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低温環境下、沿岸部など

厳しい環境下でのシラン系表面含浸材の施工の留意点整理に向けて

国立研究開発法人土木研究所 
寒地土木研究所 耐寒材料チーム
主任研究員
遠藤 裕丈 氏

◆はじめに

 シラン系表面含浸材は、撥水機能を有するアルキル基から構成されるシランモノマーやシランオリゴマーを主成分とし、コンクリート部材への水や塩化物イオンの侵入を抑えるため、コンクリートの表層を疎水化させる浸透性の保護材です(写真-1)。施工が容易で経済性に優れ、施工後も部材の外観を変化させないなど様々な長所を有しています。


写真-1 シラン系表面含浸材を塗布したコンクリートの切断面に水を噴霧した様子


 しかし、穏やかな環境下での施工ばかりではなく、時には厳しい環境下で施工が行われることもあります。著者は現在、厳しい環境下でシラン系表面含浸材を施工する際の留意点について整理するため、種々の実験を行っております。本稿では、その一例についてご紹介いたします。


◆ 低温環境での施工を想定した実験の一例

 土木学会表面保護工法設計施工指針(案)は、気温が5℃を下回る環境をシラン系表面含浸材の施工条件の対象外としています[1]。しかし、寒冷地では、施工時期や工期短縮など作業工程の制約から、気温が5℃を下回る冬期も防寒仮囲いを設置し、塗布が行われています(写真-2)。冬期のコンクリート部材は川霧や結露によって表面が濡れやすいため水分の影響が懸念されますが、なによりも低温下での施工ですので、温度の影響も気になるところです。

 そこで、シラン系表面含浸材の含浸に及ぼす温度の影響について調べました。


写真-2 防寒仮囲いの中での塗布作業の様子(一部画像処理)


 表-1はコンクリートの配合です。セメントは普通ポルトランドセメントもしくは早強ポルトランドセメントを使用しました。水セメント比は55%としました。ここでは冬期のコンクリート打設を模擬し、実験に使用するコンクリート供試体は寒中コンクリートとして作製しました。養生工程はコンクリート標準示方書[2]にならい、図-1のように設定しました。養生温度は5℃とし、湿った麻布で覆って養生を行いました。養生終了時の圧縮強度は、普通ポルトランドセメントを用いたコンクリート供試体は25.4MPa(材齢11日)、早強ポルトランドセメントを用いたコンクリート供試体は22.9MPa(材齢7日)です。なお、温度の影響を主に評価する理由から、水中浸漬など塗布前にコンクリートの水分量を高める作業は行いませんでした。


表-1 コンクリート配合


図-1 供試体の養生工程(温度は5℃)


 養生終了後、図-2に示す工程に従ってシラン系表面含浸材の塗布(写真-3)および含浸深さの測定を行いまいた。静置温度は-10℃、0℃、5℃、10℃、20℃の5水準、塗布までの静置期間は1、3、7日の3水準、塗布後の静置期間は1、7日の2水準としました。コンクリート供試体には「養生・静置後(図-1の終了)から塗布までの静置日数」と「塗布終了後から測定までの静置日数」の組合せで構成された作業記号を付しました。シラン系表面含浸材は、0℃以下で塗布するため水系の製品を評価対象から除外し、北海道開発局道路設計要領の仕様[3]を満たす無溶剤系の3製品を選定・使用しました。


図-2 塗布および測定までの工程


写真-3 塗布状況(下向き)

 表-2は実験で使用したシラン系表面含浸材です。これら3製品が-20℃でも凍結しないことは予備実験で確認しています(写真-4)。なお、塗布量は統一せず、製品メーカー指定の標準量としました。


表-2 実験で使用したシラン系表面含浸材(いずれも無溶剤系)

 
写真-4 -20℃の環境に1日静置した表-2のシラン系表面含浸材の外観

 図-3は、普通ポルトランドセメントを使用したコンクリート供試体の作業記号1-1、3-1、7-1における含浸深さの測定結果です。いずれのケースにおきましても、含浸深さは概ね10~15mmの間に集中し、含浸に及ぼす温度および養生後、塗布までの静置期間の影響はみられませんでした。


図-3 含浸に及ぼす静置温度の影響(普通ポルトランドセメント、塗布翌日に測定)


 図-4は、塗布後の経過日数が含浸深さに及ぼす影響を整理したものです。静置温度が0℃以上のケースでデータのばらつきが確認され、また、含浸深さが5~15mmの範囲に着目すると、塗布7日後に測定した方が含浸深さはやや大きい傾向が見受けられました。しかし、塗布翌日の段階でも10mm近く含浸しており、静置温度が-10℃でも塗布後、静置1日で十分な厚さの吸水防止層が形成される結果となりました。


図-4 塗布後の経過日数が含浸深さに及ぼす影響(普通、早強のデータを一括表示)


 図-5は、使用したセメントの種類が含浸深さに及ぼす影響について整理したものです。今回の実験の範囲では、早強ポルトランドセメントを使用したコンクリート供試体に塗布した方が含浸深さは小さい傾向にありました。養生後の静置期間中に早強ポルトランドセメントを使用したコンクリートの強度が増進し[4]、普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートよりも含浸経路にあたる空隙が減少した可能性が考えられますが、早強ポルトランドセメントを使用した場合でも、静置温度-10℃において平均で約9mm含浸していました。


図-5 使用セメントが含浸深さに及ぼす影響(すべての作業記号のデータを一括表示)