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阪神高速道路の維持管理報文連載②

阪神高速道路の構造物の劣化と維持管理の課題を考える(2)

阪神高速道路株式会社
大阪管理局 
保全部 保全設計課 課長 

小林 寛

公開日:2017.03.23

はじめに

 前回コンクリート構造物について代表的な損傷事例を紹介して劣化の現状を示すとともに、コンクリート構造物関係の大規模修繕・更新事業についても紹介したところであるが、今回は鋼構造物、付属構造物の損傷について、引き続き事例を紹介していきたい。

鋼床版疲労亀裂

 阪神高速道路の鋼床版橋は1426径間にものぼり、延べ面積で比較すると国内での鋼床版管理資産数はトップクラスである。鋼床版のリブ形式別内訳はバルブリブ741径間、Uリブ685径間となっており、そのうちバルブリブでは約1割、Uリブでは約3割の径間で溶接部に疲労による亀裂が確認されている。
 鋼床版橋の殆どが供用20年を超えており、また重交通路線も多いことから既に生じた亀裂の補修と未然の予防は喫緊の課題である。
Uリブ鋼床版
 図1にUリブ鋼床版に発生する亀裂のパターンを、図2に実際に見つかった亀裂の例を示す。

 
図1 Uリブ鋼床版の発生亀裂パターン
 
図2 デッキプレートとUリブの溶接部に生じた亀裂の例

 点検等により発見された亀裂は、応急措置として亀裂先端へのストップホール施工または亀裂の削り込みを行い、亀裂伸展の防止、亀裂の除去を行った後、後日亀裂パターン毎に断面復旧や作用応力低減、疲労強度向上を目的とした補修方法を適切に選択して行っている。
 なかでも、お客様へのリスクとなり得るデッキプレート貫通亀裂については、速やかにあて板による断面復旧を行うようにしており、現在、補修用のあて板を標準化し、加工済みの状態でストックしておくことで応急措置から補修までのリードタイムを短縮する試みを実施中である。
 昨年度より大規模修繕事業として、Uリブ鋼床版において疲労亀裂が見つかった径間を含む橋梁を対象にSFRC舗装を順次実施することとしており、これにより疲労損傷発生部および未発生部の疲労耐久性確保を図っていくものである(図3)。SFRC舗装の施工には長時間の交通規制を伴うため、お客様への影響を最小限とするため、交通規制の集約やフレッシュアップ工事の活用等、地域の皆様のご理解を得つつ戦略的に進めていくものである。


図3 SFRCの施工(左:接着剤塗布、右:仕上げ)

 また、交通規制を伴わない、鋼床版下面からの疲労対策工法も平行して開発している。こちらは交通規制困難箇所に対する予防保全への適用を見据えているが、施工性やコストに改善の余地が残っており、検討を継続中である。
バルブリブ鋼床版
 バルブリブ鋼床版については、従前から図4に示すように亀裂発生箇所は横リブ交差部に限定しており、図5に示すようにその部分の亀裂補修工法も確立していることから、大規模修繕工事として優先順位を付けながら鋭意実施中である。


図4 バルブリブ鋼床版の発生亀裂パターン
 
図5 バルブリブ鋼床版の亀裂補修例(アングル補強)

鋼材の腐食

 疲労損傷と並んで鋼構造物の損傷で最も多く見られたものは鋼材の腐食であり、多くの場合意図せぬ漏水が原因となっている。ここでは漏水による鋼製高欄、主桁、鋼製橋脚の腐食事例を紹介する。

鋼製高欄

 阪神高速道路では、軽量化やスペース等施工性の要求が厳しい箇所において、鋼製高欄が一部採用されている。この高欄は中空構造であり、建設当時は水の浸入に対して十分な配慮がされていたとは言い難い。そのためボルト孔や車両衝突により生じた隙間から浸入した水が長い時間を経て滞水し、内面より腐食が進行したものである(図6)。

 
図6 鋼製高欄の腐食

 これらの鋼製高欄については、腐食の著しいものから取り替えるものとし、取替に際しては当面地覆部をコンクリートとして壁部を鋼製とした改良型鋼製高欄を採用するものとする。さらに、引き続きUFC等を用いた取替用のコンクリート系軽量高欄を開発していきたいと考える。

主桁

 次に主桁の腐食事例を紹介する。最も多く見られるのが桁端部の腐食である(図6)。これは、後述する伸縮継手の止水機構の破損による漏水が原因となっており、補修に当たってはまず漏水の発生源である伸縮継手の補修あるいは除去(ジョイントレス化)が必須となる。
 漏水発生源の対策終了後、断面減少が認められなければ再塗装、断面減少が認められれば断面修復+再塗装となるが、再塗装に先立つ素地調整の際に鉛の飛散を防ぐため、湿潤ブラストの施工や塗膜剥離剤の使用が求められるが、コストや施工効率が課題となっている。


図7 鋼桁端部の腐食

 桁端部に次いで典型的なのが、主に床版打継部からの漏水に起因する主桁、特に下フランジの腐食である(図8)。本来は床版により雨水が遮断される個所であることから水抜き等十分に考慮されていない場合が多く、下フランジ添接部や縦補剛材交差部に滞水し、腐食に至るものである。こちらも補修に先立ち床版からの漏水を止めることが肝要であるため、フレッシュアップ工事等の機会に床版防水施工・舗装打替を計画的に行っていくものである。

 
図8 鋼桁下フランジの腐食

 阪神高速では昭和60年代から走行性改善、耐震性向上、沿道の皆様への騒音・振動の低減を目的としてジョイントレス化を推進しており、特に鋼単純鈑桁に関しては主桁の連結化を推進してきた。
 この主桁連結構造は、舗装は連続させるもののRC床版は一体化させず目地を挟むこととしているため、床版上面の防水が不完全な個所においては主桁連結部に漏水を生じさせることとなり、添接部の腐食を生じさせている(図9)。


図9 主桁連結部の腐食

 先ほどと同様に、こちらについても補修に先立ち床版からの漏水を止めることが肝要であるため、フレッシュアップ工事等の機会に床版防水施工・舗装打替を計画的に行っていくものである。

鋼製橋脚

 先に述べたように主桁の腐食事例のうち最も多く見られるのが桁端部の腐食であるが、鋼製橋脚上のかけ違い部であれば、鋼製橋脚上面も同様に腐食が見られる(図9)。このような場合、鋼製橋脚内部にも水が浸入しているケースも多くあり、注意を要する。
これについても桁端部の場合と同様、補修に当たってはまず漏水の発生源である伸縮継手の補修あるいは除去(ジョイントレス化)が必須となる。


図10 鋼製橋脚上面の腐食

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