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ひび割れ発生の個所は接合部が1か所に対し、母材は11か所 ひび割れ幅は全て0.2mm未満

中央自動車道弓振川橋(上り線)で、分割床版取替工事を行った縦継ぎ目部の一部にひび割れが検出

公開日:2021.12.23

 NEXCO中日本が施工した中央自動車道弓振川橋(上り線)において、縦目地を伴う分割床版取替工事を行った同継ぎ目部の一部にひび割れが検出された。同橋は、通常の床版連結部だけでなく、縦目地部の床版接合部にもせん断キーと鉄筋を用いた継手、常温硬化型超高強度繊維補強コンクリート(UFC)を用いた工法を採用しており、縦目地部を貫通する横締めPC鋼材は用いていない。床版厚さはこうした合理化技術を用いたことで220mmと薄くでき、継ぎ目の幅も150mmと短くし、縦目地部を貫通する横締めPC鋼材をなくすことで工程も短縮出来ている。一方で今回生じたひび割れは縦目地部だけでなく、その近傍にも生じており、0.05mm程度が8か所、0.05mm以上0.1mm未満が1か所、0.1mm程度が3か所となっている。ひび割れ発生の個所は接合部が1か所に対し、母材は11か所に達し、ひび割れの長さは55mmから最大で340mmに達している。ひび割れの深さの計測は今後行っていく。同社では、現段階では床版性能に影響を与えるひび割れであるとは考えていないとする一方、今後1年程度のひび割れ進展の計測を実施し、補修方法を検討していく。(井手迫瑞樹)

常温硬化型のUFCを使用
 予期せぬひび割れの発生

 弓振川橋は、1981年(昭和56年)に供用された、橋長39.25mの鋼単純合成鈑桁(4主桁)である。主桁間隔長は2.5mで斜角はほとんどない。一方、平面線形はA=400mとやや急で縦断勾配は最大1%程度であるものの、横断勾配は最大4%強程度ある。断面交通量は20,800台程度で、大型車混入率が3割を超えるのが特徴といえる。

 今回の現場で採用した半断面床版取替工法は、NEXCO中日本と大林組で共同開発した夜間半断面床版取替工法であり、弓振川橋ではその試験工事として同工法を採用した。 継手構造はプレキャスト板併用型UFC継手構造であり、Ⅰ期は2020年7月11日、Ⅱ期は同10月9日、30日、12月2日に床版下面から圧送して打設した。施工時の気温は7.4℃~21℃でコンクリート温度は18~29℃、UFC内の練り混ぜ水とプレミックス材の単位体積当たり重量はそれぞれ230kg/m3、1830kg/m3、スランプフローは260±30mmで常温硬化型のUFCを使用している。同接合方法については、NEXCO試験法442「プレキャストPC床版接合部の疲労耐久性試験方法」により耐用年数100年相当の載荷荷重および回数に対して漏水がないことを確認していたが「予期せぬひび割れが生じてしまった」(NEXCO中日本)。

より強度が低い母材側が引っ張られ、ひび割れが生じた
 長期的にはクリープによる収縮の可能性も考慮

 ひび割れは工事竣工(2021年5月24日)後の2021年6月23日に発見された。



発見されたひび割れ状況

 ここで、現段階で原因究明中であり、継続調査が必要としているが、ひび割れ発生の有力な原因として推定されるのが、コンクリート打設時の収縮によって生じた応力である。とりわけ弓振川橋の現場は、プレキャストPC床版母材部コンクリート(50N/mm2)と間詰部UFC(180N/mm2)との強度差が大きく、ひび割れ発生強度も間詰部は8N/mm2に達しており、UFCが収縮する過程で、主桁による拘束も加わって、より強度が低い母材側が引っ張られ、ひび割れが生じたものと考えられる。ひび割れの数はそれを裏打ちしている。一方で、NEXCO中日本では、プレキャストPC床版側にもクリープ収縮が残存しており、この影響も否定できないと考えている。収縮ひび割れのモデルとしては打設直後から数か月の間生じる自己収縮や乾燥収縮、さらに年単位で生じるクリープによる収縮に分かれるが、同社では前2者の複合的な収縮による要因と考えており、さらに長期的にはクリープによる収縮の可能性も考慮している。
 同社では、NEXCO設計要領第二集橋梁保全編に基づいて、「幅員方向に分割したプレキャストPC床版を採用する場合、橋軸直角方向接合構造の耐久性について検討を行い、全断面プレキャストPC床版と同等であることを確認する」とされており、それと同等とみなす例として、橋軸直角方向の接合部に沿ったひび割れが生じないこととしている。しかし、実際にはひび割れが生じてしまったことから、同様の構造が、全断面プレキャストPC床版と同等であることが確認できるまでの当面の間、全ての分割床版を用いた床版取替の現場で縦目地部を貫通する横締めPC鋼材を配置することにした。

 今後、UFCなどを用い、縦目地部を貫通する横締めPC鋼材を省略する接合構造については、前掲の試験法442を満たすことはもちろん、主桁による拘束の影響を考慮した上で、超高強度コンクリートの打設後に縦目地部の接合部付近にひび割れが生じないことを条件とする。

今後1年程度のひび割れの進展計測を行う
 最大限の材齢を確保した後に縦目地へのUFCの充填を行う

 ひび割れが発生した弓振川橋の今後の対応としては、今後1年程度のひび割れの進展計測を行うと共に、そのひび割れの状況に沿った形で補修方法を検討していく。また、同様に分割床版の縦継ぎ目において超高強度コンクリートを使用して施工を進めている橋梁については、弓振川橋で生じたひび割れの原因究明を行いつつ、UFCへ弓振川橋と同様の膨張剤の添加に加えて、プレキャストPC床版製作後に対応可能な範囲で最大限の材齢を確保した後にプレキャストPC床版の縦目地へのUFC充填を行うなどのひび割れ発生リスクを低減する方策を取り、施工する方針で検討している。

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