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鋼単純合成桁RC床版の取替により鋼桁の外ケーブル補強を施工

NEXCO中日本 中央道小早川橋・弓振川橋の鋼橋RC床版を取替

公開日:2016.12.28

外ケーブル+補強部材工程が必要
 床版撤去 主桁上面を残す形で中間部をまず切断

 2.弓振川橋
 弓振川橋も壁高欄・上下線セパレートの作りは小早川橋と同様だが、大きく異なるのが合成鈑桁橋という上部工構造であることだ。この橋梁を床版との合成効果を考慮せずとも成立する構造とするため既設床版撤去とプレキャストPCパネル設置工の間に外ケーブル緊張+補強部材の本締めという工程が必要になる(これをプレキャストPC パネル配置前にやらなくては、補強前後でキャンバーが微妙に変わってしまう)。
 集中工事期間内の現場では、まず初めに桁間の中間床版(4主桁のため全幅員を桁上を除き3つに分割した方で切断撤去していく)・路肩壁高欄・中央分離帯地覆を120㌧クレーンによって吊切りを行った。桁間の床版サイズは橋軸方向4.5~5.748㍍×直角方向2.31㍍で重量は7.5~8.5㌧。桁間の床版については、主桁上フランジをカッター切断時に損傷させないようにフランジから5㌢程度離隔を確保して切断を行っている。その上で主桁上に残った既設床版は、上フランジ天端より5㌢程度を狙って水平方向のワイヤーソー切断を行い、ブロック状にクレーンを用いて撤去している。最後にフランジ上に残った5㌢程度厚さのコンクリートは主桁に損傷を与えないようウォータージェット(WJ)による斫りを行い、最後に残った上フランジ上面のスタッドを切断して、撤去工を完了した。


弓振川橋の床版切断計画詳細図

床版の撤去 左から①既設床版をカッターで切断、②中間床版を吊切り、③中間床版の撤去

④上フランジ上面に残ったコンクリート、⑤④の部分をWJではつる、⑥残ったスタッドを切断して撤去を完了

 WJ施工にあたっては、大量に発生する汚濁水対応が必要になる。しかし、同地は「平地が少なく、沈殿槽を作る場所がない」(IHIインフラ建設現場代理人・高橋政雄氏)ため、処理業者に委託してバキューム社により直接回収を行った。そうした都合により昼間に限定して施工している。

対面通行規制前に事前施工

 外ケーブルと鋼部材を用いた床版を抵抗断面として考慮しない主桁補強は、対面通行規制前に桁下に足場を設置してブラケットの設置・ケーブルの仮配置(緊張導入はしない)・補強部材の仮留めまでを行っておく。プレストレス導入および本留めは桁上の既設床版を全撤去して荷重がフリー状態になった後で施工する。

外ケーブル補強で主桁上フランジに作用する死荷重をリセット
 基本計画時40日の工程を7日に短縮

 床版取替え前の弓振川橋(P4-P5)は鋼単純合成鈑桁橋である。そのため主桁自重とRC床版死荷重については主桁断面のみで荷重を負担して、橋面死荷重と活荷重については、主桁をRC床版の合成断面で抵抗する構造となっている。いわゆる活荷重合成桁(架設時にフランジを細く、薄くできるため施工上有利な構造になるが、こうしたリニューアル時には重量増となることが多く、余裕が極度に小さくなる)である。
 通常の荷重により主桁上縁に発生する応力は圧縮応力だけであり、これを現状ではRC床版との合成断面で負担するため、主桁の上フランジは、非合成桁に比べて細くて薄い(剛性が小さい)ものになっている。床版を取り替えるにあたり、将来の維持管理を容易にし長寿命化を図るため、床版との合成効果を期待せずに主桁のみで全ての死荷重と活荷重に抵抗できる構造とすることとした。
 当初の基本設計では、既設床版撤去後に主桁を当て板部材で補強して、前述の荷重に抵抗できる構造とする計画を考案していた。しかし、この方法では、死荷重作用時の既設主桁と補強部材の応力差が大きく、補強部材のもつ耐力を有効に活用できず、(必要耐力を稼ぐために)補強部材が大型化し、上フランジだけでなく下フランジにも補強部材を取り付けなくてはならず(下表)、工期の面でも、鋼部材補強だけで40日程度も必要となり、集中工事期間内で対応完了が難しくなるという課題があった。


基本設計時の主桁および補強部材の応力負担

 そのため、詳細設計(IHIインフラ建設)では、集中工事期間の延長を回避できる方法を検討した。具体的には、補強に必要な鋼部材量をできるだけ少なく、断面を小さくするため、外ケーブルを用いてプレストレスを導入し、既設主桁に作用する死荷重応力を低減させ、不足する分だけ補強部材を取り付けることにした。ただし、外ケーブル緊張(エスイー外ケーブルF200TS、有効緊張力約1000kN/本、主桁1本あたり1ケーブルを配置)からプレキャスト床版架設までの施工時に、一部の断面(両側桁長の1/4支点付近、通常は上側が圧縮、下側が引張状態となる箇所)が全圧縮となり、最悪の場合座屈することも考えられることから、施工時仮設対傾構に加えてウェブ(下フランジからおよそ全桁高の1/4高さのポイント)にL型の水平補剛材を補強した。この水平補剛材はプレストレス導入時からプレキャスト床版架設までの期間の足りない断面剛性を補強するためのもので、本補強完了後は特に必要ないが、塗装して残置する方針。


実際に施工した手法(外ケーブル補強+当て板補強)での主桁および補強部材にかかる応力負担

外ケーブル補強概要図および補強断面図

 外ケーブルは、「より曲げモーメントをたくさん稼げるように下フランジ下側に配置した」(同)。PC鋼材定着のためのブラケット周辺では複雑な応力分布となることが想定される。そのため、定着部付近には鋼板により適切な補強を施した。加えて、今回のような鋼鈑桁にプレストレスを導入して補強するという事例は少なく、参考資料もほとんどないことから、定着部周辺の応力分布、補強効果を検証し、部材の安全を確認することを目的として、3次元FEM解析を実施した。その結果、特に定着部付近において、補強を行わない場合は、最大で215N/平方㍉の応力が発生するが、適切な補強を行えば88N/平方㍉まで抑えられることを確認した。


外ケーブル設置に際して行う補強

ケーブル定着体の設置(左)/外ケーブル緊張作業(右)

外ケーブル補強後のキャンバー値、ほぼ設計値通りに推移した

補強部材の本締め

 こうした検討・解析を経て、施工した結果、外ケーブルによる補強+鋼部材補強は、基本設計時の全鋼部材補強と比較して、下フランジ側の補強材が不要かつ、上フランジ側の補強材も大きく量を減らすことが可能になり、集中工事期間内に必要な日数を40日から7日に短縮することができた。
 桁補強後は、220㌧クレーンを用いて、210㍉厚のプレキャストPCパネル19枚(1枚約14㌧)をP5側から8枚、P4側から11枚を、P5からP4方向へ順次配置していった。


プレキャストPCパネルの設置

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