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新設床版の耐久性は既設ループと同等かつ、薄層・軽量化

NEXCO西日本 池島川橋床版取替であご付きスイングループ継手を採用

公開日:2023.02.21

 NEXCO西日本は、宮崎自動車道池島川橋(上り線)の大規模更新工事を進めている。塩害や輪荷重により経年劣化などで損傷が進んでいることから、床版の取替や鋼部材の塗替え等を進めているもの。施工の効率化、床版厚、死荷重の抑制を目的としてプレキャストPC床版の継手にあご付きスイングループ継手を採用している同現場を取材した。(井手迫瑞樹)


工事概要(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

床版防水工の設置は建設から36年後の2012年
 既往の詳細調査でもシリアスな損傷が見られたため床版取替を選択

 同橋は1976年に供用された橋長148m(全幅員10m、有効幅員9.25m)の鋼2+3径間連続非合成鈑桁橋(4主桁、主桁間隔は約2.8m)で、既設床版は厚さ約210mmのRC床版である。縦断勾配および横断勾配はA2→A1側に0.65%、G1→G4側に2.0~3.0%、斜角は75°~77°である。

 同橋の断面交通量は約7,600台と比較的少ないといえるが、大型車交通量は約30%と高く、輪荷重による疲労はそれなりにあるといえる。さらに、新設時には当然ながら床版防水工は設置しておらず、90年に表層40mmの切削オーバーレイを施したが、床版防水工を施工したのは実に36年たった2012年のことで、その際もグレードⅠであった。同時に舗装は基層をSMA40mm、表層を高機能Ⅰ型40mmに打ち直した。
 さらに6年後の2018年の調査においても、少なくない箇所で上面のわだちやポットホール、下面からはエフロレッセンスが生じていた。そのため床版上面を「部分的補修と言いつつ。実際はかなりの面積を補修した」(NEXCO西日本)。その際には床版上面の剥離や土砂化が生じていた。鉄筋露出および発錆や断面欠損も生じていたため、鉄筋近傍の塩化物イオン濃度を測定すると発錆限界値1.2㎏/m3を超える塩分が認められた。とりわけ以前に補修した床版上面の断面修復箇所の周りで浮きや剝離がみられたことから(マイクロクラックやマクロセル腐食の疑い)、床版取替を判断した。


土砂化

上面鉄筋の腐食(左、中)/下面のうき(右)

下面亀甲ひび割れ、エフロ

あご付きスイングループ継手 従来継手に比べて13mm薄層化
 ループ鉄筋を62°の斜め配置 あごはGFRPで補強

 本工事の床版取替に伴う最大の特徴はあご付きスイングループ継手(右写真)を採用している点にある。床版取替時におけるNEXCO各社の標準工法であるループ継手は、ループ筋の曲げ直径により床版厚が決まるため、床版厚が厚くなり、それに従って死荷重が増えてしまい、桁の補強などが必要になるケースも出てきてしまう。また、あご付き床版は型枠を不要とする施工上の長所があるがループ鉄筋の下にあご部を突出させるためこれも床版厚が増える方向に働いてしまう。
 あご付きスイングループ鉄筋は、ループ鉄筋を62°の斜め配置にすることで床版の性能を落とさず、鉄筋のカバーできる範囲を増やすことが出来る。あごの補強筋についてはD10を用い、さらにコンクリート内部にGFRPメッシュを挟むことで、厚さを抑制しつつ強度を確保(欠けないように)している。
こ うした方策を施すことで、床版厚を薄くできる。実際にループ鉄筋がD19の時、通常のループ継手の最小床版厚は233mmとなるが、スイングループ継手の場合は220mmまで薄くでき、死荷重の低減を図ることができた。また、ループ鉄筋は特殊な鉄筋加工を必要とせず、製作費を抑えることが可能だ。



PC床版断面図

 但し、施工時において、鉄筋が斜め配置されているため、擦過が生じやすいことを鑑みて、床版の架設時はスイングループ継手同士の損傷を防ぐために緩衝材を設置して施工する例もある(今回の工事では不設置)。
 同継手の性能について、富士ピー・エスでは実物大のあご付きおよびあご無し床版試験体を用いた静的載荷試験を実施し、比較した結果、同等の耐力が発揮できることを確認済みだ。

高欄を先に全面撤去した上で床版を両側から撤去
 約9日で全71枚の新設床版パネル設置を完了

 さて、同橋(上り線)の床版取替面積は1,480m2である。P2~P3の中間部を境目として、2台の220t級オールテレーンクレーン(ATC)を160tウエイトで用いて、既設桁の撤去、新設プレキャストPC床版の架設を行っていった。床版の撤去・架設に伴う重機は160tATCを用いているが、「能力的に余裕があるため、アウトリガーの張り出し位置を無理することなく、主桁の位置にリガーが載るように設置した」(元請の富士ピー・エス)。さらに施工時の主桁の仮補強などは必要なかったということだ。床版撤去前に地覆高欄部はワイヤーソーで全長を吊切撤去し、床版だけの状態にしておく。地覆高欄の1箇所あたりの切断スパン(高欄どうしの切断はカッターを使用)は4~5m、重量は7t~8t程度とした。これを50tラフタークレーンにて吊切りおよび撤去していった。


床版割付け平面図


撤去・架設概要図


壁高欄の切断・撤去状況

床版の切断および剥離状況

床版の撤去状況

 既設床版橋軸直角方向に半割り(1枚4~5m、6~7t)、橋軸直角方向に2mずつロードカッターで切断し、センターホールジャッキで剥がして吊り撤去し、床版上面の研掃や型枠設置を行う。同橋の上フランジ上面は「ほとんど傷みは生じておらず、一部は製作時の黒皮も残っているほど健全な状況」(NEXCO西日本)であった。既設クランプ筋を切断し、新設スタッドを溶植するのに邪魔な箇所のみ、念入りにディスクサンダーなどを用いて研掃したが、その他の上フランジ上面は、一部で生じていた有害な錆の撤去を行い3種ケレン程度を施した後、ジンクリッチペイントを施した。その後、床版と桁間を一体化する際の型枠兼ノロ止めには『トメルンダー』を採用した。『トメルンダー』を採用した理由は「床版架設時において素材の復元力が高く、床版架設時の高さを調整しやすい型枠兼ノロ止め材であり、潰れしろが元の高さの40~60%の範囲内で使用すれば理想的に使うことができるため」(同社)ということだ。


クランプ筋の切断(左)/上フランジ上面へのジンクリッチペイントの塗布(中、右)

フランジ面の研掃とシールスポンジの設置状況

床版の架設状況

床版の架設状況。あご付きが良くわかる/架設完了状況

PC床版間詰部図面

 その後に設置する新設プレキャストPC床版(床版厚220mm、橋軸直角方向全幅10m×橋軸方向1.95m、重量約14t)を設置していった。プレキャストPC床版は地覆立ち上がり部まで工場で一体製作するが、さらに壁高欄も工場で2次打ちし、現場での施工を効率化している。
 床版の撤去・架設は1日当たり1班4枚、合計8枚施工していき、約9日で全71枚の設置を完了した。

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