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PCケーブル制振ワイヤの抜本的な改良、塩害対策

日本初の本格的なPC斜張橋「呼子大橋」の補修補強

公開日:2018.03.20

 修繕代行
 修繕代行にあたっては、まず詳細な点検から始めた。検討課題は①既存資料の整理、②ケーブルの振動、③コンクリート部材の品質に関する調査――の3点だ。
 ①では、斜材ケーブルの防食システムおよび制振ワイヤの破断状況を調査した。ケーブル定着部は異種金属反応の影響に起因した腐食が始まり、その後さらに飛来塩分などにより鋼製鞘管(カバープレート)の腐食が進行していることが確認できた。また、制振ワイヤは広範囲に破断切断箇所が特定された。


P6主塔部の損傷状況

ケーブル保護鋼管の腐食状況

制振ワイヤの破断状況

 ②では、SIPで開発した小型の無線センサ(MEMS、左写真)を活用して、加速度振動測定を行った。その結果、15m/sを超える風が吹く条件下で、±3cm程度の振動を観測したものの、主桁に生じているひび割れの開閉は見られなかった。なお、同計測は、施工時にケーブル振動が確認されたS-18ケーブルを対象に行っている。さらに、ケーブルの振動について、考察を重ねていくと、平行する2本の主ケーブル間隔が1.85D(Dは主ケーブルの直径)とウェイクギャロッピングが発生しやすい状況にあったと推定された。ウェイクギャロッピングは1.5D~6D間で顕著に発現することが知られており、伊唐大橋(鹿児島県出水郡長島町の長島と伊唐島を結ぶPC斜張橋)などの対策事例を踏まえて(1994、米田昌弘氏(川田工業、現近畿大学教授)など)、2本の並行ケーブルなどを束ね、かつ制振ワイヤを張り直すなどして、ケーブル間隔を1.25Dまで縮めることでウェイクギャロッピングの発生を抑えることにした。また、ケーブルの振動にあわせ、主桁の振動も生じており、ケーブル振動と主桁のひび割れの関連性について、継続して調査を実施している。


ウェイクギャロッピング対策の概念図

 ③は、斜張橋部の損傷に加えて、下部工や上部工の主桁内外面のコンクリートに浮きや剥離、鉄筋露出、ひび割れが確認されている。同地の飛来塩分は1.55mddと大きく、下部工は飛沫が直接かかる箇所もある。実際に品質試験を行ったところ、一番高い箇所に位置する主塔部においても、コンクリート表面の塩化物イオン量は最大3.16kg/㎥(呼子側主塔P6北面部)に達していた。また、P1、P2、P3、P4(側径間)と P6の橋脚基部については鉄筋位置での塩分量がいずれも腐食発錆限界濃度1.2kg/㎥を超える数値(最大はP1橋脚基部の8.05kg/㎥)が確認された。


塩分量分布

 そのため、損傷部についてはコンクリートの浮きや剥離部のたたき落としおよび断面修復、ひび割れの補修を行い、塩分の浸透を抑制するため、断面修復材には塩分吸着剤入りポリマーセメントモルタル(PCM)を用い、一部で表面保護も施工する。 
 具体的に断面修復は塩分吸着剤入りポリアクリル酸エステル(PAE)ポリマーセメントモルタル「デンカRIS」(耐用年数30~50年)、表面保護工は上部工(桁下面から地覆側面まで)と下部工の飛沫部(HWL+2m)より上にシラン・シロキサン系表面含浸材「アクアシール1400」(耐用年数15年)、飛沫部以下から塗布可能範囲までは速乾性のエポキシ樹脂系表面保護材「パーミクロンガードP」(耐用年数10~15年)を採用している。


表面塗装工

表面含浸工

ひび割れへの樹脂注入/断面修復前の脆弱部の斫り落とし

 斜張橋部(主径間)についても、先述のケーブル定着部における鋼製鞘管(カバープレート)の腐食に伴い水の浸水が懸念されることから定着部のカバープレートを水の浸入が起きにくい構造へ取り替える。また主桁特に外面についてもひび割れ注入や、断面修復、表面保護が必要であるが、通常の足場では母材に影響を与えてしまうため、米山工業製のレール式移動足場「ラック足場」を採用し、スムーズかつ安全な施工を実現している。同足場はここでは橋軸直角方向13m、橋軸方向3.6m、最大積載荷重850kgの足場を用いている。


主塔間の桁はラック足場を採用して点検・補修した

 実施工
 現在は、側径間部の補修および、主径間部の主桁補修はほぼ完了し、損傷が発生しているP6内側の斜張橋ケーブルの対策工に着手している。まずは、風速10~15m/sの条件下で振動が抑制できる対策の組み合わせの最適化を図るために段階的に対策(試験施工)を実施している。特に、供用中の斜張橋に対し、束ねケーブルによる対策を実施した事例は存在しないため、「斜張橋ケーブルメーカーのエスイーに相談しつつ探りながら施工している」(元請の松尾建設)ということで、期待した対策効果が得られるかどうか計測および評価を行いつつの施工となる。
 施工は2本のケーブル間隔を1.85Dから1.25Dにして束ね直す、破断した制振ワイヤをクロスラインから並行ラインに変更した新たな構造に張り替える、というもの。制振ワイヤの張り直しは、まずケーブルを束ねている制震ワイヤの既存のクランプをはずし、油圧ジャッキで1.85Dから1.25Dに間隔を狭めた上でクランプを再びはめ込む、「上端と下端をはめ込めば理論上ケーブル間隔は平行になる」(松尾建設同社)。その後に当初の計画では約9mピッチで中間のクランプをはめ込んでいき、制振ワイヤを張り直す。
 こうしたワイヤの束ね直しと制振ワイヤの張替は、高所での作業を必要とするが、性能の高い高所作業車を使うことに比例して作業車のアウトリガーは広くならざるを得ない。2車線の呼子大橋は全面規制が必要となるが、加部島と本土をつなぐ唯一の橋であるため、昼間は開放しなければならず、非常に難しい作業を夜間施工しなくてはならない。そうした安全に配慮して、一番高い箇所の作業においては、今回は最大作業高さ54mまで可能で、最大瞬間風速12.7mまで作業可能な「ブロントスカイリフト」を採用する。また、安全性を確保するため、10分間平均風速10m/s以上で作業を中止することにしている。


過酷な夜間の高所作業

 元請は松尾建設。一次下請はエスイーリペアなど。振動対策検討等業務はパシフィックコンサルタンツ。計測評価業務は中央コンサルタンツ。

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