道路構造物ジャーナルNET

「社会公共への奉仕と健全経営」に基づいた経営を今後も進めていく

横河ブリッジ 吉田昭仁新社長インタビュー

株式会社横河ブリッジ
取締役 社長執行役員

吉田 昭仁

公開日:2022.07.01

 横河ブリッジの新社長に同社取締役常務執行役員 総務本部長兼技術本部長の吉田昭仁氏が昇格した。同氏は1962年7月24日生まれの59歳。石川県出身で、1987年金沢大学大学院工学研究科修了後、横河橋梁製作所(現横河ブリッジホールディングス)入社。以来ほぼ一貫して設計畑を歩み、2016年横河ブリッジ取締役 設計本部長にも就いている。その同氏に社長としての抱負、これからの同社の舵取りについて話を聞いた。(井手迫瑞樹)

香港のストーンカッターズ橋に携わる
 「故郷に錦を飾った」金沢大学の学内にあるアカンサスインターフェース橋

 ――まずなぜ橋梁分野に入ったのかその志望動機と、入社後のご経歴および心に残っている仕事からお聞かせください
 吉田社長 金沢大学大学院では、杭基礎とフーチングの解析の研究をしており、実は鋼橋とはほんの少し関係がある程度でした。ただ、学部生の時に橋梁工学を少し学んで面白さを感じてはおりました。また院生になってから、構造美をテーマにプレゼンテーションを行う講義の中で鋼橋を題材に自分なりに「美」を説明したのですが、そこで鋼橋の格好良さを改めて感じました。そうしたこともあって、先生の推薦もあり横河橋梁製作所に入社いたしました。
 入社後はほぼ一貫して設計畑を歩んできました。現場で心に残っているのは香港のストーンカッターズ橋ですね。完成形設計には携わっていませんが、あの橋の発注図は大きな骨子はできていますが、鋼床版など細かな詳細図は全く書かれていなくて、そうした部材の図面作成とエンジニアへの承認申請をかなり行いました。


ストンカッターズ橋

 ――ストーンカッターズ橋は私も建設時に取材しましたが、かなりのカルチャーショックを受けました
 吉田 同橋はBS(ブリティシュ・スタンダード)仕様で、英国のコンサルタントが施工管理をしていましたが、その仕事の速さにはびっくりしました。我々日本人の1.5倍程の速さで動いていて、書類などもものすごく早く作ってくる。あまり同僚間で相談などもせず、自己責任で手際よく動いているという感じがしました。
 ――その反面、個人主義がすごかったですね。コンサルタントの技術者同士でブリーフィングの情報なども共有せず、来ていなかったエンジニアにはもう一度説明しなくてはいけないなど、二度手間もあったと聞いています
 吉田 そうした点もありました。また、品質管理基準が非常に厳しく、品質確保に物凄く苦労した思い出があります。でもBS仕様で統一していてよかった面もあって、ある製作工場では別の中国本土の橋を作っていたのですが、そのばらつき具合を見ていると、仕様の違いによって同じ工場でも品質は大きく違うのだな、と改めて感じた思い出もあります。
 ――国内で思い出に残っている橋は
 吉田 「故郷に錦を飾った」金沢大学の学内にあるアカンサスインターフェース橋です。同橋は橋長136mの鋼3径間連続フィーレンディール橋(歩道橋)で、平成7年3月に竣工し、同形式としては日本最長の橋梁となっています。同橋では主任技術者を務めさせていただきました。恩師である小堀為雄先生――先生は私の結婚の仲人も務めていただいたのですが――にもほめていただいて、とてもうれしかったことを覚えています。


アカンサスインターフェース橋

技術を研鑽し続ける会社、心のつながりを大切にする会社
 暗黙知の伝承は非常に難しい問題

 ――さて、新社長としての抱負を教えてください
 吉田 当社は1907年に横河民輔が創業しましたが、その経営理念である「社会公共への奉仕と健全経営」に基づいた経営を今後も進めていきたいと考えています。ただ健全経営という部分は歴史とともに変わっていくものであり、その財務的あるいは非財務的な在り方をもう一度深く考えていきたいと思っています。
 その中で社長就任にあたって、役員および従業員に3つの在り方を明示しました。
 ――具体的にはどのようなものですか
 吉田 ①技術を研鑽し続ける会社、②心のつながりを大切にする会社、③知識(形式知)や知恵(暗黙知)を伝承し、そこから新しい知識や知恵をバランスよく創造していく会社、です。
 ――①は分かりやすいですが、②と③についてもう少し深く説明していただけますか
 吉田 現在の社会においては、インターネットの発達や新型コロナの影響などもあり、世の中がどんどん複雑化・多様化していると思います。その中で「物理的につながらない権利」というものも主張されています。就業時間外の応対などは理解できますが、それはそれとして、私としてはやはり「心が繋がっていなくてはしっかりとした仕事はできない」と考えています。思いやりがあって共感できる心のつながりを、ニューノーマルに対応しながら、対面もしくはWebとのハイブリッドということも考えつつ、また在宅で仕事し、孤独感なども生じている従業員の心のケアも配慮して、働きやすい職場というものをしっかりと作っていきたいと考えています。
 ③についてとりわけ暗黙知の伝承は非常に難しい問題です。徒弟制度的なものを作り、ベテランと中堅と若手が実際に現場で共同して仕事に当たりながら伝えていくという手法が効果的と考えています。また、吊り橋や斜張橋、トラス・アーチなど特殊な形式を有する橋梁については、現場がないとやはり満足に伝えることは難しい側面があります。当社だけの問題ではなく、鋼橋業界全体の問題、ひいては橋梁の持続的な保全を行うためにも、各発注者の皆様には、1年に何橋かはそうした形式の橋梁を発注していただきたいと考えています。

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