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インタビュー詳細

武若耕司委員長インタビュー

土木学会 「亜鉛めっき鉄筋を用いたコンクリート構造物の設計・施工指針(案)」を改訂

土木学会コンクリート委員会
亜鉛めっき鉄筋指針改訂小委員会 委員長
鹿児島大学
教授
武若 耕司 氏

 土木学会コンクリート委員会亜鉛めっき鉄筋指針改訂小委員会は、土木学会 「亜鉛めっき鉄筋を用いたコンクリート構造物の設計・施工指針(案)」を改訂した。エポキシ樹脂塗装鉄筋をはじめ、ステンレス鉄筋やFRP筋などが出てくる中、亜鉛めっき鉄筋を改訂した意図について、武若耕司委員長にその内容を詳細に聞いた。(井手迫瑞樹)


60~100年のコンクリート構造物の長期耐久性を確保するに足る材料

 ――1980年以降、指針を改定してきませんでしたね。

 武若教授 まず、亜鉛めっき鉄筋について申し上げますと亜鉛めっき鉄筋の開発と利用について初めて言及したのは、1977年の土木学会『海洋コンクリート構造物設計施工指針(案)』です。次いで79年に建築学会で初めて『亜鉛めっき鉄筋を用いた鉄筋コンクリート造の設計施工指針』を出し、80年には土木学会でも、今回の指針の前指針となる『亜鉛めっき鉄筋を用いる鉄筋コンクリートの設計施工指針(案)』を出し、指針制定を受けて昭和55年版コンクリート標準示方書の解説書中に亜鉛めっき鉄筋の指針の解説を合わせて掲載しました。

 実は、この亜鉛めっき鉄筋の指針は、現在、防食鉄筋としてよく使用されているエポキシ樹脂塗装鉄筋の土木学会指針よりも時期的には早く出されています。しかし、1980年代前半にコンクリート構造物中の鉄筋腐食問題が、コンクリートクライシスの大きな原因としてクローズアップされ、これと時期をほぼ同じくして、1986年に土木学会でエポキシ樹脂塗装鉄筋の指針が制定されたことから、その後の防食鉄筋の主流がエポキシ樹脂塗装鉄筋となり、それ以降、亜鉛めっき鉄筋の使用量は少なくなっていました。なお、余談になりますが、私もこのエポキシ樹脂塗装鉄筋の指針制定にあたって、この指針制定委員会の委員長であった小林一輔先生(当時東大生産研教授)の下で委員として参画させてもらい、博士論文の一部にもこのエポキシ樹脂塗装鉄筋を用いた鉄筋コンクリート部材の性能評価結果も取りまとめて示しています。

 また、1983年に制定された日本コンクリート工学協会(当時)の『海洋コンクリート構造物の防食指針(案)』では、亜鉛めっき鉄筋とエポキシ樹脂塗装鉄筋が併記されていましたが、その後、防食鉄筋としてエポキシ樹脂塗装鉄筋の使用が主流となったこともあり、91年に改訂された同指針では、防食鉄筋としての亜鉛めっき鉄筋は削除され、エポキシ樹脂塗装鉄筋のみが防食鉄筋として示されるに至りました。

 なお、塩害対策としての亜鉛めっき鉄筋が削除された理由は、亜鉛めっき層は、運搬や施工時のめっき層は、エポキシ樹脂被覆鉄筋の塗膜に比べて衝撃などの損傷は受けにくいものの、コンクリート中のような高アルカリ環境下で亜鉛が徐々に消耗し、また、塩分環境下でも消耗することから、防食の信頼性に懸念が生じていたことが主たる理由です。しかし、今回の改訂作業の中で、種々の環境下での亜鉛めっき層の消耗速度を定量的に示すことで、60~100年のコンクリート構造物の長期耐久性を確保するに足る材料であることを立証でき、現在の土木コンクリート構造物構築にあたっての基本的な考え方である性能照査型設計手法の概念を適用できることから、今回の指針改訂に至ったものです。


(資料は武若教授提供、以下注釈無きは同)

 ――上記とオーバーラップするところもありますが、そして今回指針を改訂するに至った理由は

 武若 先ほども触れましたが、高いアルカリ環境下(pH12.5)であるコンクリート内部では、亜鉛めっき層が消耗してしまうのではないかという点と過酷な塩害環境下で亜鉛めっき層がどの位まで持つのかを、指針制定当時は定量的に実証できませんでした。また、めっき層が部分的に消耗していても、実は、亜鉛めっきの犠牲防食作用で、鉄筋素地の腐食を一時的に止めることのできる効果がわかりにくかった点も、わが国で利用が十分に進まなかった理由の1つかもしれません。一方で、エポキシ樹脂塗装鉄筋の場合は、樹脂被覆により、腐食因子を鉄筋から遮断するという分かりやすいメカニズムであったため、多くの現場で使われるに至ったと考えます。

 ただし、エポキシ樹脂塗装鉄筋も、良い点だけではありませんでした。米国でも当時はエポキシ樹脂塗装鉄筋が使われていましたが、米国フロリダ州キーウェストで、この鉄筋の使用が、問題を起こすに至りました(※編注 フロリダ州キーウェストでおきた粉体塗装型エポキシ樹脂塗装鉄筋の腐食、施工時の引きずりなどにより、樹脂塗膜に予想外の損傷が発生し、このため鉄筋腐食が早期に生じて、構造物に損傷が発生するに至った。このため、フロリダ州では、その後、道路橋での同鉄筋の使用を禁止するまでに至った。(土木学会論文集2006年11月田中良樹氏らの「北米における実構造物コンクリート中のエポキシ樹脂塗装鉄筋の性能」などが詳しい)。

 上記の事例からもわかるように、エポキシ樹脂塗装鉄筋の最大の課題は、運搬・施工時に乱雑に扱うことによって生じる塗膜の損傷を如何に無くすかということです。これらの損傷は、コンクリートに埋めてしまえばわからなくなり、結果、健全な防食鉄筋では起こらないはずの早期の腐食とこれに伴う構造物の劣化が生じることになります。もちろん、「エポキシ樹脂塗装鉄筋を用いるコンクリートの設計施工指針改訂(2010年)」を経て、そうしたエポキシ塗装鉄筋使用における注意点の周知がなされるに至り、問題点は大分改善されていますが……。

 こうした点からも、防食鉄筋の選択肢を一つに絞るのは良くないと思い始め、亜鉛めっき鉄筋にも課題はあるにせよ、性能照査型設計体系の中で、この鉄筋の信頼性を定量的に示すことが出来るのであれば、亜鉛めっき鉄筋もその選択肢の1つとして使えるようにすべきではないか、と考えました。

亜鉛めっき鉄筋の施工例(当社撮影)

 ――ステンレス鉄筋やFRP筋も開発されてきていますが

 武若 そうした防食性能を有している鉄筋が種々でてくるにつけて思うになったのが、亜鉛めっき鉄筋は単価も安いし、もう一度亜鉛めっき鉄筋の良さはどこにあるか、問題点はどこにあるか、それを克服して再度土俵に立てるような状況にできないか、ということを少しずつ思うようになってきました。ちょうどその矢先に、日本溶融亜鉛鍍金協会の方から「亜鉛めっき鉄筋の指針」改訂の要請がありました。亜鉛めっき鉄筋指針の制定から既に30年近くたっている状況でもありましたし、ではやってみようかと、お受けした次第です。