道路構造物ジャーナルNET

㊻インフラの長寿命化に向けて

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.07.16

(1)はじめに~最近の話題~
 ①国道1号線静清バイパスの落橋事故

  7月6日(木)、午前3時頃、国道1号線静清バイパス下り線(静岡市清水区尾羽)で架設中の箱桁が落橋した。記者発表資料によると架設中の橋桁(長さ63m、幅約2.5m、重さ140t)の横取り、降下作業を行っていたところ、約7mの高さから国道1号線脇の歩道上に落下した。この事故による被災者は、2名の死者、重軽傷者6名の計8名ということである。非常に痛ましい事故であった。現在、事故原因の調査中であるが、公表されている資料(橋桁落下の事故について(第3報)(国交省静岡国道)(図‐1参照)によれば以下が原因と考えられる(私見)。
   ・ジャッキベースサンドルの組み方 ・・・本来の井桁組を縦組か?
   ・桁側荷重支持点の補強・・・・未補強か?
   ・左右ジャッキの高さの相違・・・高さ調整が不十分だったか?
   ・ジャッキ操作(降下)とサンドル撤去のミスか?
   ・荷重偏心等


図-1  国交省プレスリリース資料(第3報)

 今後、原因究明が行われ真相が明らかになるつれ、過去の痛ましい事故が頭をかすめる。

 例えば広島新交通システム橋桁落下事故である。
 1991年3月14日、建設中であったアストラムライン(広島高速交通新交通1号線)の橋桁(長さ63m、幅約1.7m、重さ60t)が落下し、14名の死者、9人の重軽傷者を出した。架設工法は今回の橋梁と同様に「横取り降下工法」である。事故原因は、仮受け台のサンドルが井桁状に組まれていなかったこと(同方向に組む縦組を採用)、反力が不均衡になったことから桁下フランジが座屈した、その結果バランスを崩しながら落下した、ということである(図-2参照)。
 広島市は、工事中の通行規制は行わないとしていた結果、信号待ちしていた車両11台を押しつぶし、23人の死傷者を出すという大惨事を招いた。この教訓を受け、今回の工事現場では反対側車線(上り線)の2車線を交互通行規制しながら架設作業を行っていた。

典 ;「供用中の道路上の架設における留意点」―第三者被害事故防止に向けてー
                (一般社団法人  日本橋梁建設協会)

 これまでに発生した工事中における橋桁の落下事故は、来島海峡大橋馬島高架橋架設桁解体中の落下事故(1998年6月10日)、新名神高速道路有馬川橋での桁落下事故(2016年4月22日)、等々。これを受けて、日本橋梁建設協会では「供用中の道路上の架設における留意点-第三者被害事故防止に向けてー(2017年10月26日)という教材を作成している。拝読させていただいたが非常に分かりやすくて、良くできている。今回の事故当事者は、会員会社である。会員の方たちが何故目を通していないのか、非常に気なるところである。来島海峡大橋馬島高架橋事故に関しては、しまなみ管理センターの副所長をしていた頃、合同慰霊祭に出席したこともあり二度とあってはならないし、自分でも当事者には絶対ならないと心に誓っていた。

②タイのバンコクで建設中の高架道路が倒壊

 タイから衝撃的なニュースが入ってきた。6月10日(月)夜、建設中の高架道路が数百メートルにわたり倒壊した。車などが下敷きになり、少なくとも2人が死亡、13人が負傷した。事故の原因は、鋼桁を吊り上げていたクレーン車が横転して桁が地面に落下したようである。現地の写真を見る限りではトラス桁の主構は見えるが、横構や対傾構といった横方向の部材が一切見当たらない。正に、「素人の為せる業」か。こういう事故は連鎖的に発生するので十分気を付けてもらいたい。

③無機質コーティング協会総会と講演会開催

 2023年7月7日(金)、13時30分から「第24回 無機質コーティング協会 定期総会」と記念講演会が開催された。令和5年度の事業計画では、老朽化する鋼構造物、コンクリート構造物の延命化を図る技術の提供を第一目標に掲げ、「環境」、「省工程」、「工期短縮」、これによる「LCCの縮減」を可能とする無機形塗料の啓蒙活動を全国津々浦々に展開するということである。これまで、無機形塗料であるが故の硬さの為に塗膜が剥離する等の損傷が発生したこともあった。

 これらの問題については、幹事会社である㈱セラアンドアースの元、塗料の改善・改良が真摯に進められ、更には阪神高速技術㈱との共同研究により宮古島での暴露実験、阪神高速道路沿線3か所での暴露実験及び室内実験等が積極的に実施され、格段の品質・性能の向上が図られた。これらの集大成として、無機形塗料の規格基準を今回策定するに至った。

一方、厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署からの有機溶剤に関する規制がより一層厳しくなってきている昨今である。有機溶剤を必要としない無機形塗料は、環境面(VOC削減)からも安全性(火災等)の面からも非常に優れている。そこに降って湧いたような「PFAS規制」である。長期防錆型塗装を採用している本州四国連絡橋(海峡部橋梁)では、1970~80年代は上塗り塗料にポリウレタン樹脂塗料を使っていた。その後、1990年代以降の明石海峡大橋、来島海峡大橋及び多々羅大橋では上塗りに耐候性が大幅にアップした「ふっ素樹脂塗料」を採用した。当然のことながら、予防保全型維持管理をしている本四橋の塗替塗装にはふっ素樹脂塗料が採用された。

 今後、仮に「PFAS規制」が発動されれば海外からのふっ素樹脂が入らない、海外に輸出が出来ない、日本の鋼構造物等に使用されているふっ素樹脂塗料が使えない、ということになる。つまり、C-5系(建設時)やR-Ⅰ、Ⅱ系(塗替時)の塗装系が存在しなくなることを意味する。

 <PFAS規制>(道路構造物ジャーナル2023年5月号連載記事)
 一部のPFAS(有機フッ素化合物)の安全性に懸念があることが発端となり、欧米を中心にPFAS全体を対象とした規制が進行中という情報がある。有機フッ素化合物は、塗料を初めとして半導体製造装置、自動車部品他様々な用途に使われている。

 PFAS規制が進んだ場合、ふっ素樹脂塗料が作れなくなる、あるいは無くなる、可能性がある。これに替わる塗料は何か。ふっ素樹脂塗料(上塗り)に課せられているのは耐候性である。ふっ素樹脂塗料(上塗り)と同等以上の耐候性を有し、光沢度が低下しない(つまり、チョーキングが発生しない、し難い)塗料、それは無機形塗料しかないのである。

 次に、総会の後の講演会の概要について紹介する。元(独法)土木研究所 守屋統括主任研究員からは、「PFAS規制」についての動向についてご紹介があった。私の方からは、「社会インフラを守る-無機形塗料の現状と将来-と題して講演を行った。講演の概要を(2)で紹介する。


写真-1 講演会の様子(守屋進氏)/写真-2 講演会の様子(筆者)

写真-3,4 講演会の様子(筆者)

写真-5 懇親会の様子(平良会長)/写真-6 懇親会の様子(芦田京大名誉教授)

④コンサルタントの意義と危機

 当会社に来て早4年が過ぎた。これまで、本四公団(後に本四高速道路会社)、関西国際空港㈱、福岡県庁、阪神高速道路㈱、阪神高速技術㈱とほとんどが発注者側であった。初めて受注者側のコンサルタントに来て、小規模吊橋等の特殊橋梁に関して発注者側に提案して、受注している。技術者を40数年もしていると考えられないことに遭遇する。

 とある小規模吊橋の調査・診断・補修設計業務が公示された。現地踏査、調査・測量、非破壊検査、健全度評価、補修設計、施工計画作成、概算工事費算出等について適正な見積書を作成する。発注者側の公表資料には、特記仕様書、金抜き設計書、予定価格及び最低制限価格が示されている。

 ここでとんでもないことが起こった。私の知る限り、小規模吊橋の調査・診断・健全度評価に関する業務をやったことが無い会社が最低制限価格にランダム係数を掛けた最低制限価格ギリギリで入札し、落札したのである。健全度評価のベースとなる非破壊検査の見積もりも一切取らずに、である。世の中には凄い会社がいるものだと唖然とした。昔、ある道路会社での話。設計課長だった私が「耐震補強工事の積算をするのに現場を見なくても大丈夫か」と聞いたら、若い積算担当者が「角課長、私たちは現場を見なくても積算できます」と言うではないか。唖然とした。担当者の上司に話すと「申し訳ありません。こんな社員が増えて困っています」と。

 私が新入社員時代に叩き込まれたのは現場の重要性である。現場条件の確認しかり、少しでも金が積めるものはないか、そういうための現場確認が必須だった。正に、これと同じ話である。小規模吊橋の調査・診断や耐荷力検討も一切やったことが無いコンサルタントが非破壊検査等の見積もりを取らなくても、入札し、落札できるのである。簡単に言えば、非破壊検査・健全度評価すべてを外注すれば良いという判断であろう。発注者側も業務内容が特殊であるならば入札方式を改善すれば良い。綜合評価型等の公募型入札でも良い。

 ここで重大な見落としがあるのをご存じだろうか。以下に示す、土木設計業務等共通仕様書(案)(国交省) 第1編 共通編 第1128条 再委託条項である。つまり、業務の「主たる部分」は再委託できないのである。世の中の公共工事、建築工事のほとんどが元請・下請からなる多層構成である。それでも、「主たる部分」は元請が責任を果たしている。福島原発事故の後処理で現地事務所に赴任した友人(故人、某スーパーゼネコンの部長)が言っていた。「いつ終わるか分からない巨額の工事を6次とか7次下請けまで使って、工事の管理をするのも大変です」と。長大橋にしろ、トンネルにしろ、「主たる部分」である企画、遂行管理、手法の決定や技術的判断は元請がやることになっている。小規模吊橋の調査・診断・健全度評価・補修設計業務の「主たる部分」は何だろうか。私は、「調査・診断・健全度評価」である、と考えている。補修設計は当たらない。例え金額のウエートが高くても。


土木設計業務等共通仕様書(案)(国交省) 第1編 共通編 第1128条 再委託条項

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