げます。今回もご覧いただきありがとうございます。
 これまで「渡る以外の橋の目的」として、1)場所の印象づけ(意味づけ)、2)滞留できる広場空間、3)商業空間、4)洪水との共生、5)回遊性の向上、6)地場材の活用、7)文化の継承や創造について取り上げました。
 今回は、8)カーボンニュートラルへの貢献、9)人々の物語を紡ぐ、10)地域自治のきっかけについて、事例とともに考えていきたいと思います。

8)カーボンニュートラルへの貢献

 日本政府は2050年までに温室効果ガス(CO2)の排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルの達成を目標に掲げました。これを受け、土木分野でも、コンクリート材料の開発や既設橋梁の長寿命化といった研究開発・実践の取り組みが進められています。

 橋梁の設計現場では、CO2の削減がまだ切羽詰まった課題にはなっていないと感じますが、そう遠くないうちに、重要な設計条件のひとつになると思います。ぜひ、これをチャンスと捉え、新しい魅力的な橋を生み出すムーブメントにしたいですね。可能性はさまざまに広がっていると思いますが、ここでは、CO2削減に加え多面的な価値を創出できる木材に注目したいと思います。

 最初に紹介するのは、戦中から昭和30年後半にかけて架橋された北海道の木コンクリート橋です。この橋梁形式は、建設資材が欠乏する状況で生み出されたアイディアで、もちろんCO2削減を目的に開発されたものではありません。ただカーボンニュートラルをはじめ、地場材の活用や風景との相性といった利点があり、今こそ参照したい橋梁形式です。

 写真1は、現存する木コンクリート橋のひとつ、初山別村に架かる歌越別橋です。昭和38年に国道232号に架設された3連の単純桁で、この形式としては支間が長いため木桁が2段重ねになっています。ヒューマンスケールで風景に馴染む可愛らしい橋です。


写真1 現存する木コンクリート橋、歌越別橋(写真提供:畑山義人氏)

 畑山義人さんたちの論文1)によりますと、北海道の木コンクリート橋は、当時北海道庁の技師で、後に北海道開発局の札幌開発建設部長(初代)や道路公団の試験所長となった高橋敏五郎さんによって発案されたものだそうです。その設計理論の確立に貢献したのは、後に寒地土木研究所の所長となった伊福部宗夫さんだと、吉田紘一さんは回想2)しています。
 木コンクリート橋に関する論文をたどると、『橋梁美学』を著した加藤誠平先生もこの構造に注目していて、昭和25年に土木学会誌にて「木コンクリート集成T桁橋に関する実験3)」を発表しています。その論文では、高橋さん、伊福部さんに触れた後で、新潟の萬代橋や豊海橋を設計した福田武雄先生が『木構造學(昭和24年)4)』にて木コンクリート桁の理論を解明し、諸公式を与えたと述べています。まだまだ掘り下げられそうで、なんだかワクワクしてきます。

 さて道内で350橋以上が架けられ、国道では全体の1割に相当する246橋を数えたというこの形式は、先述したように戦中の資材不足の中で生み出されたものですが、昭和13年から昭和39年の26年間に渡って採用され、特に昭和34年から昭和37年の4年間で約120橋架けられたと聞くと、資材不足のみで採用を説明するのは難しいように思います。耐久性や施工性、費用面などの利点が認められていたのではないでしょうか。

木とコンクリートによる合成桁
 非鉄という点も魅力的

 構造は、初期は角材、後に上面をカットした丸太を50cm程度の間隔で並べ、木材の上面にせん断キーとなる切り欠きと、コンクリートと木材をつなぐ釘を打ち込み、その上に無筋のコンクリートを床版として打設することで、木とコンクリートによる合成桁とするものです。写真3を見ると、桁と桁の間に板が張ってあることから、まず木桁を架け渡し、それを型枠としても利用し、コンクリート床版を打設していたのでしょう。無筋コンクリートということも考えれば、かなり短時間で架橋できたのではと思います。またコンクリートの劣化原因が鉄筋であることを考えると、非鉄という点も魅力的です。


写真2 現存する木コンクリート橋、荒谷橋の桁下の見上げ(写真提供:畑山義人氏)

 残念なことに、北海道の木コンクリート橋は、架け替えが進み、現在では数橋のみとなってしまったようですが、寒地土木研究所の岩田圭祐さんたち地域景観チームが保全・活用に向けた調査活動5)をおこなっていて、私ももちろんですが、みんなで応援していけたらと思っています。

 そして、できれば先輩たちの取り組みを発展させて、現代版の木コンクリート橋を普及していけたらと思っています。木コンクリート橋の優れた点は、コンクリート床版が屋根の役割を果たすことで、水に弱い木材の弱点をカバーしていることです。考えてみれば、長持ちしている木橋は屋根付き橋ですし、雨がかりがきちんと処理されれば長持ちすることは日本の伝統建築で証明済みですよね。


写真3 スイス・バーデンの屋根付き橋、Gedeckte Holzbrücke Baden
 屋根や路面は何度も補修されていますが、木造の橋本体は200年以上経過しています

ヨーロッパの新しい木コンクリート橋の取組み
 桁高支間比は1/30を超えている橋梁も

 ヨーロッパでも新しい木コンクリート橋の取組みが見られます。前回紹介したユルグ・コンツェットさんによるグレンナー橋もそのひとつでした。
 ここではシュヴェービッシュ・グミュンド(Schwäbisch Gmünd)にある2つの歩道橋を紹介します。シュツットガルトの東に位置するこのまちは、水辺・道路空間再編による都市再生を実現していて、まちづくりとしても大変興味深いところです。


写真4 かつては水辺に降りることができなかった川をまちに開き、川沿いの道路の一部を歩道化することで都市再生を実現した
シュヴェービッシュ・グミュンド

 木コンクリートの2つの歩道橋、駅の橋(Bahnhofbrücke)とロココ橋(Rokokobrücke)は、いずれも、この事業の一環で架橋されたもので、2015年のバーデン・ビュルテンベルク州の木材建築賞6)を受賞しています。


写真5 ロココ橋(Rokokobrücke)

 橋梁形式はRC床板とスプルース集成材の合成桁によるラーメン橋です。主桁とRC床版はジベルや鉄筋で一体化されています。
 駅の橋は橋長27,66 m、幅員3.4mで、ロココ橋は橋長25,29 m、有効幅員2.4mです。支間中央の最大桁高(木部)は60cmで、コンクリート床版を含めても80cmしかありません。幅員が小さいとはいえ、桁高支間比は1/30を超えています。端部はコンクリート床版のみとなっていることもあり、緑豊かなまちの風景によく合う軽やかな橋ですよね。


写真6 駅の橋(Bahnhofbrücke)の端部

 木は雰囲気が良いけど、耐用年数が…という方も多いと思います。そこでドイツの耐用年数評価の基礎として用いられている連邦運輸・建築・都市開発省による「償還額計算条例 – ABBV7)」を見てみましょう。ドイツ語ですが、自動翻訳機能を使えばざっくりと内容を把握できます。参考文献にアドレスを記載してありますので、ご興味のある方はぜひアクセスしてみてください。

 この資料には、橋梁についても形式ごとに耐用年数と維持費の目安が記されています。これを見ると、屋根などで保護された木橋の予想耐用年数は 60 年で、年間維持費は建設総額の2%と想定されています。年間の維持費はそれなりにかかりますが、RC橋とPC橋の耐用年数が70年と記されていますので、木橋は健闘しているといえるのではないでしょうか。ちなみに屋根で保護されていない木橋の耐用年数は30年です。屋根などの保護がいかに重要なのかがわかりますね。
 新しい木コンクリート橋の可能性、僕はかなり惹かれているのですが、みなさんはいかがでしょうか?

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