道路構造物ジャーナルNET

③国総研における道路構造物の維持管理支援

筑波山の麓より

国土交通省
国土技術政策総合研究所
所長

木村 嘉富

公開日:2021.08.31

1.CX

 8月20日から9月12日までの間、茨城県にも緊急事態宣言が発令されました。国土技術政策総合研究所(以下、「国総研」と略します)では、新型コロナウイルス感染症拡大防止を図るため、手洗い、消毒といった基本的な対策はもとより、従来から取り組んでおりました在宅勤務を出勤者数の7割削減を徹底すべく取り組んでおります。また、会議や打合せにおいてもWEB会議等を活用しているところです。 関係各位、来庁される皆様にはご迷惑をおかけしますが、引き続き、コロナ感染症拡大防止措置にご協力いただきますようよろしくお願いいたします。
 在宅勤務7割というと、出勤は3割となります。3割というと、1日出勤、2日在宅のローテーションで概ね可能とも感じます。ところが、私たちの場合1週間の勤務日数は5日ですので、3割というと1.5日、つまり、ある週に2日出勤すると翌週は1日のみの出勤となってしまいます。皆様方も同じでしょうが、在宅勤務で支障なく業務を実施できるよう、環境整備のみならず意識自体も抜本的に見直してく必要があります。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)が話題となっていますが、新型コロナ対応で否が応でも働き方が大きく変わってきています。CXです。国総研でもコンサルタントなどへの委託業務については、打ち合わせはもちろん、プロポーザルのヒアリング、完了検査も原則WEB会議となっています。所内の会議も、以前は参加人数を絞った上で、窓を開けた広い会議室に集まって開催していたのですが、最近は、在宅はもちろん出勤していても会議室ではなく自室でのWEB会議としています。
 昨年はWEB会議に慣れない点もあり、会議進行や活発な議論に苦労しました。そもそも、WEB会議の準備も大変でした。最近は慣れてきたためでしょうか、10人以下の会議では、参加者の表情も見ながら円滑に進めることが出来るようになっています。ただし、対面式に比べると得られる情報に制約があり、初めての方との一体感が産まれにくく、また、人数が多い場合には特定の方との雑談も行いにくく感じています。
 また、WEBでは、見ることは出来るのですが体感できないという限界もあります。国総研では、毎年、夏休み期間中に「つくばちびっ子博士」として、子供達に研究所を公開してきました。しかしながら今年は中止となり、動画視聴とそれに基づくクイズによるパスポートの発行となっています。次のサイトです。8月中のため、公開が終了していた場合には、ご容赦願います。
https://www.city.tsukuba.lg.jp/kankobunka/event/1015329.html


図-1 つくばちびっこ博士2021における国総研紹介動画

 多くの研究機関から動画が公開されており、国総研からも「VR国総研」を紹介しています。来場の代わりにVRで国総研内を自由に散策してもらおうというものです。よろしかったらご覧下さい。ただし、現在のVR国総研では、土木施設の大きさや、高速走行時の感覚などがお伝えできていません。今後、工夫していきます。VR国総研は次のページです。
http://www.nilim.go.jp/lab/bbg/vrkokusouken/index.html

 WEBの限界はありますが、その一方、出勤や会議参加のための移動時間が不要となり、効率的になりました。また、多くの講演会やセミナー等がWEBで参加でき、あるいは、一定の期間自由に視聴できるなど、情報を得る機会は増えました。在宅勤務の隙間時間をみて、興味のある講演などを視聴しています。最近視聴しているものとして「大石久和のオンライン国土学ワールド」があります。数分程度ですのでちょっとした空き時間に視聴できます。
 国総研講演会も昨年に引き続きWEB開催とする予定です。遠方の方も参加しやすくなるため、昨年は従来に比して参加者が2倍近くまで増加しています。9月6日からは土木学会全国大会がWEBで開催されますので、いつどのイベントに参加しようか、これから考えます。なお、イベント参加のメリットとして多くの方々にお会いできるという点もあったのですが、これは別な手段を考えざるを得ません。

2.国総研20年(再び)

 前回「国総研20年」として、国総研の設立経緯や使命、組織と共に、国総研20年史を紹介しました。そこでは、目次の代わりに研究開発の年表と、3つの柱とした「強」「用」「美」の観点から概要のみを紹介しました。具体的な記述については、国総研のHPをご覧いただければとの想いで、そのようにしたところです。
 これに対して、知り合いの方から、「具体的な内容について紹介されていない」「20年史に何が掲載されているのか伝わらない」といった助言をいただきました。このため、第3回目では、代表的な事例として「道路構造物の維持管理支援」を紹介させて頂きます。既に、国総研のHPでご覧になった方も多いかとは思いますが、ご容赦願います。

 前回紹介しましたとおり、平成13年4月1日に発足した国総研が、今年で20周年を迎えました。20周年という節目を機に、発足以来実施してきた主要研究課題について、出来事や社会の変化と対比させつつ研究の進展や成果を顧みる形で、「国総研20年史」をとりまとめています。
http://www.nilim.go.jp/lab/bbg/20nenshi/index_20years.htm
 そこでは、「国土技術政策を支える研究開発」として47例を取り上げ、「強」「用」「美」の視点から整理しました。道路に関する研究の例として次を取り上げています。

【強】 国土を強靱化し、国民のいのちと暮らしをまもる研究
 ・平成28年熊本地震への復旧支援-災害復旧現場への研究室の設置
 ・道路構造物の防災・減災・危機管理
 ・道路構造物の維持管理支援
【用】 社会の生産性と成長力を高める研究
 ・路車間での情報の収集・配信機構の開発とETC2.0 プローブ情報の利活用
 ・道路構造物の技術基準類の策定・改定
 ・建設現場の生産性向上
 ・多様な入札契約方式の導入支援
【美】 快適で安心な暮らしを支える研究
 ・道路環境の影響評価・保全技術
 ・道路緑化の推進(街路樹・のり面緑化)
 ・社会要請の変化に対応した道路の幾何構造
 ・幹線道路の交通安全対策

 また、「技術力を駆使した現場への貢献」で紹介している次においても、道路関係の取り組みを掲載しています。
 ・災害・事故への高度な技術支援
 ・国際研究活動
 ・現場技術力の向上
 ・データの収集・分析、社会への還元

 今回は、上記の中から、「道路構造物の維持管理支援」について紹介します。

3.道路構造物の維持管理支援

 国総研では道路構造物の老朽化対策として、定期点検を核とした適切な道路管理の実施のために、点検やマネジメントに関連する技術基準や参考図書類、そしてこれらを適切に実施するための研修制度や道路管理者の技術支援の充実に必要となる研究を実施してきています。
 また、これらの研究を背景に、調査・検討委員会活動など国や道路管理者が行う事故・被災事例の分析、定期点検の法制化や技術的助言(定期点検要領)の策定、道路管理者に対する研修や直轄診断に代表される技術支援などの活動でも主体的な役割を果たしてきました。道路構造物の維持管理施策と国総研の活動を図-2に、道路構造物のメンテナンス体系のイメージを図-3に示します。


図-2 道路構造物の維持管理施策と国総研の活動

図-3 道路構造物のメンテナンス体系のイメージ

 以下、時系列にしたがって、主な活動や研究成果を紹介していきます。

(1)メンテナンスサイクルの確立
①2004.3 直轄国道の道路橋に関する定期点検要領(案)の策定
 道路の老朽化対策のための国土交通省の取り組み全般は道路局のホームページにまとめられています。
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html
 国総研が設立された当時は、予防保全的な管理への転換、そのための点検体系の見直しや、アセットマネジメントの導入の必要性の議論が始まったところでした。そのような中、国土交通省は、2004年(平成16年)に国が管理する道路橋について5年に1度の定期点検を実施することとし、定期点検要領を改定しています。
 旧要領は、旧建設省土木研究所が1989年(昭和63年)に策定したものでした。旧要領が用いられていた約15年の間に得られた道路橋の損傷に係わる知見をできるだけ踏まえ、また、適切な時期に適切な予防保全が図られるような点検体系となるように改定されました。


図-4 道路構造物の劣化損傷の例

 このときの改定は、後に全国の道路のトンネル、橋梁等の定期点検の法制化、長寿命化修繕計画の策定支援にあたって重大な事項を含むものでした。そのいくつかは以下のとおりです。

◯頻度と方法: 旧要領では、定期点検を10年に1回の近接目視と2年に1回の遠望目視で行うことを念頭に定めている。新要領では、定期点検後10年以内に補修等が必要な損傷の事例が度々見られることや鋼部材の疲労など劣化による損傷が増加しつつある状況を踏まえて、定期点検の頻度は5年以内毎となった。また、点検方法についても、遠望目視では発見できない箇所の損傷も確実に取得し、かつ、必要に応じて打音・触診等必要な対応が行えるよう、近接目視により行うこととした。

◯診断とデータ: 旧要領では、損傷の種類毎に機械的に損傷の程度と損傷度を分類していたが、損傷の外観の程度が同じあっても、たとえば、損傷の原因や進行可能性によっても対策の切迫性は異なるなど、対策の必要度や目的を直接的に示唆する情報としての有用性には改善の余地があった。そこで、新要領では、技術者が、構造や損傷の原因などの工学的な考察を行い、損傷に対する対策の必要性や緊急度の所見を残す診断行為(対策区分の判定)と、損傷の位置、種類、外観の程度を客観的かつ連続性のあるデータとして取得、記録するための損傷程度の評価の2つの系統の評価をそれぞれ行うことにした。対策区分の判定は、橋毎に固有の工学的判断としてのミクロ的な観点の情報である一方で、後者の損傷程度の評価は、全国の道路橋で同じ評価方法、体系で評価し、記録することで、時間的に連続性のある質の高いデータを蓄積し、マクロ的な橋梁群の状態評価を行うことで国としての施策の検討を行ったり、道路橋の設計等も含めた技術基準の改善点の分析を行ったりするための基礎データを蓄積することを視野に入れたものである。

 その後、劣化が原因と考えられる道路の標識、照明柱の倒壊等の発生も顕著になったことを受け、国総研でも各地方整備局等と連携しながら、損傷のデータ分析等、直轄国道における定期点検を円滑に実施するための研究をおこなってきました。その成果も踏まえて、2010年(平成22年)からは、直轄国道で標識・照明柱の定期点検が行われるようになっています。

②維持管理義務化の必要性を認識することとなった大きな転機~トンネル天井板の落下事故~
 2012年(平成24年)12月に中央自動車道笹子トンネルにて、トンネル換気のために設置されている天井板及び隔壁板等が約140mにわたり連続して落下し、死者・負傷者が生じる事故が起きました。
 国土交通省では、落下の発生原因の把握や、同種の事故の再発防止策について専門的見地から検討することを目的として、「トンネル天井板の落下事故に関する調査・検討委員会」を設置しました。国総研では、当時道路研究部長が委員として参画するとともに、委員会の調査に全面的に協力し、現地調査の実施、近接目視、打音・触診による点検方法の効果の検証、現地調査や事故発生要因の分析を支援しています。


図-5 笹子トンネル天井板の落下事故

 上述の調査・検討委員会は現地調査等を実施し、2013年(平成25年)6月に報告書をとりまとめ、公表しました。事故の原因は、設計・施工段階、経年劣化、維持管理面での要因が複数作用し、累積されたものと分析されています。
 たとえば、維持管理面については、トンネル天頂部にて天井板を吊り下げるための接着系ボルトの状態に明確な裏付けがないまま、点検計画の変更などにより管理者が定めていた近接での目視及び打音の実施が先送りされたことや、過去の点検で変状が確認されていた履歴がその後の点検等の維持管理に反映されていなかったことが、維持管理上の課題として指摘されました。これを受け、安全性の確認、維持管理記録の保全、計画的な措置の実施について、最低限の義務化の必要性の機運が高まりました。

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