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シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」⑤

「目視評価法 -品質向上の必殺技-」

横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
准教授 
細田 暁 氏

3. 目視評価法にとっての転換点と根底の意義

 先にも述べた2012年12月末の山口県の構造物群の目視評価法を用いた調査結果からも、ひび割れ抑制システムの運用の前後で、結果に顕著な違いがあることが明らかとなった7)。この結果は、山口県の施工の基本事項の遵守の効果を証明することにもなったが、東北地方整備局の品質確保を開始していく際に目視評価法を活用していく決断をする決定的なきっかけにもなったと考えている。

 従来、竣工検査で合格とされていた構造物の中にも、目視評価で対象とする品質の観点ではばらついていたのが実態だったのである。その実態を直視し、それぞれの現場で使用する材料、工法と現場の人員で達成し得る最高品質を4点として、最高品質を達成できるように、またはそれに近づけるようにしようという取組みである。

 山口県の構造物群の調査の意味するところは、ある意味では「過去を否定した」わけである。それぞれの竣工検査は合格してきた構造物であるが、過去の結果に満足しなかったが故にシステムを構築した山口県の構造物でのbefore/afterの評価に使ってみた。過去の構造物に失格の烙印を押すのではなく、現在および将来の我々は現場ででき得る最高品質を目指そう、と明るく過去を否定したのである。行政とはなかなか新たな取組みを開始しにくい組織でもあり、なぜ今さらコンクリート構造物の品質にこだわらなければいけないのか、という反応を示す組織がほとんどである。これまでのままの造り方では何が問題なのかを認識し、明るく過去を否定して、将来に向かって協働で努力を重ねる土壌が少しでも広まってほしいと筆者は思う。

 もう一方で,重要なポイントの一つは、現状を否定しない、ということである。前段と矛盾するように聞こえるかもしれないが、目視評価法は検査ではなく、合格の範囲内で低い評価結果になったとしても、次に改善されること、改善されるための土壌を作ること、が重要であると考えている。施工時にコンクリート構造物の表面に表れる不具合は、人間のシステムの不完全性を我々に教えるサインである、と捉えるのが筆者の考え方である6)。施工の基本事項の遵守がなされていない場合もあろう。コンクリートの材料に問題がある場合もあろう。有害なひび割れが発生しないような設計になっていない場合もあるかもしれない。発注者の監督職員が本来の業務を適切に行っていないのかもしれない。いずれにせよ、コンクリート構造物の出来栄えは、人間のシステムの良し悪しを示しているものと理解し、施工時に発生する不具合を活用して、私たちのシステムを改善していくのが賢明であると筆者は考えている。

検査で求められていない品質にまでなぜこだわる必要があるのか,という考え方もあるかもしれないが,このように日本人らしく試行工事の中で品質にこだわる取組みを重ねる先に,良い構造物が造られ,かつ人財が育ち,良い仕事が適切に評価される仕組みが創られていくと筆者は確信している。今後もこうした産官学の協働でのチャレンジを粘り強く続けたい。


4. 目視評価法の様々な機関への波及と今後への期待

 目視評価法は、東北地方整備局の品質確保の試行工事で活用されたことから、今後は様々な機関へ波及していく可能性がある。東北地方整備局では、トンネル覆工コンクリート用の目視評価法が開発され大きな成果を挙げており、これは本連載の後続の回でトンネル覆工コンクリートの品質確保をテーマとして筆者が詳述する。また、寒中コンクリートにおいては項目を追加して活用しており、この内容も八戸工業大学の阿波稔教授に、本連載にて詳述していただく。

 東北地方整備局では,橋台・橋脚・函渠・擁壁を対象に、「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)」を制定し、2016年1月に通達して試行工事で活用を始める。この手引きでは、施工状況把握チェックシートや目視評価法の活用法が明記されている。トンネル覆工コンクリート版も2015年度内の完成を目指して、鋭意作成中である。

 非常に「取っ付きやすい」手法であり、我が国のみならず、アジア等の諸外国でも活用される可能性もあり、試験方法の規格化等も必要になるかもしれない。広く活用・応用され、コンクリート構造物の高耐久化に貢献することを期待している。

 最初からシステムを構築するのでなく、実践しながら、走りながら考えるのが得意な仲間が多いので、目視評価法についても実践を重ね、その社会実装を適切に実践していきたい。


参考文献

1) 坂田 昇,渡邉賢三,細田 暁:コンクリート構造物の品質向上と表層品質評価手法,コンクリート工学,Vol.50,No.7,pp.601-606,2012.7

2) 細田 暁:復興道路における新設コンクリート革命,コンクリートテクノ,34巻,4号,pp.70-76,2015.4

3) 細田暁:目視評価法を活用したコンクリート構造物の品質向上マネジメント,建設物価,1143号,pp.10-15,2014.2

4) 坂田 昇・渡邉 賢三・細田 暁:目視評価に基づくコンクリート構造物の表層品質評価手法の実績と調査結果を反映した表層品質向上技術,コンクリート工学,52巻,11号,pp.999-1006,2014.11

5) 細田 暁,二宮 純,田村隆弘,林 和彦:ひび割れ抑制システムによるコンクリート構造物のひび割れ低減と表層品質の向上,土木学会論文集E2,Vol.70,No.4,pp.336-355,2014

6) 細田 暁:品質確保と人,コンクリート工学,52巻,9号,pp.784-788,2014.9

7) 細田 暁, 坂田 昇, 田村隆弘, 二宮 純:目視評価を活用した山口県のひび割れ抑制システムによる表層品質向上の分析, コンクリート工学年次論文集 Vol.35, pp.1837-1842, 2013.7