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インタビュー詳細

現場ニーズに合わせた仕様を提供

ECFストランド PC橋の高耐久性化に寄与

京都大学大学院
特任教授
宮川 豊章 氏

 このほど土木学会から「新しい内部充てん型エポキシ樹脂被覆PC鋼より線「ECFストランド」に関する技術評価報告書」(左写真)が発刊された。東北地方整備局などで進められているPC橋の高耐久化に対応した新しいECFストランドの性能を評価したもので、径サイズの拡充や低リラクセーション仕様など、現場ニーズに合わせたものをオーソライズしている。土木学会では、2010年に「エポキシ樹脂を用いた高機能PC鋼材を使用するプレストレストコンクリート設計施工指針(案)」をまとめているが、その延長線上で行ったものだ。同技術評価委員会の委員長を務めた宮川豊章京都大学特任教授に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)


径サイズを拡充 高強度・低リラクセーション仕様にも対応

 従来設計のまま横締ケーブルにも高耐久PCストランドの使用が可能

 ――「新しいECFストランド(内部充てん型エポキシ樹脂被覆PC鋼より線)」を投入した理由は

 宮川 1992年頃から使用され始めた従来品は、サイズが12.7mmと15.2mmの2種類しかなく、強度レベルもJIS規格強度のみで、リラクセーションが小さいものはありませんでした。そのなかで、土木学会では製品の仕様および設計と施工の基準化を早く行いたいということもあって、2010年に「エポキシ樹脂を用いた高機能PC鋼材を使用するプレストレストコンクリート設計・施工指針(案);コンクリートライブラリー133号(土木学会)」をまとめました。


 ECFストランドは、PC橋の外ケーブル、斜ケーブルおよび主方向の内ケーブル、プレテンションとして幅広く使われていますが、さまざまな課題がでてきました。とくに、東北地方整備局で塩害や凍害対策で使用することになったときに課題が顕著になりました。ECFストランドが認められ、期待されただけに、サイズ、強度、リラクセーションのメニュー不足が明らかになったのです。


 ――今回技術評価を取得した「新しいECFストランド」とは、どのようなニーズに応えたものなのですか

 宮川 豊富なサイズ、高強度および低リラクセーションの実現の3つが大きな特徴となっています。新製品は、塩害や凍害対策などにおけるPC構造の高耐久化、構造物の設計自由度の向上に応えるために投入されましたので、PC橋梁への適用部位の拡大と高耐久化が可能となっています。


 具体的に言いますと、第一に、サイズ構成を拡充することでPC橋梁分野でのあらゆる部位へのECFの適用を可能にし、使用されるPCストランドを同一レベルで高耐久化を図りたいとの要請に応えられるようになりました。


 従来ECF仕様のPCストランドは、「エポキシ樹脂を用いた高機能PC鋼材を使用するプレストレストコンクリート構造物設計施工指針(案)」に規定された7本撚りのφ12.7mmとφ15.2mmのものしか用意されていませんでしたが、今般、φ17.8mm、φ19.3mm、φ21.8mmの太径ストランドと薄肉部材のプレテン用にφ9.3mmが開発されたことによって、従来の上部工断面や下部工・基礎工を変更することなく、塩害や凍害に対して高耐久化を図ることが容易となりました。


 φ12.7やφ15.2はプレキャスト桁の横締めとしては1ケーブルあたりのプレストレス量が小さすぎてケーブル本数が増加し、施工性が損なわれますし、φ12.7やφ15.2を複数本束ねた形式で使用するマルチタイプでは、シース径が従来よりも大きくなる等により従来の床版厚の見直しが必要となります。大容量化が図られたシングルストランドとしてのECF仕様が開発されたことは、従来設計のまま横締めケーブルにも高耐久PCストランドの使用が可能となり非常に有効です。プレキャスト桁の接合部でシースが不連続となっている位置やプレキャスト桁の場所打ち部は耐久性上の弱点となりやすい部位ですが、そういった箇所でもPCストランドの腐食リスクが大幅に低減されることになります。既に東北地方整備局が進める高耐久化の取組みで実用化が進んでいます。


 横締め用太径高強度品である17.8mmから21.8mmは、東北地整などで進められているPC橋の高耐久化の検討のなかで開発されました。プレキャスト桁の横締めにおいて、床版厚などの変更をせずに設計施工を行うとなると、太径の高強度品が必要になってきたので、現場のニーズにあわせたわけです。


 9.3mmは、厚みの薄いコンポ橋のPC版などのプレテンション部材に用いる細径のストランドです。耐久性上の問題は最も弱いところから発生し全体に広がることから、徹底した高耐久化を達成するために、太径だけではやはりメニューとして不十分であると考えて、細径もつくられました。

 各製品のうち、7本よりのものが住友電工スチールワイヤーさんで、19本よりが神鋼鋼線工業さんのものとなります。


 ――2つ目の特徴は

 宮川 現在ほとんどの標準設計が、低リラクセーションのPCストランドを前提としていることから、例えばプレキャスト床版桁などで、従来仕様で従来断面のままでは従来のECFでは所定のプレストレスが確保できないケースがありました。ポストテンションの場合でも、低リラク仕様とすることで必要ケーブル本数が減って、配置が可能になるケースがあります。従来から広くECFストランドが適用されてきたこれらのサイズには、低リラク仕様の強いニーズがあったわけです。従来からあるφ12.7mm、φ15.2mmのサイズについては、低リラクセーション仕様が追加されたことでこれらの問題の解決が図られました。


高強度化によりケーブル本数を削減、省人化・省力化施工が可能に

 PC構造物を軽量化、スレンダー化できる

 ――3つ目の特徴は

 宮川 PCストランド高強度化のニーズに応えたことです。

 現在PCストランドの主流となっているJISのB種、1860MPa級のものは1971年にJIS規格として制定されてから、既に40年以上経過しています。

 近年の環境問題のクローズアップ(省資源、省エネルギー、CO2削減,NOx,SOxの削減等)、施工現場の省人化・省力化・急速施工の志向、外ケーブル構造の増加でPCケーブルの大容量化が進む中で、少なからぬPCストランドの高強度化のニーズがあります。


 PCストランドを高強度化すると遅れ破壊感受性が高まることが懸念されましたが、ECF仕様とすることで遅れ破壊リスクは実質上無視でき、高強度PCストランドを安心して使用できるようになりました。高強度化されることによる靱性やフレッチングなどの疲労性能低下の懸念についても、ECF仕様とすることで十分な安全性が検証されています。


 今般メニューに取り入れられたφ15.7mmの場合、JIS B種ストランドに対して1.2倍の引張強度2230MPaを有し、断面積の8%増も加わって、「ケーブル本数の削減」、「施工・維持管理の省力化・省人化」、「急速施工」、「省資源」「原材料・製品の輸送面をも含めた環境負荷の低減」「軽量・スレンダーかつ強靭なPC構造物」、などの実現に寄与できるものです。上部工だけではなく、下部工や基礎工を考慮した場合には9%のコスト削減に寄与するとの報告もあります(参考 「高強度PC鋼材を用いたPC構造物の設計施工指針」(平成23年6月)(旧)PC技術協会 )。


 高強度化することで、内ケーブルの場合には、樹脂被覆厚さ分の断面積が大きくなっても、従来のシース径を変更することなく配置が可能で、グラウト充填のための空隙率を確保できるメリットもあります。PCストランド高強度化の技術は、元々15.7mmのストランドで実用化されたものですが、今回評価を受けた太径の7本より17.8mmや7本より21.8mmにその技術が生かされています。


 ――サイズはどのような形で決めたのでしょうか

 宮川 サイズについてはJIS規格でPC鋼線などがあるので、そのメニューを満足させる形で考えています。サイズと部材の関係でいえば、12.7mmと15.2mmは橋軸方向で使われるメインのサイズとなります。17.8mmから21.8mmは橋軸直角方向の横締めの汎用サイズでJIS桁などを横締めするときに標準的に設計されているサイズなので、それにあわせました。9.3mmはコンポ橋の非常に薄いPC床版に従来から使用されていたものとなります。また、高強度は15.7mm、普通強度の低リラクセーション品は15.2mmとなっています。これは現場で混在するケースがあるので、その混乱を避けるためです。15.7mmは現在のJIS規格にはありませんが、断面積が8%増えても施工性に変わりはありません。