道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第57回 工学博士・鈴木俊男から学ぶこと ‐新たな構造形式を生み出す想像力と都市土木に必要不可欠な備え‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.03.01

4. 都市土木のあり方とは

 私が鈴木さんから東京、特に市街地における土木工事についてお聞きしたことを含め、ポイントを紹介しよう。なお、私の記憶だけで述べることは誤解を招く可能性もあるので、38年前に鈴木俊男さんが書いた、タイトル『都市土木に望まれるもの』の論説を参考にする。

 私の「市街地における工事と技術のポイントは」の問いかけに対する鈴木俊男さんの答えは、「大都市、特に東京のような過密な市街地において工事を行う時、忘れてはならないことがある。それは何かと言うと、近代社会の日常生活はとても便利になっている。このような社会において、住民の求める社会基盤施設整備を行う場合は生活を阻害しない効率のよい施設を、住民の取り巻く環境を乱さないように努めて建設、維持することが必要なのだ。髙木君も分かるように、騒音や振動の問題は、都市、特に市街地においては常に住民の苦情の種の一つとなっている。そして、この問題は都市における『公』と『個』の利益衝突の典型的な公害事例として、数多くマスコミを賑わしてきている。これまでの自分の経験では、軟弱地盤における工事は騒音と振動が加重されることから、これが思わぬ工事障害のもととなったことも多かった・・・」。
 このような話をされ、そして、「都市における基礎工事の中には公害対策にばかり目が奪われて、基礎を施工する本質を見失っているように見えるものもでてきている。低公害工法を含む新工法に関して、最初のうちこそその施工方法を良く理解していて、例えば杭基礎なら打ち込まない工法を採用した場合でも、打ち込み杭工法と同程度の支持力が得られるように丁寧に施工していたように思う。それが、時間が経過し、施工方法などに慣れるに従って、数多い施工事例の中には初期の目的や注意事項を忘れ、騒音や振動などの公害項目を少なくすることに注視し、住民の苦情回避策のみに努力を集中する傾向が出てきた。・・・」。
 当時、我々現役行政技術者や民間技術者に対する思いを伝えたかったのだと考える。加えて、厳しい口調で「こんなことで良いのか?君はどう思っているのか?だめだぞ、技術の習得は日々の努力の積み重ねだぞ」と話し、次に「施設整備の工事を開始したら、住民側と約束した施工手順と時間を厳守しつつ、住民にある日突然工事が始まったといった印象を与えないようにすることが大切なのだ。それには、工事発注者や請負業者自らが強固な基礎を築造するという基礎工法の本質を十分に理解し、自信を持って工事に当たることしかない。忘れてはならないのは、住民対策のためと称して工法の重要部分をいい加減にやってしまうようなことは、決して行なってはならない。都市土木においては、施工者が最適と選んだ工法に確信を持つことが最も重要なのだ」。また、「都市土木における施工方法と機種の選択だが、近年は施工機械の開発、改良が進むにつれて新工法が次から次へと世に現れ、どれがよいのか選ぶに迷うくらい増加している。新工法を広告するあざやかなパンフレット類では、性能表示は多少オーバーになるのが通例で、その工法の良い面だけが強調される傾向がある。
 発注者がパンフレットだけを見て工法や管理方法を判断すると、それが、いかにも万能な工法のように錯覚してしまうことになる。現実にはそんなにうまい工法は存在しないのであって、どの工法でも地盤条件や施工条件に応じて限界があり、適、不適は避けられない。特に都市土木では、施工途中で障害にあい、事故が発生するなどによって一度つまずくと、立て直し容易でないことが多い。注意すべきことは、やたらと新しいとか経済的であるとの理由だけで新工法を採用することは、土木技術者として厳に慎まなければならない。橋梁を事例に全体を話しているが、分かっているのか君は、大丈夫か」。以上、奥様の入れた『ココア』が全く甘く感じない話であった。
 私自身、それ以降は、都市土木、特に新工法や材料等の選択において、鈴木俊男さんが話す注意事項を肝に命じ、種々なことを運ぶように努めているし、学生にも話してきた。鈴木俊男さんは、新たな技術や施工機械を軽んじているのではないし、これから行う数多くの都市土木において、新材料や新工法が『切り札』となることを何度も話をされていた。そして最後に、「どんな工法でも考案されるからには、それなりの背景があって世に出てきたのであって、その辺の事情を調査することが重要なのだ。他の現場における実績から適用範囲を綿密に検討して適当と判断したら、その時は思い切って新材料や新工法を採用する勇気もまた大切だぞ。しかし、そうやって踏み出した時、新工法には往々にして、その信頼性や施工性に対して公的機関のフォローが無い場合が多々ある。採用に当たって、その点には十分注意しなければならない」とも話していた。私は、ここで文章化した内容は、我々技術者に対する鈴木俊男さんからの提言と理解している。と同時に、私からの読者の方々への提言でもある。

5.おわりに

 外かん道路整備事業のシールド工事を原因とする路面陥没事故は、我々技術者の多くに反省を促し、机上の空論とも思える種々な技術論や施工法及び管理技術に対し、警鐘を鳴らしている。また、鈴木俊男さんを始めとして偉大な先人達は、全ての事柄に想像力、倫理観が必要であることを何度も説き、真の姿を追い続けることの重要性を述べている。 

 私が今回説明したことは、橋梁に止まらず、最新土木技術や都市土木の有り方等幅広い。技術者に求められる必要不可欠な能力とは、私が良く引き合いに出す、広中先生の言葉に『独創とは』があるが、正に的を射ている格言であると私は思う。技術者には、目的を持たずに広く学び、そして、ここぞと言う時に打って出る勇気が必要であり、この二つが無いと独創力は生まれず、生かされないと言うことである。外かん道路に採用されたシールド工法の施工においては、初心を忘れたのではないであろうか? 初めてシールド工法を採用した時の緊張感は何処にいったのであろうか? 想像力、独創力を働かせたのであろうか? 全てに言えることではあるが、慣れは禁物、自らの誤りであることを分かっているのに、その場しのぎの言い逃れは見苦しい。倫理観が欠如している。
 何度も警告するが、このままの体制、思考回路で進むならば、住民や国民の信頼回復は厳しいし、それは茨の道が限りなく続くことを肝に銘じなければならない。それでは、次回、喜びの私の発言があることを望み、3か月後にどのようなことを書くかお楽しみに、こうご期待あれ。(2021年3月1日掲載、次は6月1日に掲載予定です)

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