道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊵

東北地方整備局の品質・耐久性確保の取組みの現状と今後必要となる対応

日本大学
工学部 上席客員研究員

佐藤 和徳

公開日:2020.11.19

1.取組みの現状

 東北地方整備局は、東日本大震災からの復興のリーディングプロジェクトである復興道路・復興支援道路の整備に並行する形で、コンクリート構造物の品質・耐久性確保に取り組んできた。この取組みは産学官連携で既設構造物の点検結果を分析し、劣化の種類や発生原因、対策の検討、試行工事による対策の効果の検証、水平展開するための技術基準の策定をPⅮCAサイクルで行っており、従来の点検結果が主に既設構造物の補修に活用されていたものを、新設構造物の改善に応用している。(図-1参照)
 東北地方はそのほとんどが積雪寒冷地域であり、冬期には凍結防止剤を大量に散布している。このため、東北地方のコンクリート構造物の点検結果を分析すると、低品質により早期に劣化している上に、凍害、塩害、ASR(アルカリシリカ反応)、RC床版の砂利化などの劣化が確認されている。東北地方整備局は、これらの課題を順次解決しながら、コンクリート構造物の品質・耐久性確保を図ってきた。(図-2参照)この結果として、産学官連携により、試行工事用の技術基準も多数策定しており、これらは東北地方整備局のホームページで公開されている。(表-1参照)

 これらの成果の一例として、コンクリート構造物の品質確保の事例を紹介する。コンクリート構造物の品質確保については、山口県で活用されているコンクリート構造物の施工の基本事項をチェックシートの形でA4一枚にまとめた「施工状況把握チェックシート」を打設時に使用し、脱型後、不具合の種類と程度を目視で評価する「表層目視評価」を使用して不具合の種類や程度を評価し、不具合の改善が必要であれば、施工方法を見直して次の打設リフトで不具合の改善を図るPⅮCAサイクルにより逐次品質が改善されることを期待した手法が取られている。この品質確保の仕組みを活用した結果、同一橋台、同一施工者で、第1リフトでは型枠継ぎ目のノロ漏れ、打重ね線やブリーディングの這い上がりなどの不具合が見られたものが、最終リフトではこれらの不具合がほぼ解消されるという好事例が見られるようになった。(写真-1参照)

 一方で、コンクリート構造物の品質・耐久性確保の試行工事は、太平洋側の復興道路・復興支援道路の工事現場で行われおり、日本海側の工事現場ではほとんど行われていない。すなわち、コンクリート構造物の品質・耐久性確保のための様々な技術基準等は、東北地方整備局管内に十分に浸透しているとは言えない状況となっている。
 それでは、東北地方の日本海側の県の20余りのコンクリート構造物の品質を調査した結果の一部を紹介する。写真-2は、2010年に施工された橋台である。ひび割れ誘発目地を入れているにも関わらず、温度応力ひび割れが発生している。また、橋台角部にひび割れが入っている。恐らくPコンの沈みひび割れどうしが角部で一体化したものと思われる。この橋台では、全てのPコンに沈みひび割れが見られている。このように施工由来のひび割れが発生し、表面気泡も比較的多い事から、全体的に締固め不足となっていると思われる。

 写真-3は、2020年に施工された函渠である。明瞭な打重ね線が見られ、ブリーディングの這い上がりも模様として残ってしまった。また、打重ね線に沿ってひび割れが入っているのが確認された。これらの不具合は、ブリーディングの処理が不適切なことから発生していると思われる。2020年施工の他の構造物でも、2010年施工の橋台のような全体的に締固め不足という構造物は見られなかったが、やはりブリーディングの処理に苦労していることがうかがわれた。また、復興道路等で見られた打設リフトが進むにつれて、不具合が減少し良好な品質が確保されているような事例は、今回調査した日本海側のコンクリート構造物には見られなかった。
 上記のように、東北地方の日本海側のコンクリート構造物では、良好な品質が確保されていない場合があり、東北地方全体にコンクリート構造物の品質・耐久性確保の取組みを今以上に浸透させ、定着を図っていくことが必要となっている。

2.取組みが浸透しない原因

 ここで、コンクリート構造物の品質・耐久性確保の取組みが、なかなか浸透しない原因と思われるものを筆者の経験から述べてみたい。
 発注者は総じて保守的で、なかなか自分から新しい事に取り組むという事がほとんどない。これは、発注者自身が新しい事に取り組む「必要性」や「緊急性」を感じていないためである。コンクリート構造物の品質・耐久性確保について言えば、新設構造物の工事を発注するまたは監督する職員が、既設構造物で起きている低品質、凍害、塩害、ASRや床版の砂利化という問題を認識していないために、コンクリート構造物の品質・耐久性確保の「必要性」や「緊急性」が理解できないのである。
 工事発注後に、監督職員が新たにコンクリート構造物の品質・耐久性確保に取り組むように言われても、既に全国的に運用されている品質管理基準等があり、それで十分という認識のため、今更なぜ新たに品質・耐久性確保が必要なのだという想いが先に立って、従来通りのことしか行わないという対応になりやすい。

 コンクリート構造物の品質管理の現状について考えてみたい。図-3は、生コンの製造、運搬、荷卸し、施工、施工後の各段階で、主に現行の品質管理基準に記載されている事項を抜粋し、図にまとめたものである。荷卸し時の受入検査の項目や施工後の項目はいずれも品質管理基準に規格値が設けられており、合否が一目でわかる。このため、品質管理基準の規格値に目が行って、コンクリート構造物の品質を決める一番大事な施工段階に監督職員が立会する事は少ない。これは、契約書に施工方法は受注者の責任で定めることが明記されているため、監督職員が立会する必要性は薄いと解釈している可能性がある。
 一方で、如何に施工方法は受注者の責任施工と言っても、どんな施工方法でもよいというわけではない。土木工事共通仕様書の共通編、3章無筋・鉄筋コンクリートに記載されている打設や締固めなどの共通仕様の抜粋を表-2に示す。コンクリート標準示方書の施工編に記載されている施工の基本事項がほとんど網羅されていることがわかる。共通仕様書の内容は、特記仕様書で打ち消されていない限り、契約事項となっているため、受注者は共通仕様書に定めてある事項を遵守した施工方法をとらなければならない。しかしながら、品質が確保されていないコンクリート構造物が出来てしまうのは、共通仕様書に記載されている事項が適切に遵守されていないことを示している。

 このように、発注者側がコンクリート構造物の品質・耐久性確保に消極的で、受注者側も品質確保を意識した丁寧な施工に消極的なために、低品質のコンクリート構造物が造られ続けるという悪循環が生じていると言える。

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