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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑫

コンクリート構造物の品質確保の手引き(トンネル覆工コンクリート編)の制定-産官学の協働-

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.10.16

4. 品質確保の手引きの作成のプロセス

 一般的なコンクリート構造物を対象とした、「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」の制定の過程は、本連載の第9回で述べた。そこに記載したように、一般的な構造物を対象とした手引きの制定を決断したのは佐藤和徳氏であり、2015年8月下旬のことであった。その際、同様に品質確保の実践が試行工事で進んでいたトンネル覆工コンクリートについても、別途、手引きの制定が必要と判断し、作成に着手した。原案の作成を担当したのは、前述の覆工コンクリート品質向上委員会であった。
 一般的な構造物を対象とした手引きの方が先行して作成されていたため、その章構成や内容を参考に、最初の目次構成等が示されたのが、2015年10月24日(土)に南三陸国道事務所においてであった。その後、12月17日(木)に南三陸国道事務所、2016年2月3日(水)に南三陸国道事務所、3月1日(火)に仙台にて、覆工コンクリート品質向上委員会の開催と合わせる形で、トンネル覆工コンクリート編の品質確保の手引きの内容の議論が重ねられた。筆者はこれらすべての会議に出席し、350委員会の学のメンバーも適宜参加する形で、産官学の協働で実践的な手引きが作成されていくこととなった。特に、全体のとりまとめの陣頭指揮を執ったのが、前述の事業促進PPPの加藤ひろし氏であった。トンネルの施工方法を熟知する施工者や加藤氏との議論からは、筆者も数多くのことを学ばせていただいた。会議以外にも、数多くのメールのやり取りが重ねられたことは言うまでもない。2016年3月1日の仙台での少人数の会議にて、手引きはほぼ最終稿に至り、その後、微修正を経て、2016年5月に東北地方整備局から通知されることとなった。

5. トンネル覆工コンクリート版の品質確保の手引きの骨子

 東北地方整備局が通知した「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(トンネル覆工コンクリート編)」は、過去に建設された管内のNATMトンネルの劣化状況の分析結果に基づき、東北地方の環境条件や、凍結抑制剤を散布する状況を勘案して、覆工コンクリートの高耐久化を目指すためのものである。覆工コンクリートが十分な耐久性を発揮するためには、ひび割れ抑制設計やコンクリートの配合設計も重要であるが、この手引きではこれらは対象とせず、覆工コンクリートの品質確保を図る試行工事の施工段階に適用することを想定したものである。
 以下が、この手引きの目次構成である。

1.東北地方のトンネル覆工コンクリートの課題
1.1 東北地方のトンネルの不具合発生状況
1.2 トンネル覆工コンクリートの不具合の発生原因
2. 東北地方のトンネル覆工コンクリートの目指すべき方向
2.1 トンネル覆工コンクリートの課題
2.2 トンネル覆工コンクリートの目指すべき方向
3. 適用の範囲
4. トンネル覆工コンクリートの品質確保
4.1 施工の基本事項の遵守
4.2 養生による緻密性の向上
5. 記録と保存

 1章でNATMトンネルの点検データの分析結果も活用して、覆工コンクリートの劣化の状況を具体的に説明している。2章では、1章の内容を受けて、東北地方のトンネル覆工コンクリートの目指すべき方向として、1) 施工中に生じる不具合及び施工に起因するひび割れの抑制、2) 将来のうき・はく離・はく落につながる施工目地部の不具合の抑制、3) 凍結抑制剤の影響を受ける可能性のある坑口部分において、凍害防止に必要な空気量を確保した上で、緻密性の高いコンクリートを目指すこと、4) 側壁の横断方向のひび割れの抑制、が述べられている。
 3章では、この手引きの適用範囲を説明しており、以下の条文が記載されている。「この手引きは、トンネル覆工コンクリートを対象に「施工状況把握チェックシート」と「表層目視評価シート」を活用して、覆工コンクリートの品質確保を図る試行工事の施工段階に適用する。ただし、ひび割れ抑制対策や、配合計画などについてはこの手引きの適用範囲外とする。」
 4章が、試行工事の施工段階で実施される品質確保の具体的な手段を説明する箇所である。4.1の施工の基本事項の遵守では、以下の3つが条文である。
1) 施工の基本事項を遵守し、均質かつ密実で一体性のあるトンネル覆工コンクリートとなるように「施工状況把握チェックシート」を活用しなければならない。
2) セントル脱型後、「表層目視評価シート」を活用し、コンクリート表層の品質を評価し、必要に応じて施工の改善事項をまとめて、次の施工に反映するように努めなければならない。
3) 第三者被害防止の観点から、施工目地部の不具合の防止対策を適切に行わなければならない。

 覆工コンクリートにおいて、施工時に生じる不具合を排除し、施工目地部の不具合の防止につながる施工の基本事項がチェックシートの形でまとめられている。また、表層目視評価の項目と施工状況把握チェックシートの項目の関連を示す表も作成されており、かなり踏み込んだ実践的な内容となっている。これらは、試行工事等で手引きが活用されていく中で得られた知見に基づいて、適宜見直しを行っていく必要があると考えている。
 巻末資料には、施工目地部の不具合の防止対策についても例が示されている。施工目地部のうき・はく離・はく落は既設のNATMトンネルの維持管理で最も手のかかる劣化形態であり、施工目地部の不具合の防止対策について今後も様々な手法が考案され、実構造物で検証されていくことを期待する。

 4.2の養生による緻密性の向上では、以下の2つが条文である。
1) 覆工コンクリートの十分な耐久性の確保のために必要なコンクリートの緻密性を得るために、適切な養生を行うことが望ましい。
2) 養生の効果を把握するため、緻密性を適切に評価できる「非破壊試験」を行い施工記録に残すことが望ましい。

 凍結抑制剤の影響を受ける可能性のある坑口部分において十分な耐久性を確保するために必要なコンクリートの緻密性は、研究においても明らかにはされていないため、4.2は努力目標の位置付けである。坑口付近(坑口から20m程度)では、暫定的に型枠を7日間存置することを推奨していることと、覆工コンクリートの配合は一般構造物と大きく変わらないことなどから、表層透気試験や表面吸水試験の非破壊試験による緻密性の評価方法と評価基準は、一般構造物の手引きと同じ方法を採用した。

6. おわりに

 この手引きは、産官学の協働で作成された、実践的なノウハウも多く詰め込まれた先駆的な内容であると思うが、復興道路・復興支援道路の事業に間に合うように急いで作成された感も否めない。試行工事で活用される過程で得られる知見や意見をもとに、適宜、改訂を重ねていく必要もあると考えている。

参考文献
1) 伊藤忠彦、細田 暁、林 和彦、西尾 隆、八巻大介:覆工コンクリート品質向上の取り組みと表層品質の評価、 トンネル工学報告集  24巻 I-4号、pp.1-9、 2014.12

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