道路構造物ジャーナルNET

環境にも優しいプレキャスト化のさらなる推進を目指す

PC建協 森拓也新会長インタビュー

一般社団法人プレストレスト・コンクリート建設業協会
会長

森 拓也

公開日:2022.06.23

 プレストレスト・コンクリート建設業協会(PC建協)は16日、東京・都市センターホテルで森拓也新会長の就任共同インタビューを行った。森新会長は「PC技術の面白さを協会としてアピールしていく」と抱負を語るとともに、プレキャスト化の推進が工期短縮、施工性と生産性の向上につながるだけでなく、カーボンニュートラルにおいても効果的であるとの見解を示した。

新たなPC技術のニーズと課題に応える

 ――新会長就任の抱負は
 森会長 PC業界を今以上により魅力的な業界にしていきたいと考えています。処遇の改善や働き方改革にも当然取り組んでいきますが、PC技術そのものがより魅力的になることが重要な要素の一つです。70年前に3mのプレテンの桁橋から我が国のPC技術は始まり、その後、橋梁の大型化に取り組み、さまざまな新しい技術を実現してきました。そこにはダイナミズムを感じられる技術の進歩があり、先輩方はエンジニアとしての充実感を味わえたと思います。
 最近になり、新たな技術的なニーズや課題が出てきています。そのような新技術をできるだけ多く実用化していき、多くのエンジニアが面白いと思える業界にするとともに、PC技術の面白さを協会としてアピールしていきます。それにより、必然的にやる気のある学生が集まり、PC業界をさらに盛り上げてくれることを期待しています。
 ――業界を取り巻く事業環境について
  公共事業についていえば、良い状況にあると考えています。新設橋梁は増えていませんが、高速道路会社の大規模更新・修繕事業が非常に拡大していて、全体としては拡大傾向にあります。大規模更新の仕事はこの数年、倍増してきましたが、今後はこのようなペースで上がっていくことはなく、安定した状態になっていくでしょう。しかし、量としては相当数ありますので、潤沢な仕事があるという事業環境は当面維持できると思います。


好調な事業環境を牽引する大規模更新事業(写真はイメージです)

 大規模修繕事業に関しては、PC建協の会員社以外の会社も参入してきていますので、そこでの競争はこれまでよりは若干厳しくなると想定しています。
 また、あらゆる資材が高騰しているという懸念材料がありますが、スライド条項の円滑な運用を国土交通省などに積極的な指導をしてもらっているので、少なくとも公共事業の分野については、現段階では大きな影響はないと考えています。

DXは成果を出す段階に移行

 ――今後の事業展開は
  時代が大きく変化しているなかで、我々に求められるものも変わってきています。
 働き方改革では、2024年の建設業の時間外労働の上限規制適用が迫っています。かなり改善はされてきていますが、2024年までに完全実施できるような取り組みを進めていかなければなりません。
 生産性向上については、協会として「プレキャスト化の推進」と「ICT活用の推進」を掲げて取り組んでいます。プレキャスト化の推進では、さらに採用が増えるような提案を発注者にしていきます。
 ICTの活用、いわゆるDXですが、各社のさまざまな技術が出揃った段階であると思います。しかし、実際の現場でそれが本当に生産性向上に結び付いているかは疑問です。今後は技術の選別と成果を出す段階に移行していくことが求められると思います。
 大きな課題としてはカーボンニュートラルがあります。協会でも新たに、カーボンニュートラルに関わる特別委員会を組織し、検討を進めていきます。とくに、プレキャスト部材を使用することによって、カーボンニュートラルをどの程度実現できるのかを検討して、対外的にアピールしていきたいと考えています。それができれば、プレキャスト化のさらなる普及拡大にもつながります。
 プレキャスト化により工期短縮を実現し、施工性と生産性が向上し、さらに新たな時代のニーズであるカーボンニュートラルにも効果的であるとなれば、プレキャスト構造は普及しないわけがありません。プレキャスト化の強みのなかに、カーボンニュートラルを加えるべく、協会としても力を入れて取り組みを進めます。


カーボンニュートラルでもプレキャスト化の強みをアピール(PC建協「新ビジョン2017」より転載)

 ――その他、重点的に進める取組みは
  協会の果たす役割として、「市場対話」「技術支援」「生産支援」の4つを挙げています。市場対話のひとつには、発注者との意見交換会があります。夢を持ち、将来安心して働ける業界にするためには、メンテナンスも大切ですが、新設のプロジェクトについても発注者に訴えかけていきます。ミッシングリンクの解消や4・6車線化、災害に強い道路ネットワークといったニーズはあるはずですし、新設事業がないと技術が廃れて引き継がれないことになりかねません。
 また、PC技術について学生に知ってもらうとともに興味をもってもらうことは、担い手の確保の観点からも非常に大事なことと考えていますので、高等専門学校や大学に講師を派遣しています。これは今まで以上に積極的に実施していきます。


学生へのアピールを積極的に推進(PC建協「新ビジョン2017」より転載)

 PC建築についても諸外国と比較して普及が遅く、拡大の余地があると考えていますので、さらなる普及のための取り組みを行っていきます。
 ――現在の受注状況をどのように捉えていますか
  2021年度は18年ぶりに、会員受注額が4,000億円を超えました。事業継続性の観点からは、短期的な拡大よりも安定した状態が長く続くことが好ましいと言えます。会員各社の工場生産能力は現段階ではまだ余裕があります。

ECI方式ではコンサルタントとの連携も重要な要素に

 ――大規模更新事業を中心にECI方式や異工種工事が増えてきていますが、他団体との対話、連携については
  ECI方式は発注者と施行者だけでなくコンサルタントとのコミュニケーションが必要になります。発注者サイドとしてもまだ課題はあるとの話は聞いていますので、採用しやすい形を検討していくためにも、コンサルタントとの連携は重要な要素だと思います。
 大規模更新事業では、床版取替工事に鋼橋の補修・補強が一緒に発注されることが多くなっています。日本橋梁建設協会や鋼橋ファブの知識や経験が必要になることも多々ありますが、個社で協力して事業を進めていますので、現時点では協会として動くことはないと考えています。
 ――意見交換会で単独工事や専門工種での発注要望はされていますか
  大ロットでの発注が増えていて、トンネルの補修・補強が含まれているものもあります。ただ、大規模工事ではJVを構成してそのなかで分業ができますので、会員会社としても対応ができます。そのため、単独工事などでの発注要望はしていません。
 ――海外市場をどのように考えていますか
  国内市場が成熟しているなかで、海外市場はひとつの選択肢ですが、個社の判断、対応になると考えています。現時点では、協会として積極的に後押しする予定はありません。
 ――過去の協会活動で印象に残っていることは
  所属会社(ピーエス三菱)の名古屋支店長時代に中部支部で活動をさせてもらいました。充実した組織としての支部があると感じ、それが協会の強みのひとつとなっています。今後、支部との連携をさらに強めて、支部から見れば本部が頼りになるといった関係を築いていきたいと考えています。
 ――座右の銘は
  「粗にして野だが卑ではない」です。城山三郎の小説のタイトルにもなっている、財界人から初めて国鉄総裁になった石田礼助の言葉です。「立ち振る舞いは上品ではないが、志は高い」という思いを持ち、仕事に臨んでいます。我々の仕事が世の中のためになっているという高い志と誇りがあってこそ、日々頑張れるし、研鑽して技術開発ができるからです。

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