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福岡高速2,5号線の鋼床版・RC床版部

福北高速 改質グース、特殊樹脂防水基層を試験施工

公開日:2021.09.29

 福岡北九州高速道路公社(以下、福北高速)は、福岡高速道路の舗装の損傷が激しいRC床版および鋼床版の床版防水・舗装仕様をこれまでのアスファルト塗膜型防水層(RC床版)や天然グースアスファルト基層(以下、TLA)から改質グースアスファルト基層(以下、改質グース)および樹脂防水一体型アスファルト舗装(以下、樹脂防水一体舗装)に変更する実橋での試験施工を行っている。その現場を取材した。(井手迫瑞樹)

鋼床版の損傷状況

RC床版の損傷状況

事前にIPH工法で下面から、PD工法で上面から補修
 AEセンシングを用いて弾性波計測密度の改善を確認

 施工する現場は福岡高速2号線と5号線のいずれも月隈JCT付近の高架橋だ。2号線のRC床版部は1999年の供用以来、22年経過している。建設時に施工を急ぐなど無理をした箇所の床版上面は砂利化し、下面には顕著なひび割れが生じており、降雨後には床版下面に滲水が確認されている。それら低品質なRC床版に対して、福北高速では床版上面の補修に断面修復(PD工法)、床版下面の補修にひび割れ注入(IPH工法)を採用している。

補修前にはSingle i 工法で調査/対象橋梁

試験施工概要/施工状況(IPH工法)

 IPH工法の補修効果は、深さ方向評価、面的評価、定量評価の3点で確認を行っている。深さ方向の評価はコア抜きによる目視確認で充填を確認、面的評価は東芝・京都大学の保有する床版内部のひび割れ検出技術であるAE(アコースティックエミッション)センシングを用い補修の前後に計測し弾性波計測密度の改善を確認している。一般的なAEと言えばひび割れなどから発生する弾性波を計測するものであるが、本技術は舗装上面を走行する一般車両から発生される弾性波を計測するというものである。さらに、福北高速では補修効果の確認に加え、内在損傷の有する床版のスクリーニングとしても適用できないか東芝と共に検討を行っているという。定量評価は補修の前後に活荷重たわみ計測を実施し、たわみ量の改善を確認している。
 今後は、低品質なRC床版に対し、恒久足場を設置後に補修を行い、床版の使用限界を判断するため、活荷重たわみ計測による状態監視を継続していくとのこと。

AEセンシングの活用

 5号線の鋼床版部は2003年の供用以来18年しか経っていないが、既設舗装のTLAは耐流動性が低く、曲線部の横断勾配が大きい(同地で最大9%に達し合成勾配換算では10%以上)箇所で流動化が顕著に生じている。

改質グース 鋼・RCの両床版部を施工
 製造温度を低くし、クッキング時間を短縮、ブリスタリングを抑制

 さて、まず改質グースである。改質グースはRC床版と鋼床版の両方において施工した。RC床版部は1510㎡について夜間車線規制しながら、鋼床版部は2箇所合わせて3820㎡について片側2車線を1車線ずつ終日固定規制で施工した。

 改質グースは、TLAに替わりポリマー改質材を用いている。ポリマー改質材は国内生産であることから、安定的に入手可能だ。不透水であり、さらに耐流動性(DS)も1,000~1,500回/mmと高く、TLAの3~5倍に達している。製造温度はTLA入混合物が240℃であるのに比べて、材質および製造方法を工夫することで190℃程度に低くできるため、混合物のクッキング(製造)時間を短縮でき、施工時においても蒸発水によるブリスタリングが起きにくく、さらには基層の養生時間を30分~1時間とTLAの半分以下に短縮できると想定している。一方、舗設温度が急激に下がる冬季を想定して、混合物温度を現在の設定温度である190℃から220℃ほどに高くすることで施工温度領域を拡げることも試みている。

 RC床版部の施工は、交通量が多いことから終日固定規制でなく夜間の時間帯に限定した車線規制下での施工を行わなくてはならない。そのため、既設舗装の撤去~新設舗装への復旧までの一連の工程を12時間程度で施工する必要がある。その意味でも防水工の工程および養生時間を省略できる同工法は、既設防水工に比較して優位性が高い。ブラスト投射量は、脆弱部の除去を主目的としているため、100kg/㎡とした。従来(150kg/㎡)に比べ3分の2に抑制でき、ブラストの施工速度は倍になっており、これも時間が限られる夜間規制の現場においては、ありがたいものとなっている。

RC床版部施工状況① 着工前/路肩コンクリート撤去前状況/プライマー塗布状況/PDボンド塗布状況

RC床版部施工状況② PDモルタル施工状況/路肩復旧状況/路面切削状況

RC床版部施工状況③ ショットブラスト施工状況/残ったアスファルトの除去状況

RC床版部施工状況④ グースアスファルト敷均し状況/アスファルトのダレ防止/グースアスファルトの施工完了状況

RC床版部施工状況⑤ 表層敷均し/初期転圧/二次転圧/施工完了状況

 鋼床版部の施工は、IH式舗装撤去機と切削機、バックホウを用いて舗装を撤去する。IHを使ったのは付近が人口集中地区であり、施工時の発生音を極小化する必要があったため。次いで素地調整としてショットブラスト(投射密度は250㎏/㎡)を用いる。端部は瀝青系のシール式成型目地材を断面に貼り付けて熱溶着させて防水する。その後、プライマーを塗布し、専用のグースクッカと、グースフィニッシャを用いて基層に改質グース(35mm)を舗設し、タックコート(速乾性の付着防止型の改質乳剤)を散布し、表層(高機能舗装Ⅱ型)を40mm舗設して完了となる。

鋼床版部の施工区間と鋼床版舗装構造概要図

鋼床版部の施工状況① 着工前状況/カッター施工状況/IHを用いた舗装撤去状況/既設舗装撤去完了状況

鋼床版部の施工状況② 鋼床版のショットブラスト施工状況/同施工完了状況/プライマー塗布状況/同完了状況

鋼床版部の施工状況③ 止水テープ設置状況/敷き均し状況/ダレ防止状況/グースアスファルト基層完了状況

鋼床版部の施工状況④ 表層の初期転圧状況/敷き均し状況/二次転圧状況

 固定規制内での施工であり、1サイクルあたり900㎡程度を施工している。1サイクルにかかる日数はIH~舗装切削までが3日、ショットブラストによる研掃~防水(カチコート)が2日、基層が2日、表層の施工が1日、区画線などで1日程度をそれぞれ要した。

横断勾配9% 製造温度を下限値に落として流動性を低くしたうえで施工
 2tタンデムローラーで1箇所にエアを集めて抜く

 とりわけ困難な施工条件だったのが月隈JCT部のV1-22~V1-28間(橋長228m)である。横断勾配は最大9%に達し、曲線半径は284mと急で、合成勾配は10%を超える。そのため改質グース施工の際は、ダレが生じる可能性がある。そのため、舗設時の合材温度を180℃ぐらいの下限値に落とし、若干固めにして流動性を低くしたうえで施工した。施工の際は、勾配の上部分の合材を心持ち厚めに配置するとともに、下から上に押し上げるように転圧することで、勾配の下部へのダレや舗装圧の不均一を防ぐよう心掛けている。

横断勾配は最大9%に達し、曲線半径は284mと急で、合成勾配は10%を超える箇所も

 また、これはRC床版部も含めてであるが、基層の転圧の際は、床版面との接着性強化とエアを確実に抜くため、2tタンデムローラーを使用し、(ローラーの)進行方向にエアを押し出し最終的には1箇所にエアを集めて針を刺して一気に抜いている。これにより接着力は3~4割程度増加している。


勾配に配慮した施工

最終的には1箇所にエアを集めて針を刺して一気に抜く

 工法を開発した日本道路は「鋼床版、RC床版部の基層とも、現在の福岡高速の交通量を念頭に置けば、30~40年の耐久性を期待できるのではないか」と語っていた。

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