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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑫

コンクリート構造物の品質確保の手引き(トンネル覆工コンクリート編)の制定-産官学の協働-

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 
細田 暁 氏

1. はじめに

 本稿で述べる「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(トンネル覆工コンクリート編)」は、東北地方整備局のHPからダウンロードが可能である(http://www.thr.mlit.go.jp/road/sesaku/tebiki/tonnelfukoukonkurito.pdf)。ご興味のある方はぜひダウンロードしてご活用いただきたい。


2. 品質確保の手引きが必要となった経緯 

 復興道路、復興支援道路の数多くのトンネル工事で覆工コンクリートの品質確保の試行工事が実践されることとなった。その端緒となったのは、東日本大震災後に復興道路において最初に貫通したトンネルである三陸国道事務所管内の田老第六トンネルであった。この現場の施工者の西松建設の監理技術者は、私が大学に赴任した頃に学生であった八巻大介氏であり(写真-1)、彼と現場で議論を重ねながら、トンネル覆工コンクリート用の目視評価法を開発した。覆工コンクリートにおける養生の効果は、技術研究所の伊藤忠彦氏の活躍により、SWATで検証することができた1)。2013年11月ごろからは、筆者の指導する修士2年の学生が、自身の修士論文の研究テーマとして、田老第六トンネルに長期間滞在し、試験体の作製や各種の計測を行った。実際の現場の課題を題材に、産学の共同研究を行うことができ、関係者は大いに勉強させていただいた。



写真-1 田老第六トンネルにて監理技術者の八巻大介氏(左)と(2014年1月31日)

 2013年10月から、筆者は1年間の留学でフランスに滞在した。しかし、その1年間の間、合計5回の日本への出張を行うこととなり、毎回の出張では、東北や山口県など筆者の研究フィールドに滞在して研究を行った。目視評価法の覆工コンクリートの品質向上に対する効果を筆者が田老第六トンネルで最初に確認したのは、2014年1月31日のことである(写真-1)。2014年4月初旬には、東北地方整備局の道路工事課長から南三陸国道事務所長に就いたばかりの佐藤和徳氏の紹介で、復興支援道路の盛岡-宮古間の新川目トンネルを訪れた。佐藤所長から「とてもきれいな覆工コンクリートだからぜひ先生に見てもらいたい」との紹介であった。施工を担当する安藤ハザマの佐々木照夫所長の人柄、技術に対する熱く真摯な姿勢を直観し、「次回の日本出張の際にぜひ新川目トンネルの品質調査をさせてください。」とお願いし、快諾された。2014年6月2~3日に、佐々木所長らと議論を重ねながら行った実構造物のコンクリートの品質調査は、非常に刺激的であった(写真-2)。翌日の6月4日には、南三陸国道事務所にて、品質確保の勉強会が開催された。当時は仮設であった事務所の大会議室に参加希望者はすべて入ることができなかったそうであるが、80名を超す聴衆は、事務所管内の工事に携わる現場代理人や監理技術者がほとんどであった。勉強会の冒頭の30分では佐藤所長が新設構造物の品質確保の必要性を説き(写真-3)、その後1時間半で筆者が目視評価法と施工状況把握チェックシートを活用した品質確保の実践について講義を行った(写真-4)。当然、この講義においては、田老第六トンネルや新川目トンネル等で筆者が学んだ考え方や知識を提供した。座学の勉強会の後は、付近の構造物の橋台を活用して、目視評価法の実技講習も行った(写真-5)。6月5日には、南三陸国道事務所管内の構造物の品質調査を行い、6月6日には、三陸国道事務所にて臨時の品質確保の1時間の講習会の講師を筆者が務めた。このように、実構造物での品質確保の実践と、国道事務所での講習会が相互作用を起こしながら重ねられ、トンネル覆工コンクリートにおいても品質確保が展開される土壌ができていくこととなった。

 

写真-2 新川目トンネルの天端におけるSWATの計測(2014年6月2日)

 

写真-3 南三陸国道事務所での佐藤和徳所長(当時)の講演(2014年6月4日)

 

写真-4 南三陸国道事務所での品質確保に関する講演(2014年6月4日)

 

写真-5 南三陸国道事務所での勉強会における目視評価法の実技講習(2014年6月4日)


 筆者が2014年9月末に帰国した後、土木学会の「コンクリート構造物の品質確保小委員会」(通称350委員会)が公の活動を10月1日に土木学会でのワークショップという形で開始し、復興道路での品質確保は350委員会との連携で加速されていくこととなった。12月1日には仙台の宮城県建設業会館にて、300名近い聴衆のもと、品質確保の勉強会が開催された(プログラムは連載第11回を参照)。筆者の研究室の計測チームが、11月28~29日に南三陸国道事務所管内で行った品質の調査結果も発表した。トンネルの覆工コンクリートに関しては、前述の田老第六トンネルで活躍した八巻氏と、南三陸国道事務所管内の八雲第一トンネル等で中流動コンクリートやフライアッシュも活用して品質向上にチャレンジした熊谷組の監理技術者の野々村嘉映氏が発表を行った。多くの聴衆に産官学が協働しながらの品質確保のダイナミックなチャレンジが共有され、エネルギーが現在進行形の現場に持ち帰られたものと想像する。2014年度は、現場での覆工コンクリートの実践に火が付いた年であったと言える。

 規準書も無く、現場や講習会の情報が先行する形で品質確保が進んできたが、2015年度に入り、いよいよ取組みの哲学や手法を品質確保の手引きという形の規準書に取りまとめる必要が出てきたのである。