道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑨

「コンクリート構造物の品質確保の手引き(一般構造物編)の制定 -走りながら考える-」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 

細田 暁

公開日:2016.06.01

4. 手引きの概要と特徴

 以下に、東北地方整備局が2015年12月に通知した、「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(橋脚、橋台、函渠、擁壁編)」の目次構成と概要を示す。

 この手引きは、東北地方整備局の発注する品質確保のための試行工事の施工段階で活用されるものである。ただし、構造物の耐久性は施工段階の努力だけで確保できるものではないため、東北の条件を十分に踏まえた上で、設計、施工、維持管理の各段階で、耐久的な構造物となるための努力を行う必要性を冒頭に記している。
この手引きは、橋脚、橋台、函渠、擁壁を対象としたものである。トンネル覆工コンクリート編は2016年5月に東北地方整備局から別途通知されており、この連載の後続回で取り上げる。また、南三陸国道事務所管内で「RC床板の耐久性確保の手引き(案)」や「ひび割れ抑制のための参考資料」も通知されており、これも後続回にて紹介する予定である。
 施工段階における品質確保の具体策として、施工状況把握チェックシートと表層目視評価法を活用した施工の基本事項の遵守により、「均質かつ密実で一体性のある」コンクリート構造物を目指すこととしている。そうでないコンクリート構造物が打込みにより出来てしまった場合、必要に応じて補修することになるが、不具合が適切に補修されたとしても、当初から適切に施工された構造物の性能には及ばず、劣化の起点となる恐れがある、という考え方を示している。「均質かつ密実で一体性のある」コンクリートの構築は、東北地方に限らず、全国で達成すべき目標であると筆者は考えている。そのための手段はこの手引きに挙げられたものに限らないが、コストと実効性等を勘案して適切な手段を講じる必要があろう。
 この手引きでは、東北地方の劣化の実態を鑑み、努力目標ではあるが、追加養生の実施により緻密性の向上を目指す構成とした。さらに、表層コンクリートの緻密性の評価を非破壊試験により行う先進的な内容も盛り込まれた。非破壊試験による評価方法については、本連載の次回に取り上げる。
 品質確保・耐久性確保の試行工事の施工記録のデータベース化と有効活用が、大きなチャレンジとなるが、350委員会の2016年度の大きな研究テーマの一つである。

参考文献:
1) 細田 暁,小松 怜史,中川 恵理,佐藤 和徳: コンクリート構造物の品質向上の取り組みと非破壊試験による効果の検証,コンクリート工学年次論文集,Vol.37,No.1,pp.1273-1278,2015
2) 笠信太郎:ものの見方について 西欧に何を学ぶか,市民文庫,河出書房,p.191,1951.3
3) 細田 暁,二宮 純,森岡弘道,阿波 稔,田村隆弘:施工状況把握チェックシートによるコンクリート構造物の品質確保と協働関係の構築,コンクリートテクノ,34巻,5号,pp.63-82,2015.5
4) 坂田 昇・渡邉 賢三・細田 暁:目視評価に基づくコンクリート構造物の表層品質評価手法の実績と調査結果を反映した表層品質向上技術,コンクリート工学,52巻,11号,pp.999-1006,2014.11

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」
①寺小屋から全国へ それはコンクリートよろず研究会から始まった「コンクリート構造物の品質確保とコンクリートよろず研究会」
② 山口県のひび割れ抑制システムの構築 -不機嫌な現場から協働関係へ-
③「ひび割れ抑制システムから品質確保システムへ -施工の基本事項の遵守と表層品質の向上-」
④「施工状況把握チェックシート -品質確保の効果と協働関係の構築-」
⑤「目視評価法 -品質向上の必殺技-」
⑥山口県の品質確保システムの課題と今後の展望 -地道な取組みを続ける-
⑦寒中コンクリートを用いる構造物の品質確保
⑧復興道路の耐久性確保の土壌づくり -施工状況把握チェックシートと目視評価を活用した試行工事-

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