道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- ㊹高齢橋梁の性能と健全度推移について(その1)‐将来に残すべき著名橋になすべきことは‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2018.12.01

はじめに

 前回まで、鉄筋コンクリート道路橋に発生している変状について、要因別に分析した結果を5回に渡って私見を含め詳細に説明してきた。今回私は、新たなシリーズを始めるにあたって、連載した5回分を遡って読み返してみた。結論としては、私が取り纏めた連載の趣旨が読者の多くの方々に、正しく伝わらなかったかもしれないと不安を感じた。その理由として、私が執筆した文章や分析資料からは、鉄筋コンクリート構造物の抱えている危機的状況が感じられないからだ。
 何故だろう。その理由は、分析の対象とした鉄筋コンクリート構造物の状態が良すぎたのかとも感じている。それならば、鉄筋コンクリート構造物の安全性や耐久性が高いことを証明したことになるので、それはそれで価値があるとお思いの方もいるであろう。しかし、それは私の本旨とは違うと、私は言いたい。外面は良く見えても隠れた危機的な事象があり、それをいかに早く発見し、適切に措置することが管理者として必要なのだが。例えば、今回の分析においても明らかとなった施工不良を起因とした変状の数の多さや、それを放置している管理者の対応を指している。それとともに、シリーズ連載中に発生した海外の橋梁事故は、いずれも現代の技術者が持つ能力や知識不足の隙間をついたとも感じ、猛省すべき事例だからである。鉄筋コンクリート構造物のメンテナンス不足に話題を戻そう。

 鉄筋コンクリート道路橋は、発生している変状が顕著であったとしても管理者の関心度は低い。その理由は、当初建設時に関わる技術者のモチベーションの低さもある。構造物としての規模が小さいことから、測量試験費や建設工事費も安価であり、言い方は悪いが主要構造物のおまけ的ポジションなのだ。また、供用開始した後も、鉄筋コンクリート道路橋は外観からも目立つこともなく、社会の大きな話題となることも皆無である。
 しかし、規模の大小にかかわらず、交通機能を支える構造物としての役目は同じであり、当然、鉄筋コンクリート道路橋にも安全・安心が求められている。我々が良く口にする、道路網形成の観点から考えると、たかだか小さな点として扱われなくても必要不可で、点のような橋梁がなくなれば路線としての機能を失うことになる。
 写真-1のA橋を見てもらいたい。A橋には、橋面の隅に付け足されたような防護施設(直近に施工した?)が確認できるが、これで歩行者の安全を確保していると言えるのであろうか? 歩行者が橋梁外に落下しないように、転落防止柵(高欄)の高さは路面から柵天端まで1.1m以上確保しなければならないと国から指導されているはずだ。貴方の周りに同様な構造物、道路橋はありませんか?


写真-1 通行人が水路に落下するリスクを抱えるA橋

 次に、写真-2のB橋を見てもらいたい。B橋の側面に回ってみると、橋台には大きなコンクリート欠損が確認でき、草も生えている。また、鉄筋コンクリート主桁は鉄筋が露出し、腐食が進み断面欠損している。これが現在の国内道路管理の実態なのだ。本連載読者の周りには、ここにあげたような問題を抱えた社会基盤施設がないことを祈るばかりである。


写真-2 メンテナンスの不足を実感するB橋

 前回までのシリーズ分析結果は、今回示した二つの事例を正しく反映した結果になっていたとはとても言えない。しかし、私の危機感を映し出す、劣悪な状態を示す事例も数多く掲載した。私としてはそれなりに有益であったと考えている。いつも私が口にする、リスク管理、ハインリッヒの法則を思い出してもらいたい。重大変状がひとつあれば、その下には無限大の重大変状予備軍が隠れていることを忘れてはならない。
 見方を変えて考えてみよう。規模の大きな構造物の変状分析は、数多くの研究者が行い、分析結果もそれなりに学会等で公表されている。規模の小さい構造物の変状分析資料は、アピール度も少ないことからか公表されたものはほとんどない。研究者の姿勢として、社会の注目度が低くても、だれも行ったことのない研究や分析が新たな視野を開き、役立つことを知ってもらいたいのだ。
 構造物の変状について考える視点を変える。例えば、劣悪な変状事例ではなく、変状が少ない構造物を対象とした分析も高度なメンテナンスに役立つのでは、と私は思っている。その理由は、規模の小さい構造物、道路橋は星の数ほど存在している。分析母数が多ければ分析結果の精度も信頼性も上昇する。また、変状のない構造物、変状の少ない構造物を対象に調査・分析することで、変状の少ない理由、事故にならない理由を明らかにすることができるからだ。ぜひ私の連載を読まれている方々は、前回までの5回分をもう一度読み返し、私が言わんとすることに気づいて欲しい。それが、道路橋のメンテナンス不足を起因とした、否、社会基盤施設のメンテナンス不足を起因とした事故の減少に繋がるからだ。

 他の人への忠告はこのくらいに留め、自らの反省の弁を述べよう。それは、前回、11月1日に掲載したシリーズ最後の話についてである。鉄筋コンクリート道路橋シリーズの最後となった『その5』は、跨線橋点検の困難性、下部構造の変状、そして、耐久性向上に向けた提言と、盛りだくさんとなってしまった。当連載を企画している井手迫記者は、「髙木さん、今回の原稿、3つに分けられますよね! そのほうが、購読者の理解度が深まるのでは? もし良ければ、今回の内容を分割しませんか?」と提案された。しかし、私も意固地な性格、『前回、5回で終わると文末に書いたのだから、その6はない!!』とはねつけた。
 私も冷静になって掲載した文章を読み返してみたところ、いささか消化不良的な内容、結論となっていた。後の祭り、執筆した本人として後悔の念一杯である。その反面、確かに分かりにくい箇所が多かったが、鉄筋コンクリート構造物分析への熱い私の思いは読者に伝わったのではないか、私は使命を果たしたとも思えた。しかし、読み手は大変だ。今後は1回分の量を考え、読み切るのが容易な量とすることを第一にと考えている。

 それでは、心新たに新シリーズを始めよう。今回のテーマ―は、著名な橋梁、私が考える遺産を次世代に確実に引き継ぐには、である。私が東京都において、全国初の中長期計画策定・公表を画策、思い悩んだ時期、橋梁の長寿命化が本当に可能かを考えた当時の話である。
 全国数多くの道路管理者が避けては通れない道路橋の長寿命化、特に多くの人々が愛する著名橋を次世代に引き継ぐことが可能か! にある。隅田川に架かる道路橋の中には、大正時代以降に架けられ、戦禍にも耐えた都民の愛する著名橋が数多くある。私は、流行りとなった予防保全型管理の流れに乗って軽はずみに、橋梁の長寿命化ができますと口にすることは、本当に大丈夫なのかと自らに問いかけていた。
 いつものことではあるが、答えが見つからない時は、関係しそうな資料を言い方は悪いが手あたりしだい確認すると、糸口が見つかることがあった昔の経験を、ふと思い出した。そこで、自らの周りにある過去の資料を紐解き、1970年代に行った震災復興橋梁の調査資料を見つけだした。その資料には、当時の技術者の橋への熱い思いが満ち満ちており、先駆的な取り組み、例えば、系統立てた変状部材の整理、設計荷重と実荷重の対比、載荷試験による歪、たわみ、振動モード計測などが記載されていた。
 それを読み解くうちに、昔の橋でも十分な耐力はある、高齢化が進む著名橋の長寿命化は可能との結論に至った。その後、長寿命化対象となる橋梁の具体的な長寿命化着手時期や工法等を検討、精査の後に『管理する橋梁の中長期計画』公表となった。
 今回は、私が道路橋の長寿命化を公言し、『管理する橋梁の中長期計画』のアピールポイントとなった著名橋の長寿命化を決断した根拠を示すとしよう。それに加えて、過去に行った定期点検結果の中から、15年分3回の健全度診断結果を対象に、変状に相関が高い技術基準、橋長、交通量、構造別、建設年次、そして地域性の6つの要因別に、健全度を分析した内容も話題として提供としよう。今回は、技術基準の変遷と国の重要文化財・永代橋である。まずは、技術基準の変遷について説明する。

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