道路構造物ジャーナルNET

ランドマークとなり、かつ景観面で配慮し、色や継手などを様々に工夫

富山市 呉羽丘陵フットパスを繋ぐ吊橋の補剛桁までが完了

公開日:2023.03.07

 富山市は、市民の憩いの散策路である呉羽丘陵フットパスが県道で分断されている個所に主塔間隔124mの鋼単純補剛吊橋形式を用いた呉羽丘陵フットパス連絡橋を建設中だ。同丘陵は立山連峰、歴史的な構造物や新幹線などを眺望する景観に優れた観光スポットであり、フットパスはその緑豊かな自然の散策路として市民に親しまれている。しかし、同フットパスは、市内有数の交通量を誇る県道富山高岡線により分断されており、その解消が課題であった。同橋梁の建設計画は平成15年に検討された呉羽丘陵フットパス利用促進計画の中でも課題とされており、2020年12月からようやく着工が開始されたもの。吊橋を採用したのはランドマークとしての位置づけを考えたためで、その反面、呉羽丘陵は風致地区に指定されており景観的に逸脱しないよう、主塔の塗装色はダークグレー、補剛桁の塗装色はライトグレーを採用している。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

呉羽丘陵フットパス連絡橋架設段階図(富山市提供、以下注釈なきは同)

主桁間隔124mの単径間鋼吊橋
 補剛桁は開断面箱桁で合成床版にSCデッキを使用

 同橋は、主塔間隔124mの単径間の吊橋で、補剛桁は桁高1mの開断面箱桁で床版はSCデッキである。鋼重は131t(主塔39t、補剛桁80t、その他12t)、有効幅員は1.8mで車いすがすれ違える幅とした。アンカレッジはもちろん主塔の背後にあるが、側径間は無くすぐに広場の遊歩道に接続する計画となっている。縦断勾配は城山側(A1側)に2%の下り勾配となっている。2021年3月に起工式が行われ、下部工、主塔、ケーブル部材および補剛桁の架設までが完了しており、現在は床版工を施工中だ。


補剛桁の形状(上部は合成床版の底鋼板、井手迫瑞樹撮影)

アンカレッジ フライアッシュや補強鉄筋でマスコン対策
 基礎は堆積土などの影響で30m程度の深さに

 下部工
 下部工は主塔部の基礎が逆T式で、アンカレッジは重力式アンカレッジとなっている。下部工の施工については城山側で大きな制約がある。急峻な土地や民家が隣接しており重機の配置や、騒音・振動に配慮する必要があったためだ。そのため、呉羽山側の主塔基礎とアンカレッジは場所打ち杭を用いたが、城山側はいずれも深礎杭とした。さらにアンカレッジの形状は城山側(A1側)が幅8.9m×奥行9.9m×高さ7~3.5mに比べ、呉羽山側(A2側)は幅6.8m×奥行11.0m×高さ6.5~3.0mと縦長になっている。


アンカレッジ構造図(左:城山側、右:呉羽山側)

主塔基礎構造図(左:城山側、右:呉羽山側)

 基礎は、呉羽山側においては、主塔基礎がφ1,500mm×長さ34.5mの場所打杭を2本、アンカレッジ基礎は、φ1,500mm×長さ33.5mを6本施工した。城山側は主塔基礎がφ3,000mm×長さ28.5mを2本、アンカレッジ基礎がφ2,500mm×長さ24mを4本施工した。これだけの深さになるのは、富山平野自体が立山連峰の噴火の際に生じた堆積土と河川から運ばれた地質となっており、同地もその例にもれず、堆積土により基礎地盤が相当な深さになっており、それに応じて基礎杭も30m程度の長さが必要となったためだ。

 アンカレッジは密実断面であり、規模が大きいため、マスコンクリートとなる。そのため温度応力解析を行い、有害なひび割れ発生を抑制するため、セメントの一部をフライアッシュ(北陸電力七尾発電所)に置換し、かつ補強鉄筋を追加している。打設時スランプは12cmとした。打設はA2を7~8月、A1を1~3月に行った。いずれも暑中対策または寒中対策が必要となる。暑中対策としては、到着時のコンクリートの温度、打設時の温度を管理しながら到着時から打設までにコンクリートの温度が上がり過ぎないよう、井戸水を使用して施工した。打設後、上部は湛水養生し、側面は型枠の脱型までの期間を長くするなど対策を講じている。
 寒い時期に打つA1については、現場を全面シート養生で覆い、さらにコンクリート打設後は暖気養生を行った。富山市内では4℃を下回るのは12月に2、3日程度しかなく、それほど特別な手法は取っていないという事だ。しかし長期的には凍害や凍結融解によるコンクリートの損傷が生じる可能性があるため、空気量は4.5±1.5%とし、気泡を取り除く工夫も行うなどコンクリートの品質管理には一定の配慮を講じている。


城山側の施工状況①(左から伐採状況、工事用道路造成、深礎杭の施工、均しコンクリートの打設)

城山側の施工状況②(左からアンカレッジ部の足場組立、配筋、型枠設置、コンクリート打設)

城山側の施工状況③(アンカレッジ部の完成状況、埋め戻し)

呉羽山側の施工状況①(左から施工ヤード造成、場所打ち杭、掘削床付け、均しコンクリート打設および杭頭打設)

呉羽山側の施工状況②(左から足場組立、配筋、型枠設置、コンクリート打設)

呉羽山側の施工状況③(アンカレッジ部の完成状況、埋め戻し)

主塔ブロック間の継手は景観を考慮して溶接継手を採用
 主ケーブルの角度はシンメトリーを考慮して、城山側と呉羽山側でほぼ同じ角度

 主塔
 次に行うのは主塔の設置である。主塔は2つの柱を最上部で繋げる門型の鋼製主塔で両側に1本ずつ設置されている。いずれも主塔高は17.4m(支承、塔頂サドル含む)であり、これを3ブロックに分けて架設していった。基部ブロックが8.0m(4.3t×2)、柱ブロックが7.0mで(3.5t×2)、蓋形状となる塔頂ブロックが1.3m強で(3.7t×1)となっている。架設に用いる重機は、城山側は200t吊オールテレーンクレーン、呉羽山側は70t吊ラフタークレーンを用いた。城山側で重機が大型化したのは、地形や直下の遺構に配慮せねばならず施工ヤードを広く取れないため、クレーンが近くまで寄ることが出来ず、必然的にブームを長くしなければ施工できないためである。補助クレーンはいずれも25t吊ラフタークレーンを用いている。
 主塔ブロック間の継手は溶接構造とした。板厚は19~22mmとそれほどの厚さではないが、景観上の理由からボルト接合ではなく溶接を選択したものだ。


主塔の架設状況(左:呉羽山側に比べ、右:城山側はブームを長く取る必要があった)

主塔基部と主塔上部(井手迫瑞樹撮影)

補剛桁架設前の現地状況(井手迫瑞樹撮影)

 主ケーブル・補剛桁の架設
 主塔架設後は、キャットウォークを設置し、次いで補剛桁を運搬するケーブルクレーン用の仮設主塔を建てた。仮設主塔の土台は、新たにコンクリート基礎を構築した上で仮設主塔を建てている。両側の地形差から城山側の仮設主塔長が若干長くなっている。


(左)キャットウォークの設置状況、(中、右)ケーブルクレーンの設置状況

 主ケーブルは左右に2本配置し、それにハンガーロープを4m間隔で片側に33本配置している。主ケーブルはロープ径φ100mmの構造用スパイラルロープ(1×217、破断強度7800kN)を採用、ハンガーロープはロープ径φ18mmの構造用ストランドロープ(7×7、破断強度209kN)を用いている。主ケーブルは城山側に設置した油圧ウインチと呉羽山側に設置したアンリーラーを用いて、キャットウォーク上中央に配置した専用ローラーを使用して、呉羽山側から城山側へ引き出し、主塔の塔頂サドルとアンカレッジ定着部への設置はケーブルクレーンと重機を併用して施工した。主ケーブルの角度はシンメトリーを考慮して、城山側と呉羽山側でほぼ同じ角度としたが、城山側A1のアンカレッジの位置が低いため、主塔とアンカレッジ間の距離が若干長くなっている。アンカレッジに懸かる荷重もほぼ同程度である。



主ケーブルの設置状況と引き込み状況

 主ケーブルにハンガーロープを取り付けた後は補剛桁の架設である。
 補剛桁は開断面箱桁にSCデッキの底鋼板を組んだ形で、11ブロックに分割して架設していった。吊り方式の補剛桁架設は通常、バランスを考慮してA1、A2側を交互に架けていくが、同地は架設地点が県道上に位置しており、その夜間通行止め規制日数をできるだけ少なくするため、城山側と県道上を優先して架設し、最後に規制の少ない呉羽山側の補剛桁を架設していくという手法を採用した。

補剛桁架設ステップ図



ケーブルバンドの取付状況/補剛桁の搬入状況/補剛桁の組立て状況

補剛桁の架設状況①架設は夜間に県道を通行止めして行った時もあった

補剛桁の架設状況②

キャットウォークの解体状況/吊り足場の一部解体状況/ケーブルクレーンの解体状況/ケーブルクレーン鉄塔の解体状況

 その後は底鋼板上面の配筋及びコンクリート打設、伸縮装置を設置した後、塗膜系防水を施工し、舗装、照明、高欄を設置して完成となる。

高欄 様々な工夫を施し耐風安定性を確保
 県道の俯角75°の範囲には道路防護工及び落雪防護工を設置

 高欄
 丘陵部の切通し上に位置する吊橋であるため、耐風安定性には気を使わなければならない。そのため、横浜国立大学の勝地弘教授の指導の下、高欄の形状、高欄の閉塞部の大きさなどを変えながら、風洞試験を繰り返し、耐風安定性を確保した。
 具体的には、風洞試験を実施したところ渦励振の発生が懸念されたため、横桟形式の高欄 については、 横桟部材の上部に一定高さのパンチングメタルを配置し、かつ、高欄トップレールについては、斜め上に張出すフラップのような形状とし、渦励振の発現風速を照査風速以下とすることで耐風安定性を確保している。

 積雪対策
 また、富山特有の課題として冬季の豪雪対策がある。構造的にも、歩行者の安全性を考慮しても路面上および路面下の積雪や凍結、ケーブル上の積雪や氷柱の発生は抑制したい。そのため、床版の外側には部材を配置しない計画とし、ケーブルおよび路面には融雪装置を配置して、できるだけ堆雪が発生しないように努めている。また、工事中は県道の俯角75°の範囲には道路防護工及び落雪防護工を設置するなど、直下の県道にも影響を与えないように配慮している。


道路防護工の設置状況と実際の運用状況

 防食
 主塔・補剛桁は通常の重防食塗装を施す。主ケーブルやハンガーロープは防錆処理として溶融亜鉛めっきと塗装を併用した耐久性の高い防錆仕様を採用した。高欄は耐食性の高いアルミ合金製となっている。

 元請けは佐藤工業・川田工業・松原建設JV。主要一次下請けは下部工が安川組(躯体)、ケミコリバイブ(土工事)、入坂組(足場工)、アンビック(基礎杭施工)、鉄筋工は池原鉄筋工業。上部工は今井重機建設(クレーン工、架設工)である。

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