道路構造物ジャーナルNET

「技術の新日本」の復権を目指す

新日本非破壊検査 植村佳之社長インタビュー

新日本非破壊検査株式会社
代表取締役社長

植村 佳之

公開日:2023.03.02

 新日本非破壊検査は、鋼橋やプラント、工場設備など鋼構造物を中心とした非破壊検査技術のリーディングカンパニーとして高い技術力を有する。記者も羽田空港D滑走路などの高い溶接検査技術を必要とする現場や、同社が土木研究所などと研究を進めていたフェーズドアレイ法による超音波探傷技術などを取材してきた。現在も川崎臨港道路などの現場には直接的に、他の鋼橋や鋼構造物についても製品を介して間接的に携わっている同社の植村佳之代表取締役社長に話を聞いた。(井手迫瑞樹)

超音波探傷に卓越した技術を保持
 技術面では今までの先人の貯金が減っている危機感

 ――非破壊検査業界のリーディングカンパニーとして、どのようなアドバンテージを有していますか
 植村社長 社員の技術の高さ、誠実さ、真面目さは当社の誇る自慢の1つです。
ただし、技術面では今までの先人の貯金が減っている危機感を感じています。かつて言われていた非破壊検査業界における『技術の新日本』の復権を目指しています。

 ――具体的に技術面の貯金とは何を指すのですか
 植村 羽田空港D滑走路の建設時に使われたAUT装置など、当社は超音波探傷に卓越した技術を保持しています。しかし、そうした他社に卓越する技術のアドバンテージや分野が減少しているのではないかと感じています。技術力が減少すれば先々「飯の種」がなくなってしまいます。新しい技術の開発は強い意志で進めていきたいと考えています。

売上は65億円台を安定的に維持目指す
 営業利益率は6%前後を目標に

 ――過去3年の売上・利益の推移と今年度の見込みについて
 植村 過去3年の売上は2019年度が65億円、20年度が63億円、21年度が64億円となっています。今年度も63億円程度を見込んでいます。営業利益は19年度が約5%、20年度が8%、21年度が9%です。今年度も6%以上の営業利益を見込んでいます。

 ――同様に部署ごとの売上・利益は
 植村 長崎支社が、一昨年度から川崎臨港の橋梁の検査業務に加え、JERAの大型火力発電所建設に伴う検査業務などへの対応で売上げを伸ばしています。一方で、中期計画にも関わりますが、大分では特殊検査の実行部隊を動かしており、それらの仕事量が伸びている状況です。鉄骨の検査業務については、北九州支社が主に対応していますが取り扱っており、福岡市の開発事業が元気なこともあり、安定的に推移している状態です。また、熊本や伊万里では半導体関連の工場が建設されており、その検査にも従事しています。

 ――中期経営計画最終年の売上げ目標は
 植村 変わらず65億円を維持していきたいと考えています。今までの売上げと変わらず、成長がないではないかと考えるかもしれません。しかし、世界中で進む脱酸素に向けての動きがある中で、当社は火力発電所の検査業務への依存が強いため、その業務売上が減少していくことを考慮しながら、利益最優先で行動していこうと考えています。営業利益率は6%前後を目標にしています。

橋梁点検用に開発したポールドローン
 円筒タンク(高さ10m弱)の側板の検査を行う機器として適用試験

 ――「特殊検査」とはどのようなものですか
 植村 当社が独自に開発した装置で検査に結び付けているものです。例えば内挿式超音波装置を用いた熱交換器のチューブの検査などです。
 また、引き合いが多いのが、飛行ドローンにポールを付けて、構造物のスクリーニング検査ができるような技術『ポールドローン』があります。


各務原大橋などで試行的に用いているポールドローン

 ――ポールドローンについては、岐阜の各務原大橋での実験も取材したことがあります。橋梁での検査だけでなくプラント検査業務でも使えるのではないですか
 植村 ポールドローンはそもそも社会インフラであるコンクリート橋の点検業務用途に開発しました。ところが国交省のロボット等を用いた橋梁の点検支援技術においては、必ずしも打音検査は必要なくなるように改訂されました。そうなると、ポールドローンの『打音検査も、目視検査もできる』というメリットは発揮しにくくなってしまいました。そのため、方向転換して、円筒タンク(高さ10m弱)の側板の検査を行う機器として適用試験を行っています(右は概要図)。また、プラント配管の肉厚測定などの検査にも使っていこうと考えています。基本的には電磁誘導技術を用いています。

 

技術のSHKを実現するための柱は4つ
 遠隔操作、状態監視技術、3D画像処理、スクリーニング

 ――社長就任までの経歴は
 植村 私は現場上がりです。発電所や製鉄所など様々なプラントで用いられている熱交換器のチューブの検査をずっとやってきました。熱交換器関係の検査を行う計測業務の部署で従事した後、安全管理室を兼務しました。それ以降、全社の検査分野や安全分野を見るようになり、今に至ります。

 ――会社の運営方針は
 植村 「社員ありき」です。社員の生活を守るためには業績を伸ばさなくてはなりません。今期から3年間の中期計画がスタートしましたが、①誠実なSHK(新日本非破壊検査)、②技術のSHK、③家族的なSHKというのを大方針として掲げています。
 誠実なSHKの社員を育成していくために、教育制度の充実などを諸々お願いして実行している状況です。
 技術のSHKを実現するための柱は4つあります。1つは遠隔での検査です。例えばデータを海外で取得しながら、国内でリアルタイムに解析していくような手法です。
 2つ目は構造物の状態監視技術です。例えば、洋上風力発電施設などは近づくことが困難です。センサーを付与することなどにより、状態監視技術が将来的に確立できることを目指しています。
 3つ目は3D画像処理、4つ目はスクリーニングです。
 この4技術について中期計画期間内に実験を進めて実用化を目指したいと考えています。全てを自社内で開発することは難しいため、大学などとも連携しながら開発を進めていきたいと考えています。

 ――3D画像技術とは、現場全体を画像化する技術ですか。ミニマムな部材単位を3D画像化する技術ですか
 植村 部材単位のミニマムな対象を考えています。

橋梁・風力・港湾などの検査業務は変わらず積極対応
 フェーズドアレイ検査法確立WGに参画

 ――橋梁など土木分野について伸ばしていこうと考えている技術は
 植村 橋梁・風力・港湾などの検査業務については、これまでと変わらず積極的に携わっていきます。羽田空港D滑走路や川崎臨港などについては、自社開発の自動UT装置(『U-Master』)を使っています。ただ、どちらかと言えば橋梁分野では手動UTの方が多くなっています。


 橋梁などの検査業務については、これまでと変わらず積極的に携わっていく

  ――以前からフェーズドアレイを用いた鋼材の探傷点検技術についても注力しておられますよね
 植村 フェーズドアレイについては、東京鉄構工業協同組合と埼玉県鉄構業協同組合、CIW検査業協会、エビデント(旧オリンパス)、学識経験者らによる「フェーズドアレイ検査法確立WG(ワーキンググループ)」などに参画し、その技術者についても少しずつ増えています。


フェーズドアレイの使用例 (左)工場の溶接点検、(右)橋梁隅角部の点検

 ――ポストコロナの働き方改革について
 植村 ポストコロナというよりも、目の前の残業対策が喫緊の課題です。
 新型コロナに関しては、当初こそ大変でしたが、今は粛々と対応しています。業績的には海外や航空機の検査業務こそ少し落ち込みましたが、それ以外は落ち込まず、むしろ売上げが向上した分野もあります。また会議や教育のオンライン化や各種懇親会の取り止めなどもあり、むしろコスト縮減、利益率の向上も図れており、それらの対面化や復活がコストに影響するかどうかが少し気になる状況です。ただ会議のオンライン化は意見が減少するなどの弊害もあり、今後は年に何回か対面により集まり、議論の活性化を期待しています。
 在宅勤務は現場での作業が多いことから殆ど行っておらず、その点でもコロナによる影響は少ないといえます。

「人間万事塞翁が馬」
 山崎豊子の『大地の子』を愛読

――若い技術者への技術継承について
 植村 難しい課題です。この業界はまず日本非破壊検査協会(JSNDI)の資格を取得しなければなりません。同資格の合格率の低さには唖然とします。一生懸命教育をしているのですが……。
技術の伝承という点では、比較的うまくいっていると思いますが、スピードは遅いかもしれません。管理本部で行っている各種階層教育をさらに強化していく必要があります。

 ――従業員の年齢別人数についてバブル崩壊やリーマンショックなどによる断層はありませんか
 植村 ここは自慢できるところですが、毎年10~15人程度定期採用していました。そのため年齢構成に大きな断層はありません。今後もこうした採用は続けていきたいと考えています。

 ――社長のご趣味は
 植村 健康を維持するために、朝夕は車ではなくバスと徒歩で通勤しています。また、土日には水泳をしています。また、競馬は20代からやっていて、大好きです。小倉競馬場には足繁く通っています。賭ける金は知れており、殆ど負けていますが(笑)。好きなのは未勝利戦の馬が走る第一、第二レースですね。
 小説は山崎豊子さんの本を好んで読みました。一番好きなのは「大地の子」です。自分の脚で現場を歩いて綿密に調査し、小説化するのは凄いと思います。

 ――座右の銘は
 植村 「人間万事塞翁が馬」です。私は喜怒哀楽の激しい人間でして、言葉本来の意味とは違うのですが、物事に一喜一憂するな、という意味でこの言葉を事ある毎に思い浮かべています。特に社長という立場になった今は、泰然としていなければなりません。
 ――ありがとうございました

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