道路構造物ジャーナルNET

⑦トンネル内スラブ軌道の沈下抑制対策

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部
構造技術室 基礎・トンネル構造

渡邉 恭崇

公開日:2023.04.16

1 はじめに

 西日本旅客鉄道株式会社(以下、JR西日本という)で管理する山陽新幹線のトンネルでは、建設時に将来の軌道保守量の低減を目的として、図1に示すとおり、従来の砕石(以下、バラストという)軌道ではなく、路盤として下部から、均しコンクリートまたは、りょう盤コンクリート、路盤鉄筋コンクリートを打設し、その上部に軌道スラブと呼ばれる高強度の鉄筋コンクリート版(二次製品)を設置した軌道(以下、スラブ軌道という)が多く採用されています。昨今では標準的な仕様となったこのスラブ軌道ではあるものの、建設当時に選択された排水方法の問題と、新幹線の走行によって生じる振動の影響で、一部の区間において路盤の下に空洞(以下、路盤下空洞という)が発生し(図2)、軌道が沈下する変状が生じて問題となっています。バラスト軌道の場合、列車走行に伴うバラストの破壊から沈下が生じるものの、軌道整備、または取り替えや補充によって、レール面の高さを変えずに保持することができます。しかしながら、スラブ軌道では、路盤鉄筋コンクリート等が施工されていることから、そのような工事を実施することが困難であり、対応に苦慮しています。本稿では、開業以来の課題である、路盤下空洞の発生に伴う軌道沈下抑制を目的とした対策として実施している工事について紹介します。


図1 山陽新幹線トンネルの断面 / 図2 路盤変状の模式図

2 路盤下空洞の発生原因

(1)変状の発生要因
 路盤下空洞の発生原因は列車振動、一部の地質不良区間の存在の他に加えて、大きく以下の2つの要因が存在し、これらが複合的に作用することで発生している変状であると考えられています。

 ①山陽新幹線岡山~博多間のトンネルで採用された側排水による排水方式の問題
 山陽新幹線は、新大阪~岡山間(以下、岡山以東という)が1972年に、岡山~博多間(以下、岡山以西という)が1975年に開業しています。図3に山陽新幹線の岡山以東の標準断面図を、図4に岡山以西の標準断面図を示します1)。これから、岡山以西では、軌道構造がスラブ軌道に変更されていることに加え、排水方式が、中央排水方式から側排水方式に変更になっていることがわかります。掘削断面の最も低い位置は、両図とも、CL上に設置された中央通路(保守用の通路)に存在することから、地下水位が上昇し、トンネル断面内に流入した水は中央通路を流下することがわかります。図3では、断面内の最も低い位置に排水溝が存在するため、周辺の水の流入や、地下水位の上昇があっても、路盤面を湿潤状態にすることはありません。一方で、図4では、側排水が中央通路面よりも高い位置にあることから、周辺の水は路盤面を通り中央通路へ流入することになります。これにより、図2に示す変状が発生していると考えられています。


図3 岡山以東のトンネル標準断面図(中央排水方式) / 図4 岡山以西のトンネル標準断面図(側排水方式)

 ②掘削時の余堀分を補充するために施工された埋め戻しずり
 スラブ軌道を敷設するためには、路盤の仕上がり精度を向上させる必要があります。また、強固な路盤構造とする必要もあるため、掘削後の路盤の施工方法を詳細に定めていました。しかしながら、山陽新幹線のトンネルは、そのほとんどが花崗岩を主体とした堅固な地質であったことから、余堀が大きい箇所には“良質な”ずりを使用した埋め戻しについても認めていました。図5に当時の路盤構築に関する示方を示します2)。原則として、図5左側に示すとおり、所要の高さまで均しコンクリートで埋め戻しを行うこととされていたものの、余堀が大きい箇所では、右側の赤色で示した部分に、良質なずりを使用することを認めています。現在路盤下空洞が発生している箇所の多くは、この良質なずりで埋め戻された区間であり、一部の地質不良区間と同様の要因を作り出しているものと考えられています。


図5 山陽新幹線建設当時の路盤構築に関する示方内容2)

(2)路盤下空洞の発生から軌道沈下が生じるメカニズム
 崖錐地形などの一部の地質不良区間を除く箇所での軌道沈下のメカニズムは概ね以下のとおりであると考えています。

【軌道沈下発生のメカニズム】
①列車走行の繰り返し荷重により、埋め戻しズリが圧縮され細粒化
②①で細粒化されたものが列車通過時のポンプ作用で地下水とともに流出(写真1参照)
③②の作用により空洞が発生し、①②が繰り返されることにより空洞が拡大
④軌道の沈下が発生


写真1 スラブ上の噴砂の例

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