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㉛己を知り、自ら学ぶ

民間と行政、双方の間から見えるもの

富山市
建設技術統括監
植野 芳彦 氏

3.そんな時に……

 富山市で管理する「下新橋」で、橋脚の一部が剥離し、安全をとって通行止めにした。昨年度の定期点検において、点検者から「ひび割れ幅22mmのひび割れがあった。」というので、モニタリングシステムの設置を指示していた。前回の点検時(平成24年度)の報告書を見ると、このひび割れは損傷図にはない物であったが、橋脚全体がASRであった。今回の損傷は、私は、設計時からの不具合だと考える(昭和40年完成)。なぜか? まず、沓のアンカーボルトと、橋脚の縁端距離不足。さらには、鉄筋の量および配筋不良である。

 それにしてもこの橋、平成24年度に点検している(私の赴任前)。そして、補修がなされている。上部工には剥落防止(これは良い)、しかし下部工は、なにか、いい加減な施工がなされていた。良くわからない? 橋脚天端のコンクリートの状態が非常に悪い。沓の下には空洞が出来ている。無収縮モルタルは、割れ欠け落ちている。これも本来は台座コンクリートを施工するくらいの高さを打ってしまっている。良かったのは、モニタリングシステムの有効性が確認でき、今後、説明しやすくなったことが何よりである。







下新橋について


 一般的に、最近の点検時には上部工は比較的まじめにやられている。しかし、下部工がゆるい。どうも、富山の案件を見ていると全体的に設計から下部工が甘い。フーチングの根入深さも足りないような気がする。これでは、耐震補強どころの話ではない。

 このような状況で考えると、結局は「技術力」が官民双方に不足しているのである。文句は言いたくないが言いたくなる。まあ、言っても反応はない。だからダメなのである。

 また、あるPC橋のひび割れ補修工事を発注したところ、発注量と3倍ほどの増加になり、話題になった。実はこの橋、1回目の補修工事時にも、2倍程度のコスト増があり、施工区間を減らした経緯がある。今回はさらに3倍。理由は実は分かっている、点検の不備なのである。桁高が高いため、本来の近接目視点検をするには、中段足場が必要なのだが、それをせずに、ポールカメラで撮影し、点検したということになっていた。これは、監督員の許可が要るはずであるが、そうではなかった。そもそも、ひび割れがあまりにも多ければ、ひび割れ注入ではない方法を検討すべきである。

 結局は、技術屋を名乗る割には、技術そのものに対して甘い。厳しさがない。ミスはある程度仕方がないと個人的には考えている。直せばよいのである。しかし、大手企業にもあるが、「隠蔽」や「手抜き」はダメである。これは技術者精神に反する。最近これが多いのは、社会がおかしくなっているからだ。

「長寿命化」とは言うが、元々出来の悪い負の遺産を長寿命化できるのか? かえって費用がかかる。さらに、全体を考えるとおそらく設計・施工不良の多い時代は一番多く造られた時代である。この現実も見ないととんでもないことになる。表面のひび割れだけを損傷図に書いて満足しているうちは解決しないでしょう。


4.まとめ

 自治体で技術論を話すのは非常に難しい。ましてや、技術の伝承と簡単にいうが、具体的方法をご教授願いたいものである。私は、日々悩んでいる。自分自身を考えると、実際の仕事の中から学び、考え、行動していくしかない。現在、インフラ関連事業が財政難から抑制されていて、大規模プロジェクトなども、ほとんどない。実践で学べる場所が少ない。悲しいことである。

 そんな状態で、地方の民間も役所も技術という言葉は使うものの、これに対する厳しさがないように感じる。上辺の議論で、災いが通り過ぎるのを待っているのである。そういう者が多い。これで、「技術技術」といわれると、反感すら感じてしまう。

 維持管理の問題は、意外に難しく、造ったことも壊したこともない者にやれといっても困難である。これもよく言われることだが、先人のいい加減な設計、いい加減な施工。それを受け入れた役所(その時は、いい加減だとは思っていない)、これが今後、大きな社会問題となってくる。この実態を見逃すと大変なことになる。「先輩方がやったことを貶すな」と言う方がいるが、真実を追究しなければ技術の発展はない。貶しているわけではなく反省しようと言うのである。

 技術力がそぐわなかったらどうすればよいのか? という質問を受ける。逆に私のほうからもする。多くの答えが「きちんと、技術の伝承をしていくべきだ」と皆さん答える。これでは答えにならない。政治家的回答である。では具体的にどうするのか? この答えがない。難しいんですね。子供ではないので、いちいちいえません。自分で学び取るしかない。私の座右の銘は「百錬自得」です。自分で身につけていくしかない。いろいろお膳立てをしてやっても、それを実行しなければ、なんにもならない。修行の世界。技術の伝承や技術者教育は、本来講習などを聞いただけではだめで、聞いて自ら考え実行しないと。前述したとおり、経験が重要でこれを、他人がつけてやることはできない。非常に厄介な課題である。

 同じ技術者でも研究者、行政、設計、施工等、所属する組織によって技術への考え方は、おのずと違ってくる。やっている内容も、ソフト系とハード系で違ってくる物と考える。私が考える技術と市役所の職員の考える技術は当然違っている。それが、経験から分かってきたので、まず、ここでは、一つひとつの技術ではなく、「しくみ」の構築からはじめているわけである。「しくみ」は創れば、共有できるし、伝承される可能性がある。そんなわけで、時間が掛かっているのだが、その間にも問題は起きている。次回から、この仕組みづくりの困難さを書くことにする。私にも時間がもう残されてはいないので。

(2018年6月15日掲載、次回は7月中旬に掲載予定です)