沖縄西海岸道路　牧港高架橋の構造上の特徴と維持管理対策

スズ添加鋼材を使うことで塗装寿命が約2倍に延長
　通常約15年の塗り替えサイクルを約30年に伸ばす

防食・床版防水
　鋼桁の防食は、当初はチタンクラッド鋼材の採用を考えていた。しかし、実際に採用する段階になって、それはもうほとんど使われてないことが分かったため、「スズ添加鋼材（コルスペース）」という塗り替え周期を伸ばせる鋼材の採用の提案があり、鋼桁全体にそれを採用することに決めた。沖縄でも今回が初採用。防食は通常の沖縄仕様の下塗り一層増の重防食塗装（C-5塗装系）を採用した。
　スズ添加鋼材は、強度的には普通の炭素鋼と変わらない。しかし微量にスズが添加されており、「実験でいくと2倍以上の耐久性向上につながり、塗装寿命が従来の2倍見込めるという結果が出ている。これは、鋼材にスズが入っていると錆びようとする時に、塗膜下のスズが先行で溶けて、塗膜下の腐食を遅延させる」（下里准教授）ことが期待できる。イニシャルコストは上がるが。通常約15年の沖縄の塗り替え周期が約30年に延長することができれば、足場の設置費用も考慮するとLCCでは大幅に逆転する計算になる。

厳しい環境に対応するためスズ添加鋼材を採用した

床版防水工が大事
　鋼床版及びPCとの継ぎ目部には高性能防水

　課題はやはりPC桁との接合部だ。
　一般部では計算できても、鋼・コンクリート接合部で効果が期待できるか、促進試験やマクロセル腐食試験を行った。その結果、接合部のようなマクロセルを惹起する可能性のある環境下では、一般鋼材と同等の防食効果ということが確認できた。そのため、接合桁内部に水が入らないような防水工が大事になる。ただ、「鋼の場合はじわりジワリと穴が開いたとしても、断面強度はかなり安全側で設計されているため、耐荷力的に問題になる、という局面は直ちには考え難い」（同）としている。
　PC桁はポリエチレンシース＋被覆PC鋼材＋グラウトを施しており、防食面では万全をきたしている。
　こうしてみると、見えている面より、見えていない面からの水および塩分の進入を阻止することが重要となる。その意味で、一番そうした有害物質が入りやすいのは、桁上面、床版、取り分け鋼床版とコンクリート床版の接合部だ。そのため鋼床版部全体とPC床版との継ぎ目部合わせて1,108㎡に対しては、伸縮に強い高性能アスファルトウレタン樹脂を用いた床版防水（ニチレキ製）、舗装基層は改質Ⅲ型WF（40mm）を採用している。表層は排水性舗装（40mm）。特に接合部については、コンクリート側にコンクリート圧壊防止用のVカットを入れて、防水層と一体打設した上に、たわみ追従性の高い改質Ⅲ型WFの基層を舗設し、さらに上面にクラック防止シートを設置することで、多重の止水対策を施している（一般的なPC桁はアスファルトシート防水、改質Ⅱ型）。

接合部橋面の漏水対策概要図

床版Vカット部／防水工施工前の鋼床版へのショットブラスト



アスファルトウレタン防水の施工

舗装基層は改質Ⅲ型WFを採用した

　どうして、ここまで厳重な床版防水を用いるのか。下里准教授は「鋼とコンクリートは、線膨張係数は一緒だが、熱伝導率が異なるため、膨張の速度は異なる。また日射の方角、例えば西と東でも時間帯によって伸縮が変わるため、普通の設計計算上では見えないねじりのような変形が出る可能性がある。そのため高性能な床版防水を採用することはもちろん、（接合部の）伸縮を図る測定機器（鋼とPCのずれ変位の連続モニタリング）をつけて、防水工や舗装が割れることがないか、漏水をしないかモニタリングし、問題が生じた場合どうやってフォローするかということも考えなくてはならない」と語っている。
　将来舗装を打ち直す時も、こうした問題意識をもって防水工や舗装工を施工することが肝要と言えそうだ。
　また、同様に水の侵入による鋼殻セルの腐食を抑止するため、セル内の浮き調査として、近接目視による滞水の確認や赤外線サーモグラフィによる非破壊検査を実施し、密実な状態を確認している。接合部のコンクリート部では、接合部構造が大きく密実であることからマスコンクリートに近い性状を示し、早期にひび割れが起きる可能性がある。そのため、外観変状調査によって、ひび割れが生じていた場合、追跡調査として亀裂の進展計測を連続モニタリングで行うことにしている。
　舗装を打った後にも、20tダンプ（載荷車）を橋軸方向に3列、橋軸直角方向に満載の4台の計12台を載荷し、初期値（接合部にかかる活荷重とたわみ・ひずみなどの変形、温度変化）を確認する静的および動的載荷試験を念入りに行っている。
　設計は大日本コンサルタント、元請は三井住友建設・日本ピーエス・横河ブリッジJV。PC鋼材は住友電工スチールワイヤ、極東鋼弦コンクリート。
（2018年3月18日掲載）