道路構造物ジャーナルNET

土木研究所集中連載②

高出力X線によるコンクリート内部の可視化技術の開発

国立研究開発法人 土木研究所
構造物メンテナンス研究センター (CAESAR)
橋梁構造研究グループ 上席研究員
(検査技術・コンクリート構造物担当)

石田 雅博

公開日:2016.08.31

1. はじめに

 ポストテンション方式のPC構造物では、近年グラウトの充填が十分に行われていない事例が確認されている。シース内にグラウト未充填箇所が存在すると、雨水や塩化物イオン等がシース内に侵入する恐れがあり、その結果PC鋼材が腐食、破断し、最終的に落橋という重大事故に繋がる可能性もある。
 現在、超音波法などによる未充填個所の把握手法が検討されているが、鋼材が複数配置された個所などにおける検知は困難である。一方、X線による撮影では、グラウトの充填状況や鋼材腐食の有無を把握できるが、従来の出力300keV程度では、コンクリートの厚さが30~40cm程度が限界と言われており、撮影に時間も要する。
 そこで土木研究所では、東京大学、理化学研究所とともに、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術の一環として、高出力X線源によるコンクリート橋検査技術の開発を行っている。

2. X線発生装置およびX線検出器

 現在、橋梁調査で用いているX線源はその出力が300keV程度であるが、部材厚が400mmであると撮影に60分程度の時間を要する。一方、X線の利用を規定している放射線障害防止法においては、屋外で使用する場合、橋梁検査に限って4MeVまでの加速器の使用が認められている。
 本研究では、現場適用に向けて新たに950keV X 線発生装置(以下950keV機)、および3.95MeV X線発生装置(以下3.95MeV機)を開発した。3.95MeV機の全体像を写真-1に示す。装置は、X線源、高周波発生装置、電源、水冷ポンプから構成されている。高出力の他装置に比べ重量が小さいのが特徴であり、既存の橋梁点検車に搭載可能なように、X線源等を200kg以下に抑えている。


写真-1 950keV機の構成/写真-2 3.95MeV機の構成

 透過型で撮影を行うために、X線発生装置の反対側にX線検出器を置いて撮影を行う。検出器には、放射線が照射された物質にある特定のレーザ光を照射すると、発光現象が生じることを利用したイメージングプレート(Imaging Plate:IP)と、平面状に配置された半導体検出器によりX線の分布強度を測定する検出器にX線フラットパネル検出器(Flat Pannel Detector:FPD)がある。いずれの検出器もデジタル情報として画像を取得することができる。

3. 橋梁での適用事例

 グラウト未充填区間を設けたPC箱桁の模擬供試体を作成し、950keV機で撮影を行った。箱桁の外側にX線発生装置を設置し、箱桁内部に検出器を置いて撮影を実施した。撮影時間は1秒程度で画像を得ることができた。写真-4に示すように、シース内のグラウト充填区間と未充填区間を識別することができた。


写真-3 グラウト未充填区間のある模擬PC供試体の撮影/写真-4 模擬供試体の撮影結果

 また、PC箱桁の内部に水が滞水し箱桁下面のPC鋼材の一部が破断した実際の橋梁で、950keV機による撮影を行った。X線源をマンホールから箱桁内部に入れ、検出器を箱桁の外側に配置し、箱桁下面の撮影を行った(写真-5、写真-6)。 箱桁内のX線源と箱桁外の検出器を移動させて撮影を行うことにより、床版下面の広い範囲を撮影することができた。PC鋼材の腐食や破断の様子を撮影することができた。

 
写真-5 機器の搬入 /写真-6 箱桁内部の設置状況

写真-7 箱桁下面の撮影状況

4. おわりに

 外観目視だけではわからないコンクリート橋の内部鋼材の腐食や破断、グラウト充填の状況等について、高出力X線により調査することが可能となった。外観目視や他の非破壊試験方法と組み合わせることにより、調査の効率化・高度化が図れるものと考えている。今後、PC箱桁の他の部位やT桁等の形式でも実績を積み重ね、調査方法を確立していきたい。
【土木研究所集中連載】
③既設橋の液状化被害を防ぐための橋梁基礎の耐震性能評価方法と耐震対策技術の開発
①道路橋桁端部の腐食対策に向けて -既設コンクリート道路橋の桁端部用排水装置の開発-

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