道路構造物ジャーナルNET

斜角が小さい端部は4枚のプレキャストPC床版を縦割りで配置

NEXCO西日本 中国道志路原川橋・壬生橋で床版取替

公開日:2021.08.24

 NEXCO西日本中国支社では、供用から約40年経過した中国自動車道の千代田IC~高田IC間の志路原川渡河部に架かる志路原川橋と、隣接する壬生橋の大規模リニューアル工事を進めている。工事は志路原川橋の上下線および壬生橋の下り線の鋼鈑桁RC床版で、両橋のRCホロー桁及び壬生橋の上り線鋼鈑桁部RC床版、PCT桁は、今回断面修復などの補修を実施する。志路原川橋は橋長191mのRC3径間連続中空床版橋+鋼3径間連続鈑桁橋+RC単純中空床版橋。壬生橋は橋長219.5mのRC4+3径間連続RC中空床版橋+鋼2径間連続鈑桁橋+PC単純T桁橋で、RC部の支間長は14.15~16.75m、PCT桁部が19.22m、鋼桁部が41~43mとなっている。幅員は両橋とも9.7m(総幅員、有効幅員は8.5m)である。1日交通量はコロナの影響を受けている2020年度が約10,600台で、まだ影響のなかった2019年度が約13,100台であるが、大型車混入率は同約3,200台、3,400台と3,000台を超えている。既設床版下面はコンクリート剥落、既設鉄筋の断面減少、漏水やそれに伴う遊離石灰が確認されている。志路原川橋の鋼鈑桁RC床版部では、既設壁高欄を撤去した後には、床版上筋に沿った水平ひび割れが確認されている。塩化物イオン濃度も鉄筋近傍地で1.2㎏/m3を超えた箇所があったことから、抜本的な対策として、既設床版を床版厚220mmのPCaPC床版に取替えるものだ。また斜角がきついことから両端部に関しては4枚のPCaPC床版を縦配置し、PCケーブルで2回に分けて扇状に横締め緊張する手法を採用している。従来の排水桝の課題を踏まえて改良したスーパー排水桝の適用など、元請の川田建設が独自の工夫を施している現場を取材した。(井手迫瑞樹)

志路原川橋上り線一般図 斜角の小ささが分かる(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)

壬生橋P7~P9下り線全体一般図

志路原川橋鈑桁部RC床版 塩化物イオン濃度 鉄筋近傍で最大で4.7kg/m3に達する
 中空床版部 全体的に損傷、しかし土砂化までは至らず
 

 両橋は、床版上面の部分的な補修は確認しているが、全般的な床版増厚は施していない橋梁である。床版防水は壬生橋で実施していたが、下り線は損傷が著しく、取替えることにした。


床版の損傷状況  志路原川橋の鋼鈑桁部はRC床版の上筋の箇所に水平クラックが入っていた(右写真)

 全体的な傾向として既設床版の断面修復部は再劣化していた箇所も見受けられた。舗装もそうした個所でポットホールが再発生していた。ポットホール発生箇所は、損傷した舗装部分を剥がし、内部の損傷したコンクリートを斫り取ってジェットコンクリートを打設して補修し、再舗装していた。しかし結局、再舗装した外縁部から水が浸入して、ポットホールが再発生し、直下のコンクリートも再劣化したのではないかと考えられる。
一方、中空床版の損傷傾向であるが、ボイド直上部が多いとは一概には言えず、全体的に損傷している。但し、一部はボイドが浮いている箇所もあったが、土砂化までは至っていなかった。
 志路原川橋の鋼鈑桁部はRC床版の上筋の箇所に水平クラックが入っていた。水が浸入して、鉄筋が膨張し、水平クラックが起きていたと思われる。床版と地覆の境目にも水平クラックが生じており、土砂化もしていた。床版内部に細かいクラックが入り、そうした個所から水や空気が浸透し、荷重でたたかれて、さらにクラックが増えるということを繰り返したのではないかと考えられる。塩化物イオン濃度も鉄筋近傍で1.2㎏/m3を超過し、最大で4.7kg/m3に達していた。

端部は軸方向版を採用 版厚は270mm
 台形形状 横方向に4分割して配置

PCaPC床版の製作・架設
 今回、床版を取替えるのは、志路原川橋(上下線)P3~P6間(延長125.2m)の1057.6㎡(上下線合計2115㎡)と、壬生橋(下り線)P7~P9間(85.06m)の723㎡、合計2,838㎡だ。

 今回の施工では、6月1日から10月31日までの5カ月間、下り線を対面通行規制にして上り線を施工した。

 志路原川橋上り線の既設床版の撤去は142枚に分割しておこない、PCaPC床版の架設は上下線とも標準版を47枚、異形版を6枚(P4およびP5上に3枚ずつ)、端部は軸方向版を8枚(P3、P6のコンクリート桁接続部)全部で61枚配置する(上図、下り線は撤去・架設とも設計中)。端部に軸方向版を採用しているのは斜角が小さいため(後述)。床版厚は標準版が220mmで、パネルサイズは1720(間詰め部の鉄筋除く)×9700mmとした。また軸方向版は版厚を270mmとした。台形形状になることから、トラックの荷重制限をクリアするため、長い辺の幅を小さくして、横方向に4分割し、軸方向版どうしは横締めで一体化する構造にしている。一方、軸方向版と通常のPCaPC床版との接続部はKK合理化継手を配置している。

軸方向版と通常のPCaPC床版との接続部はKK合理化継手を配置(井手迫瑞樹撮影)

2台の220tクレーンで観音開き型に施工
 2週間程度で標準版および異形版の架設が完了

床版の撤去・架設
 今回の志路原川橋上り線の床版取替の撤去・架設は2台の220tオールテーレンクレーンを用いてP4-P5中間部から両側に施工した。いわゆる観音開き型にしたのは工期短縮を図るためだ。

2台の220tオールテーレンクレーンを用いてP4-P5中間部から両側に施工

 床版取替の順序としては、迂回路を構築し6月3日に無事対面交通規制への切替えを完了した。施工はまず、路面切削を行う。既設床版に防水層を設置している壬生橋については、その剥ぎ取りも行う予定である。路面切削が終わったら、路肩側は壁高欄を先行して切断し、搬出する計画を立てた。壁高欄は鉛直部をワイヤーソーで切断し、橋軸方向をフラットソーで切断する。部材の切断長は10tトラックで運搬可能な重量などを考慮して最長で8m程度とした。

対面規制下での施工(井手迫瑞樹撮影)

 床版の撤去・架設は、クレーン1台当たり1日4枚(新設床版換算)施工した。既設床版の撤去はおおむね直角で切断し、端部だけ斜角に応じた切断として撤去した。

舗装切削および床版切断

 既設の床版はフラットソーとコアボーリングを使用して削孔・切断(長さ2m×幅5m)して、剥離装置で引き剥がして撤去した。基本工程は剥離撤去、ケレン、ジンク塗布までを午前中に行い、午後からPCaPC床版の架設を行った。PCaPC床版架設作業を3~4日間続けた後、PCaPC床版間の間詰めコンクリート(幅280mm)を大型クレーンを使用し打設した。そしてまた翌日から撤去・架設を繰り返し、2週間程度で標準版および異形版の架設が完了した(端部と隣接する版を除く)。間詰めコンクリートは高炉スラグ微粉末入りコンクリートを採用し、強度はPCaPC床版と同じ50N/㎜2で膨張剤を使用している。

既設壁高欄の撤去、床版の剥離、剥離後のケレン作業

プレキャストPC床版の架設状況

プレキャストPC床版の継手はKK合理化継手を採用、間詰めコンクリート施工状況、


壁高欄打設前の地覆部(井手迫瑞樹撮影)

軸方向版 2回に分けて横締め緊張 横締めケーブルは放射配置
 地覆・高欄にはシラン系浸透性吸水防止材「アクアシール1400」を塗布する予定

軸方向版および中子シースの採用
 端部の台形部分の軸方向版は、各主桁1枚配置の4分割とした。各版には工場製作時にPC鋼材により橋軸方向にプレストレスが導入されており、所定の位置に架設後、橋軸直角方向に配置した横締めPC鋼材で一体化する構造である。斜角が小さく(56°)、長辺側で決定された横締めPC鋼材本数を、短辺側に全て定着することは困難であったため、以下に示すとおり2回に分けて横締め緊張する方式とした。まず、橋軸方向に長いE1~E3版(P6側:E2~E3)を架設し、各版の目地部(10mm)に無収縮モルタルを注入し、1次ケーブルを緊張する。つぎに、E4版(P6側:E1)を架設し、E3~E4間に間詰めコンクリートを打設し、2次ケーブルを緊張して軸方向版を一体化する。

軸方向版の配置図


軸方向版設置前の端部/軸方向版(1枚目)の設置状況(井手迫瑞樹撮影)

シースを通す孔/中子シース(井手迫瑞樹撮影)

孔に中子シースを取り付けていく(井手迫瑞樹撮影)

2枚目の軸方向版の架設①(井手迫瑞樹撮影)

 E1-E3の床版間はケーブルを通すためシースで接続する必要がある。軸方向版架設時は上下左右の調整が必要である上に横締めケーブルは放射配置であり、接続シースには大きな変位がかかる。そのため、ステンレス製バンドで補強した中子シースを採用し、変位に対する補強を行った。またこの補強を前提として架設の方法も、単に全体の仕口を合わせるのではなく、挿入部の斜角が小さい端部から斜角が大きい方向に向けてファスナーを締めるように施工を行った(下写真)。

2枚目の軸方向版の架設②(井手迫瑞樹撮影)

2枚目の軸方向版の架設③(井手迫瑞樹撮影)

 斜角が小さく床版支間方向とプレストレス作用方向が大きく異なり、プレストレスの導入効率が下がるため、適切に考慮し、PC鋼材本数を決定した。検討の結果、PC鋼材は1S28.6mmを29本(1次14本、2次15本)配置することとした。使用するPC鋼材はアフターボンドのプレグラウトケーブル(神鋼鋼線工業製)とし、維持管理性にも配慮した。
軸方向版を据えた後に、接続部の標準版を落とし込んで間詰めコンクリートを打設して完了した。標準版を先においておくと標準版と軸方向版の間詰め鉄筋どうしが干渉し、架設に影響があると考えたためだ。
 軸方向版の施工で実際にかかった日数は、軸方向版は3枚架設で1日、翌日に目地のモルタルを打って、緊張する強度が発現するまでの養生で1~2日、一次ケーブル緊張で1日、4枚目の架設で1日、間詰めとなる鉄筋や型枠施工で1日、間詰めコンクリート打設で1日、コンクリートの強度が発現するまでの養生に3~4日、2次緊張で1日の全部で10日間となっている。
落とし込む標準版の架設は、軸方向版を架設する同日に行う。2次緊張が終わった後に標準版と軸方向版の間詰を打設した。

3枚目軸方向版の架設①(井手迫瑞樹撮影)

3枚目軸方向版の架設②(井手迫瑞樹撮影)

3枚目軸方向版の架設③(井手迫瑞樹撮影)

軸方向版の3枚目までの架設が完了した状況(井手迫瑞樹)

桁間で仮支持できない軸方向版は複雑な支保ではなく、サポート材でバランスをとって支持した(井手迫瑞樹撮影)

3、4枚目間の間詰め部鉄筋/上端筋と下端筋の間には一次緊張の定着部と二次緊張のシースが交互に配置されている
(井手迫瑞樹撮影)

軸方向版1枚目の定着部(井手迫瑞樹撮影)/3枚目まで架設した段階で一度緊張する(一次緊張状況)


3、4枚目の間の間詰めコンクリート打設状況

 当初、桁端部には通常斜角調整に採用される異形版を用いることも検討したが斜角が小さく異形版の枚数が増加することが考えられた。そのため軸方向版を用いることにし、異形版を採用した時より標準版の配置範囲を大幅に増やすことができ、プレキャスト部材の生産性を向上することができた。

軸方向版架設完了状況

間詰めコンクリートを打設

落とし込み部のプレキャストPC床版を最後に施工し、全体の架設を完了させた

 PCaPC床版の打設完了後に、伸縮装置を施工する。今回はRCホロー桁とのかけ違いになるため、その部分のフィンガージョイントを撤去して、新設の伸縮装置をセットするとともに壁高欄も並行して現場打ちした。

 壁高欄の打設は、最大で1日100m打設する(P3~P6の全長を分割施工する)。打設前までに鉄筋・型枠は施工しておく。今回は路肩側が壁高欄、中分側が地覆構造ということで、鉄筋・型枠の施工にかかる時間は1か月程度となる。地覆・壁高欄の鉄筋はエポキシ樹脂塗装鉄筋、高性能床版防水はダイフレックスのレジテクトGS-M(一層仕上げ)を採用する予定だ。床版防水工は床版取替だけでなく、床版補修エリア(後述)を含むA1-A2全ての範囲を施工するため、1日での施工は難しい。P3とP6に伸縮装置があるため、切れ目を作ることが可能であり、慎重に施工の手順は探っていく。但しジョイント間は1日で施工する。

壁高欄の現場打ち施工状況

 地覆・高欄には耐久性向上を図るため、シラン系浸透性吸水防止材「アクアシール1400」を塗布する予定だ。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム