道路構造物ジャーナルNET

台風19号 千曲川流域の被災現場を巡る

公開日:2019.10.29

 左岸の県道40号に入るが、布引大橋付近で通行止めとなっていた。ロックシェッド内とその出口付近約30mでは千曲川の越水または、堤防の損壊による吸出しによるものか、舗装が浮き上がり、大小のブロックとなって散乱しており、地面が露出していた。シェッドから約100m付近では土砂崩れが発生していて、県道をふさいでいた。泥の堆積は厚く、油断した記者はひざ下付近まで靴がはまり抜け出るのに苦労した。同所には小諸市の水道局の女性技術者が来ていたが、被害の大きさに対して、途方に暮れていた。さらに、その先約150mでは1車線が完全に崩落した状態となっていた。


布引大橋/県道40号のロックシェッド

ロックシェッド内部/ロックシェッド下流側出口近傍①

ロックシェッド出口近傍の損傷状況

土砂崩れ/堤防が広範囲に崩れ、えぐられて1車線分が崩壊していた

 県道40号が通行できないことから、右岸側の国道18号を経由し東御市の境橋で千曲川に戻る。境橋に損傷はなかったが、その上流左岸には大量の土砂が堆積し、もとの流れから4~5m上にあった畑が完全に埋没していた。土砂堆積により、千曲川に合流する支流が堰き止められ、合流部の流れが大きく変わっていた。


境橋は無事であったものの、その上流左岸は、支流の出口を埋めるように岩や土砂が堆積していた

ここは田畑だったはずなのだ/行き場を失った支流の水が田畑を穿ち、流れている

大変な被害である

コンクリート部分は堤防である。写真右の岩石を取り除くところから始めなくてはいけない

 境橋の上流約800mに赤いトラス橋(布下橋)があることを見つけて向かう。地元の人に聞いたところ、トラス橋の手前には荷重制限2tの木橋が架かっていたとのことだが、橋台を残して流出していた。木橋は潜り橋であり、過去に5~6回は流出していとのことだった。現場で見回りに来た、地元の人に聞くと、トラス橋は2径間ということだ。確かにアバットだ。左岸側の盛土はかくも広範囲に流失していたのだ。以前取材した北海道の水害(平成28年台風10号水害)の新栄橋を思い出した。同橋には右岸の泉源から温泉を引く管も設備されていたという。車を止めさせてくれた民宿は長期休業を余儀なくされていた。


布下橋遠景

アプローチとなる木橋も流失していた

布下橋 橋梁は健在だが……

アプローチとなる盛土堤防部分が全く消失している

 次に、県道81号の田中橋に移動した。田中橋は車道部のPC橋と歩道部の鈑桁橋からなる橋梁で左岸と東御市役所、しなの鉄道田中駅を繋ぐ重要な橋梁だ。しかし右岸の橋台盛土が洗掘により広範囲(10ⅿほど)に流出していた。手前の家は助かっている。どういう流れ方をしたのだろうか。よく見るとPC桁は少し沓座からずれているように見えた。大変な力が働いたことが分かる。現場には損傷状況を調査するための測量にコンサルタントが派遣されていた。


右岸側から見た田中橋/右岸上流側面から見た田中橋

桁は損傷を受けていないように見えるが、少しずれてないだろうか?

右岸下流側から見た田中橋、同左岸から見た田中橋

 ついで千曲川左岸を下り、上田市に到着。上田電鉄別所線の千曲川橋梁に至る。既にその長大トラス橋の左岸側1径間が洗掘により崩落していたことは報道されていた。もともとの川の流れは右岸側だったが、台風により左岸側へと変わってしまったため、おそらく橋台部に対して水衝突が生じたのだろう。橋台部はその衝撃により崩落し、支えを失った桁が川に落ちていた。しかし、見たところ桁の状態は良い。橋台部を復旧してクレーンで相吊りして架設すれば、元通りにできるだろう。しかし恐れずに私見を述べれば、直接基礎での復旧はあまりよくない。北海道の河川復旧に伴う橋梁の架け替えでなされているように、杭基礎を設けたうえで桁を架け直した方が、今後の災害のことを考えれば良いに違いない、と思う。なお、取材当日は、北陸地方整備局によって、川の流れを本来の位置に戻す工事が行われていた。


上田電鉄別所線の千曲川橋梁 橋台を失い左岸側の1径間が落ちている

しかし、桁の状態はそれほど悪くないように見える。再利用は可能ではないだろうか

 上田市から上田菅平ICで上信越道に乗り、須坂長野東ICで降りて千曲川右岸を進み、支流の新百々川橋を渡り、千曲川の村山橋付近で車を停める。そのあたりでは河川敷がりんご畑となっていたが、木の半分以上が土砂に埋まっていた。また農地を結ぶ小規模橋は、桁が無事であったものの、高欄は吹き飛んでいた。


百々川河川敷のりんご畑は大きな被害を受けていた/河川改修碑


農地を結ぶ小規模橋の被災状況

 下流の小布施町に向かっていくと、小布施スマートIC(閉鎖中)で付近から氾濫した土砂が道路に残り、巻き上がっていた。前日の通行止めが解除された小布施橋を渡る。周辺はまだ水が完全に引いてない状態だった。信州中野ICで上信越道に乗り、帰路についた。


小布施地区のりんご畑の被害を車窓から撮る

小布施スマートICは閉鎖されていた

 その後、当社では千曲川流域の自治体に電話取材して、道路被災状況と橋梁の損傷状況を確認した。調査した自治体は、長野県、川上村、南牧村(長野県)、小海町、佐久穂町、小諸市、東御市、上田市、坂城町、千曲市、長野市、佐久市である。
 以降は連絡がついた自治体順にレポートする。
 長野県は23日17時段階で県管理40路線45区間が通行止めしており、県管理橋では、前述の田中橋、佐久市の男橋、南箕輪村の権兵衛2号橋が被災している。佐久市は同段階で、市管理の54区間が通行止めしており、市管理橋梁は流失が2橋、損傷が16橋と現時点で確認できた状況下であるが、千曲川流域の市町村で最大の被害を被っている(以降数字はいずれも当該自治体管理の道路・橋梁)。南牧村は通行止めが1区間、橋梁の被災は0、小海町は通行止め、橋梁被災とも無し。佐久穂町は通行止めが4路線、橋梁の被災は流失が3箇所、損傷が5箇所生じていた。流失橋のうち2箇所は山間部の木橋。橋梁の損傷5か所はいずれも橋台盛土の流失という事だ。小諸市は通行止めが6路線、橋梁損傷は前掲の大杭橋を含めて2橋が流失した。上田市は上田電鉄の鉄道橋のほか、通行止めが9路線、落橋は木橋の1橋(ただし、旧上田市および旧丸子町分のみ、旧真田町、旧武石村分は未確認)。東御市は通行止めが7路線で、橋梁被災は先述の布下橋など8橋が被災、そのうち4橋が流失しているとのことだ。川上村は通行止め4か所、橋梁損傷は無し。坂城町は通行止め・橋梁損傷共に無し。千曲市は通行止め3箇所、橋梁損傷無し。長野市は通行止め2箇所、橋梁損傷無しとなっている。調査は25日、26日の両日に行った。(2019年10月29日掲載)

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