道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊼

高岡市、ひいては全国の地公体の橋梁維持管理の合理化をどのように進めていくのか

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授

細田 暁

公開日:2023.02.10

 高岡市と横浜国立大学、新日本コンサルタントは1月16日、高岡市をフィールドとした「橋梁維持管理の合理化に関する研究協力協定」を締結した。高岡市が進める橋梁維持管理の高度化・効率化の一環として、市が管理する橋梁約1,150橋(2m以上)で横浜国立大学と新日本コンサルタントが橋梁維持管理の合理化に関する共同研究(細田教授の言葉で言えば、協働研究)を行う。本研究では、1,150橋を構造形式と健全性の組み合わせによりグループ分けし、グループごとに、①点検において発見すべき、橋梁の性能に悪影響を及ぼす重要損傷の種類、②その重要損傷を発見するための方法(近接目視、新技術活用、遠望目視)、③損傷の記録方法、を決定し、点検手法や項目などを各グループで変えることを目指していく。同市では簡易な構造形式(RC中実床版橋およびカルバート)で健全性Ⅰの橋梁が管理橋梁の約50%を占めており、これらのボリュームゾーンからまずは着手して、構造形式と健全性に応じた合理的な点検を目指すことになる。また、同市の橋梁で多く発生しているASRを含め、道路橋の安全性を担保したうえで、損傷の修繕費用を削減できる合理的な補修戦略と補修後に再劣化が生じない持続可能な高品質化に寄与する研究にも取り組む。研究体制では、横浜国立大学「豊饒な社会のための防災研究拠点」(研究拠点長・細田暁教授)の技術指導のもと、新日本コンサルタントが橋梁維持管理ガイドラインの検討を行い、高岡市がそれら案の照査、業務発注の課題検討、維持管理業務への反映を実施していく。その詳細について細田教授に聞いた。(井手迫瑞樹)

『たかが点検ごとき』に莫大な資金や人的資源を投じるのは無駄
 メンテナンスで見つけた課題を新設にフィードバック

 ――今回の研究の狙いについて
 細田教授 そもそも、高岡市の研究に取り組む前に、私自身の維持管理に関する考え方を土木学会コンクリート委員会の教育研究小委員会の公開座談会(https://committees.jsce.or.jp/concrete07/node/7)で発信していました。その発信の中で、橋梁など社会インフラの維持管理システムを改善していくための方策として、点検のあり方、診断の重要性(性能ベースでの診断)、再劣化しない補修方法の構築、実践しブラッシュアップしていく県単位の維持管理ガイドラインの整備、協働の研究体制構築などを挙げています。
 ――まず点検のあり方とは?
 細田 劣化には必ず原因があります。しかし、新設時に劣化に配慮した設計・材料選定を行い、良い施工・検査をして品質を確保すれば、大きく点検の手間を省くことが出来ます。そうしたことが出来るようにメンテナンスから劣化要因を明らかにして、新設の設計・施工にフィードバックし、新設時に品質を確保することが大事です。本体構造物だけでなく、付帯構造物も含めた点検・フィードバックが大事です。

新設の品質確保とメンテナンスからのフィードバック(左図は細田教授作図)

 そして、診断の重要性にもつながりますが、構造物を「性能で見る」ことが大事です。いくら大きなひび割れであっても、鉄筋が露出していても、性能に関係の無い損傷は極端に言えばスルーしても良いのです。誤解を恐れずに言えば、『たかが点検ごとき』に莫大な資金や人的資源を投じるのは無駄です。点検が大事でないと言っているのではありませんよ。橋梁の性能に直接関係しないような項目の点検を徹底的に合理化して、真に必要な補修補強や新設に人と資金を投じた方がよほど社会の発展に役立ちます。そのために、例えば新設時に品質の良いものは「5年に1度」の法定点検を事実上スキップするような簡易な点検を検討することもあり得るでしょう。そのいわゆる「エンジニアリング・ジャッジメント」を行うには各機関ごとではとても無理でしょうから、今回の高岡市のような協働研究の成果(モデル)を他の先駆的な協働研究の成果とともにブラッシュアップして精度を高めたり、国中にシェアしていくことが重要になってきます。

性能低下を示す重要損傷にきちんと着目
 再劣化しない補修工法の構築 各地域の補修した構造物の状況を追跡 
 

 ――なかなかそうした割切った診断をすることは容易ではないと感じますが
 細田 一見やばい!と思われるような劣化事象を放っておけるかが重要になってきます。すべて放っておけ、と言ってるわけでは決してありませんよ。
 高岡でもⅢ損傷の橋梁をいくつか見せていただきました。普通のコンサルタントが見れば部材軸方向の多くのひび割れや鉄筋の露出状況からⅢ判定とみるようなものも、我々が見ればⅢではないものがたくさんありました。下の溝橋の写真を見てください。


溝橋の点検状況

 高岡市が管理する約1150橋のうち半数程度はこうした5m以下の床版橋やカルバートです。下から裏面を除くと鉄筋が露出しており、一見は酷い状況です。しかし上面から異常は見つかっておらず、特に下面では曲げひび割れすら生じていません。こうした橋梁は私から言わせれば健全性Ⅲでは全くありません。安全性には何ら問題がなく、第三者被害も起きようがないのですから。精神論で安全性に問題がない、と言うのではなく、性能低下を示す重要損傷(この場合は、過大な曲げひび割れ)にきちんと着目し、必要に応じて耐荷力の余裕度の計算チェックも行います。

高岡市の管理する橋梁の現状

引用:1)高岡市都市創造部道路整備課:高岡市橋梁長寿命化修繕計画,令和2年3月改定  2)国土交通省道路局:道路メンテナンス年報,2022年8月

 こうした判断を行うことが出来れば、維持管理の点検に投じる予算は劇的に減らすことが出来ます。
 ――再劣化しない補修工法の構築は非常に難しく感じます
 細田 コンクリートの予防保全というのは非常に難しいもので、日本大学の岩城一郎先生がおっしゃっていましたが、予防保全にはいくつかのレベルがある、と考えるべきです。高度な予防保全よりもむしろ、水切りの設置や掃除などによる排水機能の確保の簡易な予防保全を行うことが自治体レベルでは大事です。電気防食やひび割れ注入工、表面含浸工法等の金のかかる補修は、投じる資金の割には効果の検証が難しいと思います。劣化しない構造物にも金をつぎ込むことになるかもしれないからです。
 再劣化しない補修工法の構築は、先駆的に維持管理を勉強しているインフラ管理者のノウハウを国レベルでシェアしたり、各地域の補修した構造物の状況を追跡していくことを粘り強く重ねていくしかないと思います。また、補修工法のシステムはよくても、施工の影響を受けますしね。長いチャレンジとなるでしょうね。
 ――溝橋や短いコンクリート橋は、むしろ落橋などの危険性が生じた時に架け替える方が安上がりな場合もありますが、鋼橋はどのように考えますか
 細田 正直、高岡市でも鋼橋は腐食や断面欠損が進んでいる橋梁もあり、こうした橋梁は当て板や塗装などの対応が必要です。そういう意味では鋼橋は予防保全がより重要であり、対応方針も比較的明確ですし、投じた資金も確実に耐久性向上に繋がると思います。


鋼桁や鋼製支承の損傷状況(高岡市)

 私は、藤沢市の橋梁の維持管理にも助言を行っていますが、藤沢市ではコンクリート橋の深刻な劣化はそれほど多くなく、限られた維持管理予算を鋼橋の補修や予防保全的な塗替えに上手に投じた結果、一定の成果を出しています。高岡市でもこうした手法を高岡市の環境や構造物の現況を加味しながら援用していければと考えています。

あくまで「ガイドライン」、思考停止に陥らないように
 まずは溝橋やRC床版橋など数の多い橋種から実装していく
 

 ――高岡市では今後どのように研究を進めていきますか
 細田 同市や新日本コンサルタントと共に、先述した内容について検討を行い、同市の状況に即した維持管理ガイドラインを構築していきたいと考えています。まずは溝橋やRC床版橋など数の多い橋種にスポットを当て、点検のあり方や性能ベースでの診断方法について実装していきたいと考えています。

検討成果イメージ

 ――富山はASRや塩害という特殊要因もあります
 細田 PCプレテン桁の橋梁もいくつか現地で見ましたが、たくさんひび割れが発生していても、健全性Ⅲとしなくても良いと私は思うものもありました。つまり、損傷そのものにとらわれるのではなく、橋梁に求められる性能を直視して考えましょう、ということです。ASRが生じているPCプレテン桁の維持管理方法の検討ももちろん始めており、私の中では方向性は明確です。


プレテン桁の損傷状況

 また、「ガイドライン」としたのは、これは「思考停止に陥りやすい」マニュアルではない、という思いを込めています。基本的にはエンジニアが自分の知見を活かして維持管理することを妨げたくないためです。金科玉条的な「マニュアル」は思考停止に繋がります。そうした思いもガイドラインで示していきます。
 ――ありがとうございました

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