道路構造物ジャーナルNET

㉞日本の技術力とは 

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫 氏

公開日:2022.07.07

(1)はじめに~最近の話題~

 土木学会第110代会長に上田多門北大名誉教授が就任された。総会後の記者会見で抱負を述べられた。先生のこれまでの海外経験から「アメリカや中国と日本のインフラには大きな差がある。海外の主要国は優れたインフラを持っている」「建設市場が長期的に縮小傾向にあり、研究分野として土木工学が他の分野と比較して必要性が小さいとみられている」、と危機感を示された。先生と同感なのは私も含めて多数いると思うが、反対に衝撃的な発言だと思われた人も相当数いるように思う。1990年代初頭のバブル崩壊以降、政治的判断により公共事業が大いに縮小された。象徴的なのは、鋼橋の発注量が1990年代の年間90万トンから今や年間20万トンに激減である。一方では、建設後50年以上経過した橋梁が2026年度には半数近く(44%)に増加する見通しである。高速道路では、橋梁の架け換え(更新)や大規模修繕が最盛期を迎えている。大規模修繕で目立つのはRC床版の取替であり、高耐久性床版(プレキャスト)が大活躍している。阪神高速では14号松原線の喜連瓜破橋(写真-1参照)の更新工事が行われる。1979年に供用開始された橋長154mのPC3径間有ヒンジラーメン橋である。当時もてはやされた有ヒンジラーメン橋は、国内、国外で数多く建設されたが、どこの橋でも同じような損傷が発生している。多いのは中央ヒンジ部の支承(通称;「ゲレンク沓」)の損傷とエキスパンションジョイントの損傷である。海外ではバングラディシュのメグナ橋のゲレンク沓とジョイントの損傷が有名である。喜連瓜破橋特有の損傷は、中央部の桁の垂れ下がりである。中央ヒンジ部の累積沈下量が30cmを超えたことから、ストラットとケーブルによる補強工事(写真-1参照)が平成15年に実施された。今回の更新工事では3径間の鋼箱桁橋に衣替えである。何と約3年間の通行止め工事である。


写真-1  喜連瓜破橋(更新前)

 日本では道路インフラの老朽化に伴い大規模更新工事や大規模修繕工事が全盛期を迎えつつある。これらの道路インフラの更新や修繕工事は大都市内での工事が含まれており、非常に難易度の高いものである。
 ここで考えてみることにする。アメリカや中国と日本のインフラには大きな差があるのだろうか。上田会長が仰っている空港について調べてみることにする。例えば、世界のハブ空港ランキングに占める日本の大空港のランキングは以下のとおりである。
  第1位   ヒースロー空港(イギリス・ロンドン)
  第2位   オヘア空港(アメリカ・シカゴ)
  第3位   フランクフルト空港(ドイツ)
  第4位   アムステルダム空港(オランダ)
  第5位   ピアソン国際空港(カナダ・トロント)
  第8位   チャンギ空港(シンガポール)(アジアでは第1位)
  その他アジアの空港は、 スカルノ・ハッタ国際空港(インドネシア)、クアラルンプール国際空港(マレーシア)、ランタオ国際空港(香港)、スワンナプーム国際空港(タイ・バンコク)、仁川(インチョン)国際空港(韓国)、ドバイ空港(UAE)が続き、羽田空港は第21位である。(資料;OAG社「メガハブ空港ランキング」より)
 
 何と世界のハブ空港を目指していた関西国際空港や成田空港をダントツで抑えて羽田空港がそれらの上位(21位)にランクインしている。羽田空港のランクインの理由は、2010年に国際線の新ターミナルと新しい滑走路がオープンしたことにより、欧米やアジアの17都市と国内48都市を結ぶ航空ネットワークが整備されたことによるものだ。羽田空港は成田空港と比べ都心からのアクセスに優れ、24時間運用が可能なことが結果となって現れた(一部、空域利用で問題もあるようだ)。ここで注目すべきは中国の国際空港がランクインしていないことである。北京首都国際空港や上海浦東国際空港という超ビッグエアポートが。
 

 話を戻すと、上田会長が「日本と海外のインフラでどこが決定的に異なるのか」という質問に答えておられる。「40年前の日本の飛行場は貧弱だった。当時のアメリカの主要空港のスケールは、現在の羽田空港や成田空港と同等かそれ以上だった」と。根本的に違うのは、国土の大きさと移動手段に対する考え方の違いではないかなと思う。アメリカの西海岸と東海岸では3時間の時差がある。東海岸のニューヨークから西海岸のロサンゼルスまで電車や車で移動する人はまずいないであろう。国土の大きいアメリカ人の移動手段の基本は航空機であり、これに伴い使い勝手の良い空港(ハブ空港)が整備される。日本では厳密には北海道と沖縄で2時間ほどの時差があるようだが、移動の基本は列車や車(高速道路等)である。

 このため、高規格道路や高速鉄道(新幹線)が急速に整備された。時代の流れなのか、「時間を金で買う」という意識が芽生え、航空機での移動が少しづつ増えてきている。日本の場合、空港の整備といっても土地が無い、陸地に作れば騒音問題で叩かれる、24時間運用可能な空港は陸地には作れない(成田空港の失敗)、世界トップレベルのハブ空港にしたい、という思惑から関西国際空港を建設した。しかし、建設費償還に伴う空港使用料が高過ぎて中々新規路線が開拓できない。航空会社も集まらない。私も関西国際空連絡橋や北九州空港連絡橋建設に携わったが、何とも複雑な思いだ。日本と海外のインフラに差があるわけではなく、色々な制約の中で建設していった日本の技術力は欧米と比較して劣っているとは全然思わない。それどころか優れた技術力だと思う。
 以下には日本の技術力と海外の技術力についてこれまで訪問した国の状況を示し、コメントを述べることとする。

(2)中国の技術力

 道路構造物ジャーナルNET、2020年5月1日号、長大橋技術大国へひた走る-中国雑感-に示した通り、日本に追いつけ、追い越せであっという間に2馬身差をつけられたという感じである。空港、港湾、高速道路、長大橋等、日本の戦後70年のインフラ整備を僅か10~20年で達成した。河北省では、「コンクリート橋から鋼橋へ」の政治号令の下、波型鋼板ウエブ橋が数多く建設されていった(写真-2参照)。


写真-2 河北省刑台市波型鋼板ウエブ製作工場(生産能力20万t/年)

  浙江省では、寧波舟山港主通道プロジェクトの為に整備された大規模なプレキャストブロック工場が稼働していた(写真-34参照)。品質の向上と工期短縮を狙ったプレキャストブロック工法は今や世の中の主流である。


写真-3  寧波舟山港主通道プロジェクトの為に整備されたプレキャストブロック工場

写真-4  寧波舟山港主通道プロジェクトの海上部橋梁と陸上部橋梁プレキャストブロック)

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